在庫管理の目的と目標設定

2021年12月5日更新

在庫管理の目的とは「必要な資材や製品・部品を、必要なときに、必要な量を、必要な場所へ供給できるようにすること」といえます。ではこれを達成するのに必要な目標設定はどのようなものが適切でしょうか。目標とされる在庫金額や回転率一つとってもいろいろな意図があります。本稿ではこの内容について少し掘り下げてみたいと思います。

在庫がなくても欠品しないのであれば在庫はないに越したことはありません。それでも持たないと納入ができない、業務がまわらないという事情のものについて、在庫が増えすぎたり減りすぎたりしないよう適切な水準を保つことがひとつの目標となります。また同じアウトプットなら、より効率的に実現できるほうを選びたいところで、人、モノ、金、情報のいずれの経営資源についても最も効率的に使う方法を選択するというのも目標たりえます。こう考えると、目標のバリエーションはかなり増えてきます。何をKPIとすればよいかは、会社なり部門なりで立てている目標や目的、何を実現したいのかという部分につなげていく必要があります。

目的と目標の関係

実は、在庫管理において「目標設定」というのはかなり重要な内容で、これ如何で在庫の運用方法から基準在庫設定にいたるまですべてに影響してきます。在庫を何とかしたいのであれば、まずは目標設定の吟味から始めていく必要があります。

「目的」とは目指す方向や後工程やお客様にどうなってほしいのか、何のためにやっているのか、これをやるとどのような効果があるのかという中長期的な目線で明確にされるべきものです。抽象度がやや高いといってもよいかもしれません。これに対して目標とは「いつまでに」「どのレベルまで」目的に近づくのかを明確にするための指標です。目指す方向が目的としたら、目指す地点が目標です。期限が定まっていることが多く、目標を達成すると目的に近づいていく、という関係が成り立ちます。

こうしたことから冒頭で述べた目的の達成度を示す具体的な内容を示せるものが目標となります。

目標設定前に、在庫ありきで物事を考えているとするなら、まずはじめに在庫をなぜ持つのか、在庫なしでまわせる方法はないかという点を吟味して保有するか否かの判断をする必要があります。というのも、業務実態として持たざるを得なくなっていることと、持たなくてよい環境でも持つべきものなのかという点はまったく別の問題だからです。

持たなくてよい環境でも在庫を持つべきという発想を持っている場合、在庫管理や在庫適正化、在庫低減の考え方も根本的に異なってきます。ここでは実務に即し「在庫がなくてもまわるなら無いほうがよい」というスタンスを通します。そうはいっても結局必要悪として持たざるを得ないのだから同じではと思われるかもしれませんが、目標設定の在り方が根本的に異なってきます。

在庫を持つという判断の事例を列挙すると、次のようなものがあります。総じて、「リードタイムが不足する」と「生産の都合」という理由に収斂していきます。

  • 客先受注から納入までのリードタイムが不足する
  • 仕入先や工場への納入指示から指定場所までの納入リードタイムが不足する
  • 客先手配や納入先からの指示が内示情報や需要予測、販売予測に比べて大きく変動する。その変動に対応するためのリードタイムが不足する
  • 製造上、注文やその変動情報を受けてから生産したのでは間に合わない
  • 生産ロットの関係で受注数以上の生産が必要な場合
  • 生産能力が不足する月があるので先行で生産して在庫しておく
  • 設備・金型の移設や故障が頻発する等で一時的に工場生産ができない期間がある

いったん在庫を持つ、と決まったら今度は基準在庫、安全在庫をどの水準で持つかという検討を行うことになりますが、順序は会社によって異なる部分があるにしてもおおむね新しい製品の在庫運用や取り回しを検討する場合、以下の内容を詰めていく必要があります。

在庫を持つと決めたらやること

  • 在庫場所の決定
  • 保管方法の決定
  • 入出荷(受発注のタイミング・方法等)取り回しの決定
  • 出荷方法や出荷便の決定
  • 安全在庫や適正在庫の基準設定

在庫管理における目標設定とは

在庫管理の目標設定するということは到達レベルを明確にするということでもあり、その際に役に立つ考え方をご紹介します。これはトヨタの自工程完結の考え方によるものです。

1.今までの目的や目標値が設定されているなら、現在と過去の目標の結果とギャップを調べる

まったく目標が設定されたことのない在庫管理の現場ならいざ知らず、通常は何らかの目標値や指針、方針が設定されていますので、その内容と実際とのギャップを調べてみると設定すべきポイントやレベルがどこなのかあたりをつけることができる場合があります。

2.社内の上位の目標と整合性をとる

社内や部門での目標と連動させる必要があります。在庫がいくら増えても構わないという方針にもかかわらず在庫低減という目標を設定するわけにはいかないためです。在庫管理を行う部門の役割や目的、期待されていることは何か、ビジョンはといったことを明確にして考えていくとよいでしょう。

上場企業の場合はその多くがROA(総資産利益率)を設定していますので、こうしたものも上位目標となることがあります。

3.現状のレベルを把握する

まったく実現不可能な目標を設定するわけにはいかない為、現状の在庫レベルがどのようなものか一通りデータを集めて分析しておくとよいでしょう。回転率を倍にしたり、在庫金額を半減させるようなことは通常短期間では難しいです。

4.制約条件を確認する

在庫の場合、保有可能なスペース、発注方式やロット、リードタイムなど目標設定に当たって加味しなければならない種々の制約条件があります。大掛かりな在庫管理コスト低減のために、自社内の倉庫を外注へ変更する、あるいは逆に自社内で倉庫を建設し運用するといった内容は制約条件のなかで行う必要があります。

また、在庫管理においては欠品が許されない現場が多いですが、そうなると欠品するリスクをとる目標設定はできないということになります。これも制約条件です。

5.最終的なエンドユーザーまでのつながりを理解する

目先の目標を達成しても、最終的なユーザーのデメリットになるようなものだと長続きしませんし、どこかで歪みが出てきます。在庫管理で設定した目標が最終的にどのような良い効果を生み出すのか、エンドユーザーに至るまでに流れを書いてみて検討するのも一つの方法です。これは自分のやっている業務のすぐ後の工程だけでなく、その先を見るとより有用な目標設定につながる可能性があるということです。

6.QCDの観点からも検討する

QCDとは以下の項目ですが、その特徴はいずれも数値で表しやすいという点です。

  • Quality(質)
  • Quantity(量)
  • Cost(コスト)
  • Delivery(納期)

在庫管理はQCDいずれにも影響する部分があるため、この観点は使いやすい指標の一つです。在庫の量や金額はQuantity(量)として、Cost(コスト)は在庫金利、Quality(質)は回転率であったり、不動在庫化率であったりといった指標が該当します。Delivery(納期)はサービス率や欠品率(客先のオーダーに対してどれくらい応えることができているか)で見ることができます。

7.他社等のベンチマークと比較する

同業他社や異業種など他社で使用している棚卸資産回転率等の指標と比較検討する方法です。同業他社の平均値等を見ると在庫に対する経営の考え方の違いが色濃く見えてくる場合もありますが、その平均から突出した目標設定はなかなか無理があることも多く、参考値として活用することもできます。

業種別の在庫回転期間(何か月分の在庫を持っているか)については、在庫回転期間の業種別目安と計算方法でもまとめていますのでご参考までに。

在庫目標設定の例

在庫にまつわるKPIには複数のものがあり、それらを目標として設定する場合どのような点に注意すべきかワンポイントを記載しました。

在庫は企業経営の指標においてあまり目立たず重要でもないと考えられる方もいますが、流動資産のなかの棚卸資産として、時に利益を大きく左右する要素を持つ勘定科目でもあります。

「在庫はどのみち必要だから」という理由で目標をきちんと設定されていないケースもままあります。たしかに在庫金額はそのままだと、一体利益にどのように影響しているのか経理や会計にかかわる方以外には見えづらいものです。しかし在庫が増えすぎた代償は、財務諸表の中には必ず見えてきますし、減益要因にどこかでつながってきます。

在庫金額

最もオーソドックスな目標の一つです。ただし在庫金額は売上が増えれば上がっていく傾向があるので、この金額だけを単独で目標にするのは危険です。売上とともに変動するのであれば、そもそも在庫管理における頑張りや努力といったものが反映されずコントロールができないということになります。

仕入金額

在庫金額とほぼ同じ意味ですが、調達部門などが指標として管理していることがあります。こちらも上記と同様に、売上増に比例して増えますので、金額を単独で目標設定することにあまり意味はありません。

売上/在庫金額(棚卸資産回転率=在庫回転率)

売上が増えるとそれに応じて在庫金額も増えるという理屈にかなった目標の一つです。出荷金額(売上金額)÷在庫金額で計算できます。ただしこの場合、売上なので赤字品などの比率が高くても気づけない問題があります。在庫回転率は数字が大きいほど高回転であるため、在庫効率の良い経営をしているという判定につながります。

また、棚卸資産が1年で何回転しているかを示す経営指標の一つですが、在庫に活用する場合、含める棚卸資産を明確化する必要があります。また、期間の設定には注意が必要で、経営指標上は年間で見ればよいですが、日々の管理実務では少なくとも月次での回転率についても抑えておく必要があります。

このため、単に倉庫で管理している在庫品の個数ベースでの回転率というシンプルな目標にして使っているケースもあります。この場合は、「月間出荷個数/月末在庫個数」の計算で在庫回転率を見ることができます。

在庫回転率を見る場合、売上÷在庫の基本形式は変わりませんが、年間売り上げを使うのか、売上原価を使うのかという違いと、在庫金額を2期の平均を使うのか、当期末の在庫のみを使うのか、当期の平均を使うのかというバリエーションが存在します。

  • 年間の売上/期末棚卸の在庫金額
  • 年間の売上/前期末棚卸と当期末棚卸の在庫金額の平均
  • 年間の売上原価/期末の在庫金額
  • 年間の売上/当期平均在庫金額

在庫回転期間(棚卸資産回転期間)

在庫を何日分(何か月分)持っているか、あるいは在庫がすべて入れ替わる、つまり1回転するのにどれくらいの期間がかかるかを示した指標です。在庫回転率が1年間に何回転するかを示すものに対して、こちらはその逆数となります。在庫回転期間が小さいほど優れた在庫管理を行っているということになります。

通常は、期間を月で表現するか、日で表現するかの2択になります。

  • 在庫回転期間(月)=平均在庫金額 ÷(年間出荷金額÷12)
  • 在庫回転期間(日)=平均在庫金額 ÷(年間出荷金額÷365)

例えば、在庫回転期間(月)が0.4となっていた場合、0.4か月で1回転する、つまり在庫がすべて一度回転して無くなり入れ替わるということになります。ここが1となっていれば、1か月でちょうど1回転するということになります。

実務上の管理では品目ごとやカテゴリーに分類した在庫ごとにこれらの指標を管理して、トータルで目標にあうように調整していくことになります。

売上利益/在庫金額

総資産利益率(ROA)に似ていますが、ROAが総資産を分母にしているのに対して、こちらは棚卸資産=在庫だけを対象にしています。粗利や総益といった利益に対して在庫金額がどれくらいかを示す指標で、より会社の業績への貢献度が見えやすい指標です。目標をROAにすると在庫以外の資産の影響が効いてくるので、在庫管理部門では扱いにくいという課題があり、この在庫金額と利益の比率のほうが目標値としては使いやすいかもしれません。またROA達成のために在庫管理を行う部門が貢献できる部分を目標値として明確にするという意図があります。

ただし難点もあり、在庫管理を行う部隊は利益率の高い製品を扱うか否かには一切関与していない為、営業部門の方針でやたら利益率の低い製品ばかりが増えるとこの指標も一気に悪化します。これは在庫管理の巧拙や努力には何の関係もないため、出荷が増えたから在庫も増えたという図式が単純に成立しないことがあります。出荷が増えて在庫が増えたが利益率の低い製品の比率が上がったのでこの指標が悪くなった、ということに対して実務面での関与が難しいという問題があります。

欠品件数(サービス率、欠品率)

顧客や工場などの要求に対してどれくらい応えることができたかを示す指標です。サービス率100%、欠品率0%なら、顧客要求に対して在庫不足が要因の遅延や欠品がまったく発生しなかったということを意味します。

会社によっては、実際の出荷に対して欠品する指標と、集荷時に欠品が判明した件数を分けて管理することもあります。集荷時の欠品は、チャーター便などを駆使して顧客への納入遅延を回避できる場合もあるためです。

安全在庫の計算の際には、この指標をうまく使わないと在庫過多の要因にもなります。

錆や倉庫内の転倒などの物流不具合件数

在庫の現物管理がいかにうまくできているかを示す指標です。中には不可抗力のものもあるでしょうが、保管や在庫移動に起因するトラブルや不具合をなくすという発想です。在庫管理というよりは倉庫管理に近い業務のため、在庫目標として設定されることは稀かもしれません。

総資産利益率(ROA)

計算式としては下記で割り出されます。

  • ROA = (利益÷総資産)×100

同じ利益なら資産の一つである在庫が少ないほうがROAは高くなります。逆に言うと、利益が同じなのに在庫だけ増えると、ROAが悪化し、その企業は資産(資本)を効率的に使って利益を出す力が低いということになります。

ただしこの指標を在庫管理にそのまま使うのは、総資産に在庫以外のものが入ってしまうため、実務ではなかなか使いにくい部類です。

総資産には在庫=棚卸資産のほか、現金預金、受取手形、有価証券、貸倒引当金といった流動資産、土地建物・設備・治工具、特許権、借地権、のれん、関係会社株式や出資金といった固定資産が含まれます。

在庫以外の他の資産の増減が起きればそれがROAに影響しますので、これが在庫管理そのものに使うのが難しい理由です。

在庫管理費

在庫の保管や入庫、出庫にかかる年間のコストを一定の範囲内におさめるというものです。在庫場所が増えすぎたり、在庫管理コストの増大を抑制する狙いがあります。物流費の一部とみなす場合は、在庫管理の目標には入らないことが多いです。

在庫保有コスト

在庫を保有することで発生するすべてのコストです。通常、%の形で表され、例えば在庫保有コストが8%といった場合、在庫金額に対して8%は在庫の保有・運用にかかるコストということが言えます。ひとつ1000円の品物であれば、80円が在庫保有コストということができますし、全体で見ても、例えば100億の在庫があったら、8億が在庫保有にかかるコストという試算ができます。

在庫保有コストの考え方は在庫金利の考え方で詳しくご紹介しています。

在庫保有コストを落とすには、金利の部分以外では保管費の低減や不動在庫化率の抑制がうまくいかないと実現しません。

在庫日数

現在の需要予測に対して何日分に相当する在庫を持っているかという指標です。在庫回転期間と同じ意味合いですが、こちらはある1日の時点で在庫日数が何日分あるかという管理に使うものとなります。例えば今月が20日稼働で1000個の需要予測に対して200個の在庫を持っていれば、1000200÷(1000÷20)=4日分の在庫を持っているということになります。

在庫補充発注量を決めるときなど実務では多用される指標ですが、需要予測や実績が下がると在庫日数が大きく上がってしまい、在庫管理以外の外部要因に結果が大きく左右されてしまう問題があります。

不動在庫・膠着在庫の金額

不動在庫や膠着在庫を一定以下の金額に抑えるという目標です。言い換えれば、回転率が低いものの在庫金額を抑えるということでもあります。

期中の評価損・評価減発生金額

これは上記の不動在庫を在庫金額の評価減対象としている場合、重複してしまうのですが、「損失」として計上する在庫金額を一定範囲内におさめようとする目標です。

陳腐化してしまったり販売見込みがなくなった在庫は、その金額的な価値を減らすことが会計基準で定められており、不動在庫、膠着在庫というのはすべからくこうした評価減の対象になります。

購入時は100万円の評価額だった在庫金額が、0円になるというような処理です。発生した−100万円は損失として計上されるため、会社の帳簿に影響していきます。

現物在庫と帳簿差異、いわゆる棚卸時の出欠の撲滅

棚卸における出量と欠量とは、帳簿上の在庫金額よりも実地棚卸の金額が多かったり、少なかったりする問題は、社内の仕組みに何らかの穴があったり問題がある場合に発生します。この出欠を極力なくすという目標値で、在庫運用にあたっては正しい在庫数を知ることができるというのが条件の一つとなりますので、重要な目標ではあります。

在庫面積やパレット等の物量

倉庫における在庫品の総パレット数や箱数、専有面積を目標にする場合です。需要予測に比べて売上が増加すると在庫は増えますので、達成如何が在庫管理手腕の要因だけではない点が難点です。

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