在庫の廃棄ルールについて

2021年12月25日更新

在庫を廃棄するルールは、膠着在庫や不動在庫を処分する上で不可欠なものです。これがないと合理的な方法や基準がないことになります。そうなると捨てすぎるか残しすぎるかしても基準がないため、倉庫を圧迫し管理費や管理工数が増えるか、欠品を引き起こす可能性もあります。また、個人でも販売できてしまうような一般消費財等の場合は、従業員による在庫の中抜き・転売(廃棄したことにして在庫品の着服)といった不正も防がねばなりません。

廃棄のためのルールの必要性

こうした捨てなくてはならない在庫の発生を未然に防止することこそが一番重要なのですが、現実的には膠着を発生させないことは至難の業で、すべての材料発注が注文を受けてから行うというものでもない限り、一定の割合でマーケットの需要変動の影響を受けて膠着在庫は発生してしまいます。

したがって定期的に在庫を整理して不要となった在庫を見つけ出して廃棄していくのはある意味必要悪ともいえる業務になります。膠着在庫の未然防止がうまくいかなかった場合の事後処理でもあります。

この際、担当の勘や気分で捨てていくと本来必要なものを捨ててしまったり、そこまで残す必要もないものまで多く残ってしまったりちぐはぐな運用となってしまいます。ルールを決めて行うことでだれでも同じ基準で業務ができるようになるメリットがあります。

また在庫を廃棄すると、「廃棄損」として計上することになりますが、これは利益が多く出た年度のときに計上して利益操作を行い、課税を逃れようという不正に悪用されることもあることから、なぜ廃棄したのか、また廃棄したことの証明を残しておく必要があります。この「なぜ廃棄したのか」の部分において、ルールを制定し適正に運用していくことは不正の防止やあらぬ疑いをかけられることの防止にもなります。

廃棄したことの確認とその証明を残しておくことは従業員による在庫の転売や盗難といった問題に対しても有効です。

ルールとして必要となるのはおおむね次の3点です。

  • 廃棄するための申請手続き・承認・決裁方法
  • 承認・決裁済みのものをいつ廃棄するか、廃棄したものの確認と証明
  • 廃棄申請できる基準と個数

廃棄すべき時期

出荷や販売の見込みがなくなった在庫を保管しておくメリットは何もなく、デメリットしかありませんので、通常は見つけ次第社内手続きを経て廃棄していくことになります。在庫を残しておくとかかるコストについては、在庫金利の考え方と計算方法でもご紹介しています。重要なのは、在庫は購入したときや廃棄したときだけでなく、在庫コスト自体は毎日かかっているという点です。

よくあるのは棚卸前に駆け込みで大量に廃棄するという事例です。在庫のノルマが課せられている場合、帳尻を合わすために決算前は特に在庫を絞り込む必要があって、慌てて捨てるというケースです。

これは、カウントや計上ミスにもつながるリスクがあったり、廃棄の申請から実行までに十分なリードタイムが確保できなかったりといった場合、廃棄済みであるはずのものが棚卸の際の在庫に計上されてしまったり、逆のことも起き、棚卸時の出欠に影響する可能性がありますので、こうした観点からも日頃の管理をおすすめいたします。

在庫の廃棄をすると棚卸資産廃却損として計上することになりますが、在庫そのものの価値が低下しても棚卸資産評価損として計上し、在庫の現時点の資産価値に近い金額まで評価額を落とさなくてはなりません。結局、在庫が陳腐化して安くなってしまったり、価値がなくなったりすると廃棄云々以前に、価値がなくなるので在庫を持つだけ損という事態を招きます。

こうしたことから廃棄ルールの基準を明確にしておくことは大切ですが、どのようなルールにしても完璧なタイミングで廃棄するのは困難であるため、その辺りは割り切って行うしかありません。結果論で、読みが外れてあのときここまで捨てなければよかった、あるいは逆にもっと捨てておけばよかったというようなことが割と起きるというのはある意味仕方のないことなのかもしれませんが、失敗からまたよりよいルールへ変えていくことはできます。

在庫廃棄ルールの事例

具体的にどのようなルールに基づいて廃棄すべきかいくつか例をご紹介します。

稟議書での決裁権者の決定

ほとんどの会社では、会社の資産たる在庫を捨てるのには一定の手続きを経る必要があります。もしなければ、稟議書で自部門や他部門の承認や決裁を経てから捨てる、というルールをまず作るべきです。

管理責任者や決裁権者の承認や決裁なしで捨てられるようにしておくと、会社の財産が知らないうちに捨てられたり転売されても気が付かないということになります。担当者に大きな裁量権を与えている会社は特に注意が必要です。また営業在庫など、営業部門が管理する在庫についても販売目標を達成しておけばよいというような風土だとどのような在庫処分を行っているかの確認は売り上げ目標に比べて優先順位が低く見落とされがちです。

決裁がおりてからどれくらいで捨てるか

上記で廃棄の許可を得たものは、何らかの張り紙をして他の在庫と区別できるようにしておき、会社のルールとして決裁されてから何日以内に実際に廃棄する、廃棄した後は、稟議書など書面に記録を残し、廃却証明を残すといった手続きを徹底する必要があります。

これは決裁がおりたものを確実に捨てないと、通常の在庫と混入してしまったり、一般消費財の場合は転売や盗難されるなどの事態にもなりかねません。

廃却できる基準を作る

上記までが廃棄のための社内制度・手続きの設計ということになりますが、では具体的にどのような基準であれば廃棄の申請ができるのか、承認が下りるのかという基準を決めておくとよいでしょう。以下に例示していきます。

不良や不具合、品質保証期限、賞味期限切れのものは即時廃棄する

これらはいずれも使うことのできない在庫であり、即時廃棄の原則でルール化しておかないと、1日置いておくだけでも計算上はコストがかかります。棚卸の前にまとめて捨てよう、と考える担当が多いですが、場所がもったいないです。使用不能なものを持っておくメリットはないという認識を持つべきです。

廃棄する品目の1年あたりの上限を決めて処分していく

流動などがなくなった膠着在庫や不良在庫のうち、毎期ごとに捨てることができる在庫金額の総額を決めておき、その範囲内で捨てる、という方法です。

量産打ち切り時等にいったんすべて廃棄

量産工場で使われなくなると次は補修品としての需要が出てくるタイプの製品でも、量産に比べれば補修品の販売数はきわめて少ないのが実情です。そこで量産終了時に、いったん在庫をすべて捨てて、補修品の注文がくるたびに都度作るという方法です。注文から入荷までのリードタイムが短いタイプの製品で、顧客からの注文から出荷までの時間が稼げるアイテム限定の方法です。

需要予測の1年分などを残してあとは廃棄

必要な分だけ残してあとは捨てる、という方法で最もオーソドックスなルールでバリエーションも豊富にあります。品質保持期限を加味したり、置き場の問題も加味しながら、必要となる最低在庫だけをもってあとは捨てる、調達に必要なリードタイムを加味して捨てる、といった方法です。

モデルチェンジなどで補修部品などになったものを直近3か月分や6か月分だけ残して廃棄というようなものもこの分類になります。

量産で大量に販売されていたものでも生産終了となればあとは補修用の部品だけの需要になります。数量が著しく減りますので、それにあわせて在庫を廃棄していくというものです。補修部品の需要予測は極めて読みづらいという難点はありますが、しばらく出足の実績を見ながら予測することになります。昨今はこうした予測にAIを取り入れるケースもあります。

販売見込みが消えたものを廃棄

製品には何ら不具合も瑕疵もないという良品ですが、売れる可能性がなくなってしまった在庫もあると思います。こうしたものも即時廃棄すべき対象となります。販売見込みについては在庫管理部門が営業部門等に問い合わせて確認することが一般的です。業界によっては、客先側での製造廃止という連絡をもらえることもあり、補修品として長らく供給していたものが製造廃止になれば、すべて捨てることができます。こうした場合は、現物在庫だけでなく金型や設備などで専用のものがあればこれらも廃棄できるメリットがあります。

こうした客先からの打ち切り連絡などをトリガーとして廃棄するという場合、非常にわかりやすく、個人の裁量も入る余地がないのでルールとしては使いやすいものになります。

一定期間で在庫を入れ替える

これは品質保持に期限がある製品で使われることがあります。入荷日や在庫期間を管理しておき、品質期限が近付いてきたら在庫分を新たに発注し、着荷したら現在庫をすべて捨てるという方法です。

いつまでに何個入れ替える必要があるかという発注点を決めておく必要があるので、製品を発注してから入荷するまでのリードタイムやロット、今持っている在庫の品質保持期限や賞味期限、消費期限を在庫表でしっかり管理できている前提で行う必要があります。

不動在庫化したもののうち、割合を決めて廃棄

一定期間流れていない在庫、つまり膠着在庫・不動在庫などと通常の在庫を区別します。新たに不動在庫となったものから毎期、一定数廃棄して不動在庫が一定量以上にならないようにする方法です。

不動在庫という括りを、棚卸資産の評価損に使用している会社の場合、比較的使いやすい指標です。こうした価値のなくなっている在庫を如何に減らすかというのは、「在庫管理の目的と目標設定」でも述べたとおり、組織によってはKPIの一つとなりますので、そうした活動目標ともリンクさせたルール作りにすると効果的です。

以上のポイントとしては社内ルールとして制定するのであれば、文書として公式な社内規程などの形で残しておき、なぜ廃棄したのか説明を求められた際、対外的にも納得できるような合理的な説明ができるようにしておくことです。単なる業務手順書にするよりは、上位の社内ルールや規程として残しておくほうがよいでしょう。利益操作の疑いを掛けられたり、廃棄ルールがないことで不正の温床となるような事態は避けたいところです。

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