在庫における粉飾とは
在庫と決算の粉飾が関連付けられるのは、架空の利益を出すために行われる粉飾決算に、水増し在庫が使われることがあるためです。これにはいくつか方法がありますが、一例を挙げると在庫管理における架空在庫の計上といった不正により行われます。いったいどのような理屈で在庫が増えると粉飾となってしまうのか、また発生した後どうなるかについて見ていきます。会計は過去からの数字がつながっているので、一度やってしまうと今年から正常化させるからといっても、前年のデータを無視したものにすると矛盾が発生し不自然な箇所で出てきてしまうため、雪だるま式に嘘を嘘で重ねていくというような現象が発生し、影響がのっぴきならないところまで大きくなってしまいます。にもかかわらず、残念なことに在庫は粉飾決算では不正がしやすい科目です。
なぜ粉飾決算を行うか
まず、法令に抵触するにも関わらず粉飾決算が行われてしまうのは、株主や市場に対して自社の利益が出ているように見せかけ、株価下落を防いだり、銀行等からの融資を引き出したりする意図があります。
一般に3期続けて赤字だと銀行、金融機関での評価が下がり融資姿勢が変わるとも言われています。赤字の要因によりますが、本業における営業赤字がかさんでいるような内容の場合、資金調達の面で悪影響が出て事業継続に黄色信号、赤信号が点灯してしまうケースがあります。つまり、銀行から借り入れできなくなることで倒産してしまうということですが、今期さえしのぎれば、来期は何とかする、策はいろいろあると考えて、藁にもすがる思いで粉飾に手を染めてしまう経営者もいます。
実際に粉飾を行うと、各財務諸表に歪み(ひずみ)が出てきてしまい、今期のウソをまた来期でもウソを上乗せしていかないとつじつまが合わない事態となり、雪だるま式に粉飾した金額が膨れ上がってしまう特徴があります。
したがって、今期だけ粉飾して借入したとしてもあとでバレずにこれを挽回することはほぼ不可能といえます。
粉飾に使われる主な3パターン
粉飾決算に使われるパターンは割とシンプルで、おおむね以下の3パターンになります。以下の1つまたは複数を組み合わせて行われることもあります。あるいはトレースを難しくするために間にいろいろ会社を挟むケースもありますが、やっていることは以下のパターンに収斂するものも少なくありません。
- 1.費用を次期へ入れてしまう
- 2.在庫を水増しして利益が出ているように見せかける
- 3.次期の売り上げを先行計上または架空計上する
1.費用を次期へ入れてしまう
これは会社から支出される費用・コストを次の決算期に付け替える不正で、繰り返すと当然のことながら雪だるま式に広がっていきます。すでに購入したり設備投資しているのに、次の決算で購入したように見せかけるということです。仕入しているもの全般を、来期に仕入れたことにするというような不正です。負債が小さく見えます。
上場企業等の場合は特に、悪意がなく担当レベルの事務ミスで発生してしまうようなケースでも、買掛金異例支払いなどの形で稟議書をかなり上の役職まで通さないと、期をまたいだ費用の修正というのはできないようになっており、それだけ影響が大きいということになります。
企業の決算はあくまで「決算期」という区切りで行うため、この区切りを都合よく跨いでしまうという手法です。これが簡単にできてしまうと決算書自体の信頼性が損なわれてしまいます。
2.在庫を水増しして利益が出ているように見せかける
今回取り上げているのはこのケースです。あるはずもない在庫を架空計上することで在庫が増えることで、原価が小さくなります。貸借対照表(バランスシート)における棚卸資産が増加します。詳細を後述します。
「在庫が増えたら利益は減るのでは?」というのが一般的な感覚かと思いますが、利益の計算式を紐解くと、「期末の在庫」だけを作為的に増やすことで原価を低くしてしまうという手口です。通常通り、正規の方法で期末に在庫を仕入れても別に利益は出ているように見えません。あくまで仕入れてもいない在庫があるように見せかけると、原価が減ってしまうというカラクリを使用した不正です。
3.次期の売り上げを先行計上または架空計上する
3月決算なら、4,5月の売上を3月末であったように計上するという不正です。また存在しない売上を架空計上する方法もあります。貸借対照表(バランスシート)では売掛金が増えます。
この方法は、今期に発生した費用を来期にずらしてしまう手口と原理は同じで、今度は決算月の対象となる会計年度の時期に売上として計上されるべきものを、前倒して計上してしまい、売り上げが多いように見せかける手口です。
どの時点で「売上」となるかは売り上げの計上基準を各企業で選択できる形になっていますが、一度決めた基準を利益を操作するためにコロコロ変えることは当然許されていません。したがって、出荷した時点で売上計上するという企業であれば、出荷が来期になってしいまうのであれば、今期の売上には計上してはいけません。これを社内外と示し合わせて、今期出荷したことにする、という手口です。
なお、売上基準は他にも客先に納入されて検収されたら上げるというものや、指定場所に納入されたら売上になるというもの、輸出品などで通関した日や船積みの日に売上になるというもの等があります。
回転率は容易に変化しない
こうした粉飾は割と見抜かれてしまうことが多く、運よくなのか運悪くなのか1回だけはバレずに済んだとしても、どこかでは明らかになってしまう事例は報道される大企業の大型粉飾にかかる事件を例に見れば明白です。
まずバランスシートと損益計算書を前期のものと比較するだけでも売掛金や棚卸資産が増加しますので、チェックしている人からしたら「おや?」と目に留まり、理由を調べると思います。このとき、在庫の回転率が以前と比べて変わっていないかも調べられますし、売上債権の回転日数や買掛債権の回転日数も調べることができますので、こうした回転日数から不自然な兆候は見て取れます。金額の増減はあったとしても、これらの回転日数はそうそう大きくは変わらず、変わる場合にも明確な理由があるからです。
というのも、販売されてから入金があるというタイミングや支払いのタイミングは、その会社と取引のある会社すべてに影響するものの、このサイクルが変わるということは取引先すべてと取引条件を変えたのかということになりますが、現実的にはそんなことは難しく、仮に実現したとしたら報告書にも記載されてしかるべき内容です。
在庫が増えると利益が増えるカラクリ
在庫を水増しすると利益が増えるのはなぜか、という点については厳密に言えば、在庫を決算前に土壇場で大量購入するのとは違います。
というのも、利益や原価の会計上の計算式は次の通りとなるためです。
- 利益 = 売上 − 原価
- 原価 = 期首の在庫+当期の仕入−期末の在庫
- 利益10億円 = 売上100億円 − 原価90億円
- 原価90億円 = 期首の在庫20億円+当期の仕入85億円−期末の在庫15億円
この式で、期末在庫を増やすと、原価が下がることが分かります。在庫を新たに購入すると当期の仕入れも上昇するので、原価が下がるというようなことは起きません。つまり在庫を正規の方法で購入しても、特に原価は下がりませんので利益が増えるということはなく、むしろ管理費などの在庫コストが上がりますので利益には悪影響を及ぼします。
粉飾の場合、期末在庫だけが増えるように細工されます。この例では期末在庫を15億円→20億円と変えると、原価は20億+85億−20億円=85億円になります。売り上げ100億−原価85億=利益15億円と粗利が5億円増えることになります。
同じ売上であっても、原価が下がれば利益が増えます。つまり、在庫を購入して増やすのではなく、期末在庫金額をあげることで、原価を下げ、利益を水増しするという手口になります。
正規に当期中に購入した在庫であれば、当期の仕入れに入るため、問題にはなりませんし、利益も増えません。
存在しないはずの期末在庫を増やすことで原価が見掛け上小さくなって利益が水増しされるという形です。
原理としては上記の形ですが、具体的に在庫管理の上ではどのような方法が使われるのでしょうか。
棚卸の際は経理関連部門や会計士の立ち合いのものと実施されますがこのとき抜き打ちで何点か選び出して行うことになります。ここで差異が発見されれば、少しサンプルでの抜き打ちを増やすという方法で検証がなされます。つまるところ、なかなか不正を行うのは難しいということになります。ただし、製品は仕掛品も含め、多種多様なものが大量にあるのが常です。品目を絞って不正が行われることが多々あります。
在庫は販売見込みがなくなったり、社内で設定した長期の間販売がなかったりしたものは不動在庫や不良在庫、膠着在庫と呼ばれ、在庫の価値を減少させる会計処理がなされます。これを評価減といいますが、評価減をした場合、今期の損失に計上されるため、販売されないことが分かっている長期在庫をいつまでも評価減しないという不正もあります。
個々の在庫品の現物と実物の照合を棚卸で行いますが、そのときにチェックが終わった後のシステムへのデータ入力時などに改竄するといった不正も過去に発生しています。
あるいは、同様の理由で在庫紛失していることを隠すために水増しするといった事例や、払い出し処理を行わずに現物だけ出荷し架空在庫を残すといった事例、個品単位ではなく倉庫単位で在庫の二重計上をしてしまう事例など、調べればすぐに不正と分かってしまうにもかかわらず起きている状況です。中には粉飾目的ではなく、在庫の差異がでてあわないことを叱責されることを恐れて不正に手を染めるということもあります。
在庫管理を主として担う生産管理部門は職種柄、往々にて経理や帳簿の知識に乏しいことが多く、単なるミスや在庫差異をなくすために行うといった理由以外では不正が起きにくく、粉飾の場合は経理に明るい担当が不正に関与している可能性が高いことも留意すべき点です。
決算棚卸で行ったデータを簡単に書き換えできてしまうような状況や、棚卸にて帳簿上の在庫金額と実際の在庫数と金額があわない状況を放置しておくと、思わぬところで粉飾につながってしまうこともあります。会社としてどこでコントロールを行い、どこに関所となるチェック項目を設けておくのかという点が在庫を粉飾に使わせないことのポイントです。
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