倉庫における錆対策

2021年12月3日更新

倉庫での在庫管理を行ううえで製品・品目によっては必須になる錆対策や錆落としについて少し書いてみたいと思います。

倉庫では製品そのものへの防錆処理はできない

まず在庫管理面における錆対策というのは、製品そのものに防錆処理を施すということができません。例えば、製品に防錆油を塗布するとか、塗装するとか、何らかの表面処理を行う、錆にくい材質に変更するといった手法は、いずれも図面に指定が必要になるため、後から行うと設計変更の手続きと承認を要することになります。

これらは製品によっては客先への申請から承認までのプロセスや難度が高く、価格を下げる等のメリットがなければ認められないこともあるため、倉庫側の要望から実現させようとする場合、よほど錆の発生で問題を起こしているというケース以外はあまり期待できそうにありません。

倉庫、つまり在庫管理のうち現物管理を行う側でできる対策というのは上記に抵触しないものに限定されるという点がこの錆対策の大きな特徴となります。製品の種類によっては一定期間経つと「必ず錆びる」というものもあり、こうした場合の根本解決は言うまでもなく、設計変更による恒久対策なりますが、倉庫側でできる暫定対策でも功を奏しているケースもあります。

梱包含む環境や保管から錆を防ぐ工夫

以下に倉庫や在庫管理側での代表的な錆対策について説明します。

荷受時の雨濡れ対策

通常、屋根のある倉庫から倉庫へトラックの中に詰められたパレットごと運ばれるので「なぜ雨濡れ?」と思われるかもしれませんが、複数の倉庫を中継したり、倉庫の構造によっては荷物の受け渡し場所やパレットをリフトで運搬中に雨がかかってしまうことがあります。これは雨が強いとそうなるケースやもともと雨濡れしやすい構造のステーションをもつ倉庫という場合もあります。あるいはトラック停車場所はきちんと屋根があっても、リフトで運ぶ過程で雨がかかってしまうというような場合です。

雨天時のパレットにはどのようなカバーを付けるか、あるいは輸送に用いる箱が通い箱のように蓋がないものの場合、蓋をこの時だけはつけるといった運用上のルールがはっきりしていない場合、雨濡れに備えた運用・運搬ルールを制定するのも一つの対策となります。

会社によっては梅雨時期だけ特別管理しているというケースもあります。

海上輸送や陸送中で濡れた容器の詰め替え

段ボール梱包に多いのですが、輸送区間が長かったり複数の輸送モードを組み合わせる場合、どこかで雨に見舞われると段ボールの一部にかなり水分がしみ込んでしまうことがあります。これを見落としておくと、在庫保管中に錆を誘発してしまうリスクが高くなります。発見次第、乾いた容器への詰め替えを行うことで錆発生のリスクを軽減できます。

輸送中の乾湿・温度差で水分が発生

海上輸送などで温度や湿度の差の激しいエリアを通りぬけていく場合、袋とシリカゲルなどで防錆対策したものが裏目に出ることがあります。これは高温多湿の気候のエリア通過時に吸湿したものが、乾燥したエリアに入る際に水分が放出されることで錆びてしまうというケースです。あえて袋タイプのものを使わないという選択肢もあります。

温度・湿度管理

工業製品の多くでは温度や湿度を管理していない倉庫が圧倒的多数と思いますが、錆の発生に湿度・湿気も関与している以上、さびやすい製品を扱うのであれば湿度管理を行うのも一つの方法です。

袋で密閉し酸素を除去

製品ごとや製品の入っている最小の箱単位で袋にいれ、ヒートシール等を施してプラスチックフィルム製の袋を脱気等して脱酸素剤とともに密閉してしまう方法です。脱酸素剤のかわり、シリカゲルをはじめとする乾燥剤を封入するケースもあります。

防錆紙

気化性防錆剤などが染み込ませてある防錆紙を箱内部に入れておくと、化学物質が出てきて在庫対象に付着し、防錆作用をもたらすという仕組みです。鉄、銅などで異なる防錆紙がいるため、材質が同一であることや付着した防錆剤の効果は長持ちはしませんので定期的に入れ替えする為等がネックです。防錆シートなどで大きなものもありますが、防錆紙、VCIペーパーと呼ばれるものは、最小の箱単位で中に1枚入れるものが多いです。

防錆袋

上述の気化性防錆剤などが染み込ませてあるプラスチックフィルム製(いわゆるビニール)の袋です。防錆紙の効果を最大限発揮させるためには、密閉された空間が必要で、ビニール袋で包んだ製品の中に入れる必要があります。箱が開放型のもので密閉できない場合でも、雪が降り積もるように防錆剤の分子が製品に付着するのである程度は効果が期待できると言われていますが、それでも開放型で外気に触れる梱包箱や容器内で使うと持続時間が短くなる傾向があります。

防錆袋は密閉前提で、袋の内側には気化性防錆剤が入っているので、この中に製品を入れることで防錆効果を発揮させることができるという製品です。

防錆効果のあるパレットカバーで覆う

防錆シート型のものもありますが、パレットカバー型のものでパレットを丸ごと覆う製品で内側に防錆剤がつけてあるものを使います。パレット丸ごとになってしまうと密閉が難しいですが、1箱ずつあるいは製品1個ずつ防錆袋で包むというような手間がいりません。

上記のうち一つまたは複数を組み合わせて実施されることも多いですが、錆はどこかで発生してしまうとその後工程の管理がどれだけよくても錆が消えるということはありませんので、発生した原因と場所を特定して対策を講じる必要があります。また多くの品質領域では、錆は全か無かで判断され、限度見本というものはなく、わずかでも錆があればNGというのが一般的かと思います。

倉庫で行う錆落としの限界

倉庫管理側で錆落としを請け負うということは稀かもしれませんが、そもそも限定された方法、例えば製品に影響しない薬液等で拭き取るという以外の錆の除去は、研磨が主体になります。研磨するということは、表面をミクロレベルで削り取ることでもあり、厳密には製品の表面粗さに影響する為、製品種によっては使うことができない点に留意が必要です。まとめてブラスト処理をかけたり薬液内で除去できるというものでもない限り、錆落としの作業は手作業となり製品1個ずつの除去となります。

新たに購入する場合の費用と納期次第では錆落としせずに廃棄して再注文したほうが良いケースもありますので、臨機応変に判断していくことが肝要です。

錆を落とすよりも未然に発生を防ぐほうがコストは往々にして安くなりますので、事後処理よりも未然発生に力点を置いた対策のほうがメリットがあります。

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