在庫にまつわる不正の手口

2021年12月10日更新

不正経理の手口として在庫管理が悪用されることがあります。監査を行う立場の方や管理者の方向けに、具体的な方法をご紹介します。部下や同じ会社で働く方々がこのようなことに手を染めないようにするにはどうすべきか日頃から考えておく必要があるテーマではあります。

厳しいルールを設けてそれを守れなかった担当に大きなペナルティを課したり、心理的なダメージを与える、恐怖感を与えるというような管理体制をとっている場合、隠蔽したい、責任追及や叱責を回避したいという欲求からこうしたことに走ってしまうことがあります。

そもそも在庫管理を行う生産管理やロジスティックス部門というのは不正の頻度が多い部署ではなく、もちろん会社や企業文化にもよるでしょうが、業界を超えて職種による共通性という部分でも働く人の気質も正直ベースであまり駆け引きを行う仕事でもないという特徴があります。

加えて、不正を行うことで何か得をするのかという点から見ても在庫で何か経理不正を行うメリットが何もありません。また業務の性質から経理知識がなくても問題がないことから、他部門からの依頼や過去からの慣習で不正に手を染めてしまっているケースも過去散見されます。

在庫を使った不正

以下に具体的な不正手口についてご紹介します。在庫の移動や形状、廃棄、カウントに伴って行われる方法です。

長期滞留在庫を意図的に評価減しないよう回避する不正

例えば1年出荷がない場合に評価減とするルールがあるにもかかわらず、在庫間での移動を行って出荷があったかのように見せかけて回避するケースです。在庫はどこか適当な倉庫へ動かすだけで、実際には販売されていませんが、在庫管理表のなかでは受け払いのうち、払い出しがなされているので、長期滞留在庫にならないという仕組みです。これは在庫の評価損を避けるためや評価減の圧縮を行う不正です。

仕入れた在庫は、長期間売れ残ったり、陳腐化するとその財産価値を減らす処理を行うことが義務付けられています。100万円で仕入れた在庫も例えば数年全く売れず、型落ち品となってしまうような場合です。これを100万円のまま棚卸資産に計上すると、実態と異なる決算書が出来上がってしまうため、価値を下げる=評価減の処理がなされる必要があります。

在庫紛失していることを隠すために水増し

在庫は往々にして適切な管理をしていないと無くなってしまうのですが、こうした紛失の責任を強く追及されるような場合、担当者が隠蔽のために存在しない在庫をあることにしてしまうという不正が発生することもあります。棚卸の時にばれるのが通例ですが、会計士のチェックにうまくかからない場合もあり、何年も経ってから判明することがあります。

有償支給に伴う払い出し処理を行わずに現物だけ出荷。架空在庫を残す

これも社内の特定の処理方法に目を付けた不正です。出荷処理をせずに出荷してしまえば、在庫表の上では在庫が残っていることになります。これを存在するものとして架空の在庫として計上する手口です。

在庫の二重計上

これは意図しなくても管理がまずいと起きてしまう問題です。同じ在庫がまた別の在庫としてカウントされてしまうというものです。

不具合品の処置を行わず、存在しない在庫が残ってしまうケース

これは不良品や何らかの品質的な不具合が発生し、社内上の手続きでは廃棄の承認が下り、すでに廃棄していることになっているものが実際には廃棄されておらず、この在庫が棚卸除外ともならなかった場合に、正規の在庫として計上されてしまうというものです。これも意図的な不正をせずとも運用取り回しに問題があると起きてしまうことがあります。

実地棚卸数量の改竄、水増し

在庫の不正の多くは決算前に行う棚卸に付随して発生します。というのもこの棚卸でその企業の棚卸資産=在庫が確定する為、この数字を何らかの方法で操作するという不正です。あるはずもない在庫を棚卸時にあったかのように計上すると期末の在庫が増えることで利益が水増しされる効果があります。

在庫の不正というのは一度行ってしまうとどこかに必ず歪みが発生します。したがって嘘をつき続ける必要があるのですが、これが雪だるま式に増えていき、必ずどこかで破綻します。

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