在庫管理における最低在庫、適正在庫とは

2021年12月5日更新

最低在庫とは、適正在庫のうち、最低限維持しなければならない数量のことです。これを下回ると欠品や遅延を起こし、納入を維持できなくなるリスクが高まるということになります。在庫管理の目的は「適正在庫」の維持管理と言い換えることもできますが、この適正在庫には入荷直後と次の入荷までの間で在庫が変動する為、最低在庫と最高在庫を決めておく必要があります。適正在庫の定義は、適正な範囲の安全在庫や回転在庫ということになります。

最低在庫と最高在庫を決めないとどうなるか

持っておくべき在庫の基準を決めても、それが最低在庫なのか最高在庫なのかによって数量のレベルが異なってくるということです。これは入荷のタイミングや間隔があいていたり、発注・入荷ロットが大きいほど顕著に見えてきます。下図をご覧ください。

最低在庫と最高在庫の変動

この図例では、毎週月から金までは営業日(操業日)で土日が完全に入出荷なしという倉庫現場を想定しています。

毎日1個ずつ出荷がある見込みで、入荷は毎週月曜のみという場合です。表の記載の毎週月に入荷した時点で在庫は最高値に達します。これが最高在庫です。火曜、水曜、木曜、金曜と毎日出荷していくと、金曜に最低在庫に到達します。そしてまた次週の月曜に入荷があり最高在庫に戻るということになります。

持つべき最適在庫の指標として最高在庫と最低在庫を決めない場合(つまり一つの在庫日数や在庫数量の基準しか決めなかった場合)、下表のような現象が起きます。

最低在庫、最高在庫を取り違えた場合の影響
基準在庫を最低在庫と考えた場合 基準在庫を最高在庫と考えた場合
最低在庫が下回らないように発注を行うため、正しい基準在庫になるよう発注を行っていても在庫カウント時点によっては、最低在庫を必ず上回る在庫を持つ。ただし最低在庫分は倉庫に常時あるという計算のため、その数量が妥当なら欠品は起きにくい。 入荷時に最高在庫を超えないように発注を行うため、どの時点で在庫カウントしても、正しい基準在庫になるよう発注を行っていれば在庫が最高在庫を超えることはない。ただし最低在庫の基準がないため、在庫数の最低ラインがいつも一定しない。変動幅によっては在庫がショートする。

ひとつしか適正在庫や安全在庫の指標がなかった場合、「欠品防止」という観点からは最低在庫が有利、在庫金額のトータルを一定範囲に収める「在庫抑制」という観点からは最高在庫が有利ということになります。

こうしたことから、適正在庫量や目標とすべき安全在庫や基準在庫、回転在庫には最低値と最高値を設定する必要があります。

適正在庫にはそもそも何を含むべきか

在庫の定義にもよりますが、適正在庫には出荷から納入までに物理的に必要となる回転在庫と、客先の手配変動に対応するための安全在庫の双方が通常は含まれています。ここでいう適正在庫とは、在庫管理上必要な基準在庫のことになり、この在庫を切らさないように製品の仕入れや補充を行うことになります。

計算式で示すと次の通りです。

  • 適正在庫=安全在庫+回転在庫

回転在庫とは、補充にかかる期間と言い換えることもできます。工場や仕入先の補充発注してからどれくらいで入荷するかという期間に基づいて、補充した品物が入荷するまで在庫を切らすことなくしのげる数量を確保するという発想です。

安全在庫を純粋に出荷の変動幅やバラつきに対して対応するための在庫と定義づけるのであれば、その計算式は、次のようになります。

  • 安全在庫(変動やバラつきに対応できる在庫)= 標準偏差×安全係数

標準偏差とは、標準的な平均値との差がどれくらいになるかを示したものになりますので、出荷数のバラつきに安全係数をかけているという計算になります。

安全係数は、確率から導き出される係数で、正規分布に基いて欠品する確率である欠品率が何%(あるいは欠品しない確率であるサービス率。欠品率=100−サービス率)の場合、どれくらいの在庫を持たないといけないかを示すものです。

安全係数とサービス率、欠品率の対応表
サービス率 欠品率 安全係数
84.1% 15.9%
85% 15% 1.04
90% 10%  1.28
95% 5% 1.64
96%   4% 1.75
97%  3% 1.88
98%   2% 2.05
99%   1% 2.33
99.9%   0.1% 3.08
99.99%   0.01% 3.62

このように数量変動に対応できる在庫=標準偏差を使う、欠品率を満たす在庫=安全係数を使うということになります。数量変動の情報が前もって入手できる環境であったり、欠品が先行して見えるような状況で輸送方法を変えることで挽回ができるという場合は、安全係数を1にする、つまり安全係数を考慮しないで計算することも多々あります。この場合は、単純に出荷のバラつきに対応するという在庫になります。

過去の出荷数の標準偏差を使う以外に、需要予測と実績の変動率を使うという計算方法もあります。これは内示や販売予測という形で毎月や毎週需要の予測が入手できる業界で使われることがあります。例えば、毎月出される内示と実際の発注量の差がどれくらいかを見るので、過去1年で内示が1000だったものが最大で1500の出荷となった月があるとなれば、月間の振れ率は最大150%となります。この150%が再度来たとしても対応できるだけの変動に耐えられる安全在庫を持つという発想でも計算可能です。

ただし、こうした最大値をとるとかなり安全を見たものになりますので、この例でいえば過去1年の振れ率自体も標準偏差をとって計算に使うという方法もあります。

つまり、変動差・変動幅に対応できる安全在庫計算には以下のような指標が使えます。

  • 出荷実績の標準偏差を使用
  • 内示(予測)と実績差の最大値を使用
  • 内示(予測)と実績差の標準偏差を使用

この計算方法が意味するのは、客先の注文の変動や出荷数のバラつきに対応する在庫と、日々の在庫補充に必要な在庫の双方があれば、適正在庫になるということです。適正在庫を在庫日数に換算した場合の計算例については「在庫の日数はどうやって決める?」でもご紹介しています。

適正在庫の計算方法の例

適正在庫の定義を上述した通りと仮定すると、適正在庫=安全在庫+回転在庫となりますが、実際の安全在庫と回転在庫は別々に算出して合計すると在庫が増えすぎてしまうことがあります。

そこで以下の計算方法を使うこともあります。

  • 適正在庫=√補充にかかる日数×標準偏差×安全係数

補充にかかる日数を√にしているのは、確率の考え方を取り入れているためです。最悪の事態を常時想定しており、在庫が切れたら挽回するすべもなく、欠品も許されず、出荷変動の事前情報もキャッチできないのですべて在庫で対処しないといけないというような場合は、√にせずにそのまま掛けてもよいかもしれませんが、その場合は補充にかかる日数の間中、出荷数がすべて平均を上回るという事態にも対処できます。逆に言えば、そのような事態が発生しないのであれば、ムダな在庫を持ちすぎたということになります。

ここでの適正在庫というのは出荷予測の誤差を踏まえた数字になっていますが、リードタイム分となる日数分の誤差をすべて合計してそれに備えるようにするのであれば√不要となりますが、これは誤差の分散となるため、標準偏差に変換してやると標準偏差=√分散となるため、√5となります。

つまり、補充にかかる日数の間の出荷数についても標準偏差の考え方を取り入れ、確率の世界でベストな解を導き出そうという発想です。

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