工場在庫と営業在庫

2021年12月10日更新

工場在庫や営業在庫というのは、管理する主体や在庫の管轄部門で在庫を分類する場合の区分例のひとつです。要は誰がその在庫数量の決定権や廃棄する権限を持っているか、棚卸は誰の責任でやることになるかということです。営業在庫なら営業部門からそれらの権限を持っている、ということになります。分かりやすい区分なのでよく使われますが、在庫全体を統括する部署がないと、安全在庫の設定方法から運用方法までバラバラなものとなり、同じ製品を工場在庫と営業在庫それぞれで持っていることもあります。商社や卸売、小売ではこうした区分はあまり使われない為、製造業やメーカーに固有の問題の一つです。

工場在庫と営業在庫の違い
工場在庫 営業在庫
工場や製造部門、生産管理部門が管理する在庫。 営業部門が管理する在庫。営在(えいざい)とも言う。

在庫の区分を目的によってこのように分けてうまく住みわけを実現している会社もあります。例えば、受注から出荷までの回転に必要な在庫だけを営業在庫として管理し、受注変動の不確実性を吸収したり、生産ロットの関係で発生する在庫は工場在庫として持つ、というパターンです。

一方、品目によって完全に分離して運用する場合もあります。例えば工場在庫は自社での製造品の在庫で、営業在庫は他社からの仕入れ品の在庫という分け方で運用する方法です。この場合は同一品を工場と営業で並行して持ってしまうという心配はありません。

会社によって使い方が違う在庫になりますので、何を意味しているのかは個々に確認が必要なものといえます。いずれにしても、営業在庫と工場在庫という具合に在庫区分を分離すると、管理する部門が分かれるので一つの部署へ負荷がかかりすぎることを防ぐということはできますが、会社全体の在庫運用方針の策定が難しく、全体として在庫をどれだけ削る必要があるのかという意思をもって在庫低減に取り組むということはできなくなります。

また営業部門の多くは売上や利益が目標やノルマになります。CCC(キャッシュコンバージョンサイクル)に特段の価値や目標を設定していない限り、在庫が増えることのデメリットはなく、むしろ欠品によって失注したり、顧客の信頼を失うほうを恐れますので、在庫はとにかく多めに持つ傾向があります。反対に、受注から出荷に必要な回転在庫しか持たないという方針の場合は、極端に在庫を絞り込むというケースもあります。

在庫回転率や在庫回転期間をいくつにするかといった在庫上の目標設定を設けることは稀で、売り上げや営業利益が目標になりますので、在庫管理のKPIとはあまり相性が良い職種ではないとも言えます。そもそも在庫が増えることでどれくらい利益を圧迫するかというのは、在庫コストを正確に計算しないと出せませんので、決算書を見てもよくわからないということになります。在庫コストの計算は、在庫金利の考え方と計算方法とはにも述べましたが、この試算をはたして営業部門がやるのか、という問題があります。

工場在庫と営業在庫は品目で完全に分けるにしても、同一カテゴリーの在庫の管理者だけを変えるにしろ、管理権限から在庫責任、棚卸実施主体も分離してしまうことが多いため、会社全体の在庫は多めになる傾向があるというのは知っておく必要はあるでしょう。全体最適化に取り組むのであれば、在庫のすべての統括する強い権限を持った部門を作るか、管理区分を取っ払って、一つの部門ですべてを見るか、というのが現実的です。

帳簿に最終的に計上される「棚卸資産」は、営業在庫も工場在庫も区別されずに上がってきます。在庫を戦略的に効率化・合理化するというのであれば、全体の棚卸資産を管理しないと実現は困難です。

一番まずいのは、工場部門、営業部門が連携することなく、それぞれが同じ製品の安全在庫を別々の基準を作って保有し運用しているような場合で、会社としての総在庫が意味もなく増えてしまいます。分離して管理するにしても、製販会議などで情報や方針を共有する等して在庫管理の効率化をはかっていく必要性があります。

製造業の場合であれば、営業在庫として運用するものは、営業が転売目的で仕入れたものといった形で同一品目については必ず一つの部門で全体を把握・管理できるようにしておくというのも手です。あるいは在庫の運用を行う生産管理などの専門部署へ委託してしまうというのが合理的な方法かもしれません。

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