S45Cの規格|比重、成分、機械的性質、硬度、降伏点、引張強さ

2020年5月11日更新

S45Cとは、比重を7.8に持つ機械構造用の炭素鋼鋼材であり、JIS規格で規定された最もポピュラーな素材の一つと言えます。熱処理により得られる機械的性質も向上するため、用途に広がりが出てきます。一般的には焼入れ、焼き戻し、焼きならし等をした上で使われます。この鋼材の汎用性が高い所以を以下に見ていきます。

また他国の規格のうち、中国のGB規格、ドイツのDIN、W-nr.、イギリスのBS、EN、フランスのAFNOR、イタリアのUNI、スペインのUNE、スウェーデンのSS、アメリカのSAE、AISIにもS45Cの相当材はあります。

S45Cは炭素量の規定のあるJIS規格材

S45CはJIS規格においては0.42〜0.48%の炭素含有量と成分規定されており、鉄鋼の中では、硬鋼に相当する材料となります。炭素量が多いほど、硬くなり耐摩耗性にも優れますが反面脆さも出てきます。焼入れして使うか、生材として使うか用途によりけりとなります。

材料記号にある数字の45は炭素鋼たる所以でもある「炭素」の含有量の代表値を示しています。ちなみに、炭素鋼とは鉄鋼のうち、合金鋼以外のものになります。鉄そのものは強度や硬度があまり強くありませんが、炭素が入って「鋼」になると性能が上がり用途が格段に広がります。

強度が必要な場合に選択される鋼材で、軸やピンなどをはじめ、研削加工においてもよく加工されるものです。価格も高すぎず市場にもよく流通している炭素鋼であるため、汎用性が高く、特別な性質などが必要がないケースではとりあえずS45Cが使われているというのが実情かもしれません。

SS400と違い5元素の成分が規定されている

S45Cの大きな特徴として、化学成分についての規定があるため、材料の品質を保てる点が挙げられます。同じく汎用材としてよく使われるSS400は鋼材の有害成分となるP(リン)とS(硫黄)以外の規定がありませんので、製鉄メーカーに一任されています。炭素量が重要となる鉄鋼材では、S45Cに成分規定がなされている点が品質面でも信頼性が期待できます。

焼入れするか、溶接するか|材料選定のポイント

鉄鋼材料には、「生まれ」と「育ち」があり、生まれの部分はそのまま成分となりますが、育ちに相当する「熱処理」の方法によってかなりバリエーションのある性質を作り出すことができます。

一定レベルまでの炭素量は、そのまま鋼材の「硬さ」につながるため、焼入れを行う場合は、S45CかS50Cといった選択が好まれます。もちろん生材でも使用可能で、硬度が必要ない場合は、あえて焼入れせずに使われます。こうした意味で、汎用性が特に広い鋼材の一つと言えます。

サイズが大きすぎると焼入れが入りませんので、表面のみの硬度を上げるのであれば問題ないですが、そうではない場合、使用する鋼材のサイズを小さくするか、さらに焼入れ性のよい合金鋼の使用を検討することになります。

これよりも炭素量が低い炭素鋼であると、焼入れしない場合、あえて機械構造用の規格材を使うメリットが薄れてきます。

S45Cの単価はSS400より割高になることもあり、材料選定の際、汎用材を使うとなった場合、SS400を検討し、適合しない場合はS45Cというパターンが多いかと思います。板金による薄板であればSPCCが候補となり、耐摩耗性を追求となればSK材をはじめとする工具鋼が、耐食性となればステンレス鋼、耐熱温度が必要な場合はSUH材(耐熱鋼)等いった選び方になります。

  • 汎用材でSS400が使えない→焼入れが必要、強度が必要
  • 溶接工程がない
  • S45Cの強度・硬度で要件を満たせる(合金鋼までの強度はいらない)
  • S45C焼入れ必要なスペックだが、部材のサイズがあまり大きくない
  • 耐摩耗性、耐食性、耐熱性などS45Cで満たせないほどの要件がない

S45Cの溶接性はよくない

溶接を行う場合は、汎用材としてはSS400が好まれ、さらに溶接性を求めるのであれば、より厳しい成分値が定められているSM材に軍配が上がります。鋼材は、炭素量、硫黄、リンの含有量の多いものほど溶接性が悪くなります。S45Cは溶接時の熱で焼割れを引き起こすことがあるため、他の材料に比べ溶接にはあまり向いていません。

強度がある材料で溶接性をキーにするのであれば、SM材、SPV材といったハイテン材も候補になるかと思います。

部品としての用途が多い

幅広い用途が知られ、自動車部品、エンジン部品、機械部品、生産機械全般、起重機、キー材、ピン等耐摩耗性や硬度がある程度要求される部位へ使用される傾向があります。溶接がいらない場合で、SS400ではスペックを満たせないという場合に検討される汎用材ともいえます。この材料では強度や焼入れ性が不足するという場合は、さらに強力な合金鋼の使用を検討することになります。

ちなみに、電着砥石のシャンク(台金)にはこのS45Cの生材等が使われる傾向にあります。電着では台座の金属素材とダイヤ(正確にはダイヤとメッキも)との密着が非常に重要となってくるからです。この炭素鋼の生材だと強い密着力が期待できます。ただこれは密着力のよさもさることながら、S45Cそのものの流通量の多さや価格の手ごろ感も頻繁に使われる要因となっています。丸材や板材など大小さまざまなものが流通している鉄鋼材料です。

S45Cの加工

加工でも特に難度が高いわけでもなく、研削砥石でもcBNでも加工可能です。研削砥石の場合、アルミナ砥粒が適しています。

鉄鋼系であるため、ダイヤモンド砥粒での加工には適していません。高温になるほど鉄にダイヤの炭素が食われていき、砥石側の摩耗が激しくなります。高価なダイヤモンドホイールを誤って使ってしまうと損耗が激しく加工コストが合わなくなります。

生材よりも焼きが入っていたほうが研削や研磨ではやりやすくなります。加工現場では、生材の端材などを砥石の目詰まりを解消するドレッシング用に使うこともあります。

S45Cの成分組成

冒頭で述べた通り、S45Cは鋼の5元素とも言われる成分のいずれについても一定の範囲におさめる必要があります。規格でこれが規定されていることが他の汎用材との大きな違いです。

S45Cの化学成分(代表値)
材料記号 C Si Mn P S
S45C 0.42〜0.48 0.15〜0.35 0.60〜0.90 0.030以下 0.035以下

S45Cの熱処理温度(焼ならし、焼なまし、焼入れ、焼戻し)

炭素鋼であるため、焼入れ性は合金鋼ほどよくありません。鋼材のサイズが大きすぎると中心部まで焼きが入りませんので注意を要します。一般に、丸棒であればφ20mm以下、板であれば、板厚14mm以下での使用でないと焼きを中心まで通すのは困難になってきます。

S45Cの熱処理温度(焼ならし、焼なまし、焼入れ、焼戻し)
種類 変態温度
(℃)
熱処理温度
(℃)
Ac Ar 焼ならし 焼なまし 焼入れ 焼戻し
S45C 720〜780 750〜680 820〜870空冷 約810炉冷 820から870水冷 550〜650急冷

S45Cの降伏点、引張強さ、伸び、絞り、硬度

生材としても高い性能をもちますが、熱処理によってさらに引張強さ、降伏点といった強度や硬度をあげることができます。

下表の通り、熱処理でいかに機械的性質が変わるか分かるかと思います。

S45Cの機械的性質(降伏点、引張強さ、伸び、絞り、硬度)
種類 機械的性質
熱処理 降伏点
N/mm2
引張強さ
N/mm2
伸び
%
絞り
%
衝撃値
(シャルピー)
J/cm2
硬度
HBW
S45C 焼きならし 345以上 570以上 20以上 - - 167〜229
焼きなまし - - - - - 137〜170
焼入れ・焼戻し 490以上 690以上 17以上 45以上 78以上 201〜269

S45Cのヤング率、熱膨張係数

ヤング率(E/GPa)は、焼入れ焼き戻しをした場合で、205となります。

熱膨張係数(×10-6/℃)は11.2となります。炭素鋼の場合、炭素量が多いほど値は小さくなる傾向にあります。

黒皮材とミガキ材

S45Cの場合、表面がミルスケールと呼ばれる酸化鉄で覆われたままの状態である黒皮材と、それらを除去してあるミガキ材との両方が流通しています。単価やコスト面を気にするのであれば黒皮材が安いですが、用途によっては結局表面加工して黒皮を落とさないといけないため、この加工の手間を反映させると一概に安いとも言えなくなってしまいます。あらかじめ精度を求めるか考慮して材料選定する必要があります。

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