ポリエチレン(PE)の物性と用途、特性について

2021年5月9日更新

ポリエチレンとは構造上、エチレンが重合したプラスチックで、低密度ポリエチレン(LDPE)と、高密度ポリエチレン(HDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(L-LDPE)、超高分子ポリエチレン(UHPE、スーパーエンプラの一種)等いくつか種類があります。熱可塑性プラスチックに分類されます。

重合時の圧力や触媒といった製造条件を変えることで、比重の異なるものを容易に作り出すこともでき、安価で大量生産されているため、ビニール袋をはじめ、多くの用途に使われています。剛性は密度に比例して高くなります。材料自体に毒性もなく無臭で、軽く、防湿性や電気絶縁性に優れています。化学的に安定しているため、耐水性(吸水率が低い)や耐薬品性も期待できます。

LDPE、HDPE、L-LDPEの密度・融点の違い

上述したPEの種類の違いで下表の通り異なる物性を持ちます。

低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(L-LDPE)の違い
ポリエチレンの種類 密度(g/cm3 結晶化度(%) 融点(℃)
LDPE 0.910から0.925 45から55 98から115
L-LDPE 0.918から0.940 50から60 122から124
HDPE 0.941から0.970 65から85 130から137

L-LDPEはLDPEに比べて強度、耐ストレスクラック性、コスト面でも優位にあり、代替が進んでいます。

ポリエチレン(PE)の特徴

生産量・使用量が全プラスチックでトップクラスだけあり、流通性やグレードも複数あって、使いやすい材料です。特に利点・メリットを列挙すると下記のようになります。中にはメリットと表裏一体のデメリットもあるため、材料選択の際は何を優先するか比較検討の余地があります。

  • 吸湿性、吸水率が低い
  • 水蒸気や水の透過性が小さい
  • 耐寒性に優れる(ガラス転移温度は−120℃)
  • 材料自体は無害・無毒であり、医療用や食品用でも使われる
  • 非極性で電気特性(誘電特性)・高周波領域での性質がよい。通信機器の絶縁材料として使用される
  • 耐薬品性がよい(室温では発煙硫酸・発煙硝酸以外の酸・アルカリに安定。ただし70℃以上だと芳香族炭化水素や塩素化炭化水素に溶解)
  • 自己潤滑性があり、耐摩耗特性がよい(特に超高分子PEはスーパー繊維としても知られるが、耐衝撃性、耐摩耗性に極めて優れている)

ポリエチレン(PE)の欠点、弱点、デメリット

機械的特性や成形性、価格などバランスの取れたプラスチックで総じて使いやすく、あまり大きな欠点やデメリットは見当たらないとされます。列挙するとすれば、他のプラスチックにも当てはまる項目があるものの、下記となります。

耐熱温度

熱による変形温度は高くない材料です。これは汎用プラスチックとしては平均的な耐熱温度なのですが、他の工業材料と比較するとより低くみえます。特に荷重たわみ温度については他の樹脂と比較しても高い部類とはいえません。

ガスバリア性能

水蒸気の透過度は小さいというメリットがある材料ですが、逆に炭酸ガスや有機溶剤の透過性は大きいため、フィルム包装する場合、中身がこれらの影響を受けるものであるとそのままでは使用が難しいといえます。

成形収縮率大により寸法精度に難

成形収縮率が2〜3%と大きく、流動方向による成形収縮率の差が大きいため、高い寸法精度を要求される用途では難があります。金型にも少々工夫が必要となります。

そのままでは接着不可

非極性であるため、接着剤での接着はそのままではできません。表面の水濡れ性をよくするため表面処理(火炎処理、コロナ放電、プラズマ処理、酸処理など)が必要となります。

環境応力割れ

界面活性剤により環境応力割れ(ESRC)が発生しやすいといった欠点があります。

ソルベントクラック

界面活性剤、鉱物油、動植物油、エステル型可塑剤などの影響でソルベントクラックを引き起こすことがあるとされます。

耐候性

紫外線により劣化しやすいプラスチックです。屋外使用の場合は、安定剤などを添加して劣化防止対策が必須となります。

可燃性

酸素指数が18〜19と小さく、燃えやすい部類です。燃焼する上に熱にも弱いので、難燃性が要求される局面では使用が難しいといえます。

低密度ポリエチレン(LDPE)の耐熱温度、比重、耐薬品性

低密度ポリエチレンを常用する場合の耐熱温度は70〜90℃と言われます。比重が0.94未満で、水よりも軽いプラスチックです。反面、耐熱温度はあまり高くないですが、耐薬品性(耐酸、耐アルカリ)や耐水、電気絶縁性、などには優れています。添加剤を使用せずに成形することができます。

耐寒性にも優れるポリエチレン

低温脆性にも優れており、寒中でも脆性破壊を起こしにくく、零下20℃程度まで耐性があるとされます。機械的には強い部類です。用途は、袋やラップなどの包装材、食品チューブ、農業用フィルム、電線の被覆用途、フィルム、酢ビとの共重合材料、塗料、積層品等です。

高密度ポリエチレン(HDPE)の耐熱温度、比重、耐薬品性

高密度ポリエチレンを常用する場合の耐熱温度は90〜110℃で、このタイプは剛性に優れています。結晶性は低密度ポリエチレンとは逆に高くなります。比重は低密度のものに比べて若干重くなりますが、依然水よりは軽いです。低密度ポリエチレン同様に、電気絶縁性や耐酸性、耐アルカリ性などの耐薬品性が良好です。また低密度のものに比べると、耐熱性や剛性に優れた素材です。色は白く、不透明です。

主な用途は、食品容器や各種フィルム、袋、シャンプー容器、バケツ、ガソリンタンク、灯油缶、コンテナ、パイプ、射出成形材料全般、雑貨全般、工業部品、発泡材、パイプ、ブロー成型品、ラミネート包装の内面などに使われます。

ポリエチレン(PE)の物理的・化学的性質の一覧

下表に、PEの種類ごとの物理的性質を記載しています。同じPEでもかなりの違いがあることが見て取れます。

ポリエチレン(PE)の物性
種類、タイプ 低密度(LDPE) 高密度(HDPE) エチレン・酢酸ビニル共重合体 超高分子量
物理的性質 密度(g・cm^-3) 0.91から0.92 0.94から0.965 0.92から0.95 0.94
融点(℃) 結晶性 95から130 120から140 65から90 125から135
非晶性 - - - -
透明度 透明から不透明
吸水率(%)3mm、24h <0.01 <0.01 0.05から0.13 <0.01
成形特性 成形温度範囲(℃) 射出、148から315 射出、148から315 射出、120から220
成形圧力範囲(kgf・cm^-2) 563から1400 563から1400 563から1400
成形収縮率(%) 1.5から5.0 2.0から5.0 0.7から1.2
機械的性質 引張強さ(kgf・mm^-2) 0.42から1.61 2.18から3.87 1.01から1.97 1.76から2.46
最大伸び率(%) 90から600 20から1300 550から900 300から500
圧縮強さ(破壊、降伏)(kgf・mm^-2) 1.9から2.5
曲げ強さ(破壊、降伏)(kgf・mm^-2)
引張弾性率(kgf・mm^-2) 9.8から26.7 42.2から127 1.4から8.4 14.1から77.3
圧縮弾性率(kgf・mm^-2) - - - -
曲げ弾性率(kgf・mm^-2) 5.62から42.2 70.3から183 0.7から14.1 91.4から98.4
アイゾット衝撃値(kgf・cm・cm^-1) 破断しない 2.7から109 破断しない 破断しない
硬度(硬さ) ロックウェル
ショア D41〜50 D60〜70 D17〜45 D60〜70
熱的性質 熱伝導率(10^-4cal・s^-1cm^-2)(K・cm^-1)^-1 8.0 11.0から12.4
比熱(cal・K^-1g^-1) 0.55
線熱膨張率(10^-5K^-1) 10から22 11から13 16から20 7.2
熱変形温度(℃)
18.6kgf・cm^-2
4.6kgf・cm^-2
50から58.3 61から72.2 51.7 58.3から66.7
電気的性質 体積抵抗率(Ω・cm)(23℃、50%RH相対湿度) >1016 >1016 1015 >1016
絶縁強さ(短時間法)(3.18mm)/kV・mm-1 16.5から27.5 17.3から23.6 24.4から30.0 26.7
比誘電率(εγ 60Hz 2.25から2.35 2.30から2.35 2.50から3.16
MHz 2.25から2.35 2.30から2.35 2.60から3.20 2.30
誘電正接(tanδ) 60Hz <0.0005 <0.0005 0.003から0.020
MHz <0.0005 <0.0005 0.03から0.05 0.0002
化学的性質、耐薬品性 燃焼性、速度(mm・min-1 26.4 25.4から26.4
日光の影響 白化 白化 わずかに黄色化
弱酸の影響 抵抗 抵抗強 抵抗 抵抗大
強酸の影響 酸化性酸に侵される 酸化性酸にわずか 侵される 酸化性酸に侵される
弱アルカリの影響 抵抗 抵抗強 抵抗 抵抗強
強アルカリの影響 抵抗 抵抗大 抵抗 抵抗強
有機溶剤の影響 60℃以下で抵抗 80℃以下で抵抗 50℃以上で侵される 80℃以下で抵抗

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