ABS樹脂の物性と用途、特性について

2013年9月3日更新

ABS樹脂は耐熱温度は70〜100℃で、比重は1.05から1.07の材料で、アクリロニトリル(A)、ブタジエン(B)、スチレン(S)の頭文字をとって命名されています。この名称が示す通り、これらを材料にしたプラスチックです。

耐薬品性(酸、アルカリ)もそこそこありますが、樹脂の中では他にもABS以上の特性を持つものはあります。アルコールには長時間漬けると膨潤します。また鉱物油や強酸、強アルカリ等でも劣化、侵されます。外観は美しく、光沢にも優れています。また印刷特性もよい材料です。外観は完全にクリアな透明ではなく、薄く黄色(肌色、アイボリー)がかっています。

機械的性質のバランスが良いことでも知られ、耐衝撃性や加工性、硬度に優れます。着色や難燃化、繊維強化も可能な樹脂です。

ただ直射日光にはあまり耐性がなく、長時間あてると劣化していきます。この耐候性という部分では、どのような色で着色したのかも影響するとされます。約500℃で発火しますが、これは樹脂の条件にもよります。

用途は、他のスチレン系樹脂で用いられる大半のものに適用可能で、OA機器、自動車部品(内外装品)、ゲーム機、建築部材(室内用)、電気製品(エアコン、冷蔵庫の外側。いわゆる電子・電気機器全般のハウジング用途)、雑貨、文具、家具、楽器(リコーダー)、機械部品等があります。スーツケースやキャリーケースもABS樹脂製の軽いものが発売されており、ポリカーボネートと並んでこの用途も多い樹脂です。ABS樹脂を改良したものに、難燃ABS樹脂であるFR-ABSや、ガラス繊維を入れた強化ABS樹脂等があります。

他のプラスチック同様、ABS樹脂に添加するフィラーによって物性や性質は異なってきますので、これらとあわせて検討していく必要があります。

ABS樹脂の物性
フィラー(充填材)、タイプ 耐高衝撃性 耐燃性 グラスファイバー(GF)充填
物理的性質 密度(g・cm^-3) 1.01から1.04 1.16から1.21 1.23から1.36
融点(℃) 結晶性
非晶性 100から110 100から125 110から125
透明度 半透明〜不透明
吸水率(%)3mm、24h 0.2から0.45 0.2から0.6 0.18から0.4
成形特性 成形温度範囲(℃) 射出:193から273 193から260 260から287
成形圧力範囲(kgf・cm^-2) 562から1758 562から1758 1054から2812
成形収縮率(%) 0.4から0.9 0.4から0.8 0.1から0.2
機械的性質 引張強さ(kgf・mm^-2) 3.0から5.27 3.5から5.0 5.9から13.4
最大伸び率(%) 5.0から70.0 5.0から25.0 2.5から3.0
圧縮強さ(破壊、降伏)(kgf・mm^-2) 3.16から5.62 4.5から5.2 8.4から15.5
曲げ強さ(破壊、降伏)(kgf・mm^-2) 4.2から7.7 5.6から9.8 11.2から19.0
引張弾性率(kgf・mm^-2) 154から232 225から281 415から724
圧縮弾性率(kgf・mm^-2) 98から211 91から218 -
曲げ弾性率(kgf・mm^-2) 141から274 176から281 635から914
アイゾット衝撃値(kgf・cm・cm^-1) 27から65 8.7から65 5.4から13.1
硬度(硬さ) ロックウェル R85から105 R90から120 M65から100
ショア - - -
熱的性質 熱伝導率(10^-4cal・s^-1cm^-2)(K・cm^-1)^-1 4.5から8.0 4.5から8.0 4.5から8.0
比熱(cal・K^-1g^-1) 0.3から0.4
線熱膨張率(10^-5K^-1) 9.5から11.0 6.5から9.5 2.9から3.6
熱変形温度(℃)
18.6kgf・cm^-2
4.6kgf・cm^-2
96から105 90から105 98から115
電気的性質 体積抵抗率(Ω・cm)(23℃、50%RH相対湿度) 1〜4.8×1016 1.4〜1.6×1014 7.2〜16×1014
絶縁強さ(短時間法)(3.18mm)/kV・mm-1 17.3から17.7 14.5から17.3 15.3から17.3
比誘電率(εγ 60Hz 2.4から5.6 2.4から5.0 2.4から5.0
MHz 2.4から3.8 2.4から3.8 2.4から3.8
誘電正接(tanδ) 60Hz 0.003から0.008
MHz 0.007から0.015
化学的性質、耐薬品性 燃焼性、速度(mm・min-1 15.2から25.4
日光の影響 無〜わずかに黄色化、ぜい化
弱酸の影響
強酸の影響 濃酸化性酸に侵される
弱アルカリの影響
強アルカリの影響
有機溶剤の影響 ケトン、エステル、炭化水素に溶解

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