バイオプラスチックの種類と原料|デメリットや課題はどこにあるか

2021年5月26日更新

バイオプラスチックとバイオマスプラスチック、生分解性プラスチックの違い

バイオプラスチックとは、微生物によって生分解される「生分解性プラスチック」と、バイオマス(デンプンやセルロースなどの生物有機資源)を原料として製造される「バイオマスプラスチック」の総称のことです。近年は生分解性プラスチックのことを「グリーンプラスチック」「グリーンプラ」と呼称し、識別表示制度も設けられています。

その種類は実用品含めて近年の脱プラスチックの動きの中で増えてきていますが、分類方法として「原料」(自然のバイオマス由来の原料か)で区分するか、「機能」(生分解性か、非生分解性か)で区分するかで以下のようなマトリックスとなります。

バイオマスプラスチック、生分解性プラスチックの分類表
  石油化学由来のプラスチック バイオマスプラスチック
石油化学由来の原料+バイオマス由来の原料 バイオマス由来の原料
非分解性プラスチック
  • PE(ポリエチレン)
  • PP(ポリプロピレン)
  • PVC(ポリ塩化ビニル)
  • PS(ポリスチレン)
  • PC(ポリカーボネート)
  • PMMA(メタクリル樹脂)
  • PA6(ポリアミド)
  • PA66(ポリアミド)
  • バイオPET
  • バイオPTT
  • バイオPP
  • バイオPU
  • バイオPA610
  • バイオエポキシ樹脂
  • バイオフェノール樹脂
  • バイオ芳香族ポリエステル
  • バイオ不飽和ポリエステル
  • バイオPE
  • バイオPA11
  • バイオPA1010
生分解性プラスチック
  • PVA(ポリビニルアルコール)
  • PGA(ポリグリコール酸)
  • PCL(ポリカプロラクトン)
  • PBAT(ポリブチレンアジペート/テレフタレート)
  • PES(ポリエチレンサクシネート)
  • PBS(ポリブチレンサクシネート)
  • バイオPBS
  • バイオPBST
  • PLA(ポリ乳酸)
  • PHA(ポリヒドロキシアルカン酸)

表からわかるとおり、バイオマス由来原料を使っており、なおかつ生分解できる特徴をもつ分類にはわずか2種しかありませんが、生分解性プラスチックの中には石油化学由来の原料を出発材料としているものもあります。表のセルがピンク色のものがバイオプラスチックの分類に入るものです。つまり、生分解性プラスチックか、バイオマスプラスチックのいずれに当てはまるものがバイオプラスチックとなります。

分解性の定義と基準

生分解性プラスチックは通常の使用時には汎用プラスチック同様に使用可能で突然分解されたりはしません。

主に使用後に、微生物の働きで最終的に水や二酸化炭素にまで分解され自然界にかえっていく性能を持った素材です。

また生分解というのはプラスチックがばらばらになるということではなく、分子レベルまで分解されることです。 生分解度が60%以上あれば、生分解性プラスチックとして認証されます。原料の由来が天然物だからというわけではなく、あくまで微生物に「分解」できるかという視点であるため、石油由来のものでも分解可能なものもあります。

この分解できる、土にかっていくという性質から昨今問題となっているマイクロプラスチックをはじめとする自然環境への悪影響と人体への影響懸念の双方の解決の糸口となりうる素材として注目を浴びています。ただ、エコな素材であることはたしかですが、製法上は薬剤の使用制限があるわけではないため、人体に対する影響については出発素材とその製法や使用薬剤にもよります。

自然界で分解されるプラスチックには、こうした生分解タイプのものだけでなく、光崩壊型や生物崩壊型も存在しますが、これらは光や熱を受けることで添加材の作用により崩壊していくため、プラスチック部分がどうしても残存してしまい、完全に水と二酸化炭素まで分解される生分解性プラとは異なるものです。

また多くのプラスチックは長時間紫外線などにさらされているとボロボロになって崩れていきますが、廃棄されたプラスチックもこのように崩壊はしていきます。ただしいくら微細なサイズ、例えば数十μmに満たない大きさとなったとしても、無害な物質に分解されたわけではなく、単にプラスチックがより細かくなって回収不能になっているだけです。近年問題となっているマイクロプラスチックの問題は、こうしたものが人や動物の体内にも取り込まれてしまっている問題です。

主なバイオプラスチックの種類

PLA|ポリ乳酸

微生物発酵による乳酸を原料としたポリマー。生分解性だけでなくバイオマスプラスチックでもあります。イモ類やとうもろこしといった植物から取り出したデンプンを発酵させることで作られた乳酸(モノマー)を重合してポリマーとしたもの。硬質プラスチックとして使われます。

PGA|ポリグリコール酸

グリコール酸のポリマー。生分解性プラスチック。乳酸と同じくα-ヒドロキシ酸。ただし、グリコール酸は化石資源由来のものから合成されています。PLAよりも加水分解されやすく、生体吸収性が高いため、吸収性の縫合糸等の医療用途でも使われます。

なお、グリコール酸はサトウキビやブドウの実や葉にも存在するとされますがこれらを効率的に取り出す方法がなく、石油化学由来の原料から合成せざるを得ない状況です。

PHA|ポリヒドロキシアルカン酸

ヒドロキシブタン酸のポリマー。生分解性プラスチック。結晶性があります。糖や脂肪酸を微生物発酵させることで直接得られるポリエステルになります。このため、PEやPPといった軟質系プラと強度をはじめとする力学特性は似ています。

土壌や海水はじめ、分解可能な微生物が多岐にわたる点も特徴です。

分子構造や共重合のものが使用する微生物を変えたり、微生物に与える炭素源を変えることで可能になります。

PCL|ポリカプロラクトン

ラクトン類の開環重合によって得られる脂肪族ポリエステルで、生分解性プラスチックに分類されます。石油化学原料由来のプラスチックになります。耐熱温度が低く、融点も60℃程度になるため、単独での使用というよりは他のプラスチックの改質剤として使われることがあります。細菌や酵母由来のリパーゼ、エステラーゼといった加水分解酵素で簡単に加水分解される性質があります。

PES|ポリエチレンサクシネート、PBS|ポリブチレンサクシネート

ジオールとジカルボン酸の重縮合反応によって得られるポリエステルとなります。ポリエチレンと同等の物性や加工性能を持つ材料で、原料は石油化学由来のものから合成されます。バイオマス由来の原料ではありませんが、生分解性プラスチックの一つです。

PBAT|ポリブチレンアジペート/テレフタレート、PBST|ポリブチレンサクシネート/テレフタレート

上記のPESやPBSに耐熱性向上をはかるためにテレフタル酸を共重合ユニットとして導入した生分解性プラスチックになります。耐熱性については最大160℃まで融点を上げることができます。

PVA|ポリビニルアルコール

酢酸ビニルモノマーを重合したポリ酢酸ビニルを鹸化して作られる生分解性プラスチック。親水性が強く、水に溶ける樹脂という珍しい特徴を持ちます。分解は二つの酵素が関与していることがわかっており、オキシダーゼとヒドロラーゼの組み合わせで分解が進行していきます。

バイオPE|バイオポリエチレン

糖発酵で得られるバイオエタノールが原料となり、これを脱水反応によってエチレンに変換してこのエチレンモノマーを重合することで得られるバイオマスプラスチックです。分解はしませんが、石油化学由来の原料がバイオマス由来の原料に置き換わっているプラで、その性能は通常のポリエチレンと変わりありません。化学構造、基本物性ともにPEと同じです。

バイオPET|バイオポリエチレンテレフタレート

こちらもバイオPEと同様、石化由来の原料がバイオマス由来の原料に置き換わったPETとなります。したがって化学構造や基本物性はPETと同等です。糖発酵で得られるバイオエタノールを原料とし、これを脱水反応によってエチレンに変換して酸化・水和によってエチレングリコールへ変換します。これをテレフタル酸と重合することでバイオPETができます。ただし重量構成比30%分がバイオマス由来となります。

バイオマスプラスチックは他にもバイオPAやバイオPTT、バイオPPやバイオPU、バイオフェノール樹脂、バイオエポキシ樹脂などが実用化されています。

バイオマスのみに由来するものはバイオPEと一部のバイオPAのみとなり、あとはバイオマス原料と化石資源との組み合わせを原材料としています。

バイオプラスチックのデメリットと課題

分別コストと仕組みの整備

通常のプラスチックの資源ごみとしての分別も種類ごとに分けての回収が困難な状況で、結局、日本でもプラスチックの種類を指定した表示はPETだけです。バイオプラスチックを循環型社会の中で完全にリサイクルや環境負荷低減目的で使っていくのであれば、しっかりした分別の仕組みが必要です。

まず生分解性プラスチックとバイオマスプラスチックも同じように扱うことができません。前者は分解しますが、後者には分解しないものもあります。

種類にもよりますが、生分解性プラスチックも分解できる微生物の種類がある程度限定されます。土壌では分解できても、そのまま海洋投棄された場合どうなるのかという点も考慮の必要があります。

生分解性については、詳しく言うのであれば「土壌中生分解可能」「汚泥中生分解可能」「海水中生分解可能」といった具合に、分解可能な環境の明示が必要です。

土壌では分解されやすくても水環境では分解されにくいものもあります。

コスト高

石油由来の従来型プラスチックに比べるとコストが高くなりがちで、製品ベース、商業ベースで考えると採算の問題が出てきてしまう用途もあり、普及にはこれがひとつの課題となります。

製法での環境負荷

製法によっては大きなエネルギーが必要でこれらは現実的には化石燃料をもとにしたエネルギーに頼らざるを得ない、

また製造過程で環境負荷のかかる物質や有毒な物質をまったく出さないというような製品ばかりではないため、バイオプラスチックへの置き換わりがすべてを解決してくれるわけではないという状況です。

耐熱性、強度面での不安

耐熱性に劣る、強度に劣るといったデメリットは新素材や製法の開発により徐々に解消されつつあります。汎用プラスチックと比較して、の範囲です。スーパーエンプラやスーパー繊維に代表されるような高分子材料は、グリーンプラやバイオプラでは代替が難しいものがあります。ただし、バイオマスエンジニアリングプラスチック(バイオエンプラ)も開発されており、この面でのデメリットは特殊な用途ではない限り払拭されつつあります。

射出成形しにくいものがある

結晶化速度が遅いタイプのバイオプラスチックの場合、大量生産を前提としている主流の成形方法となる射出成形で使いづらいというデメリットがあります。

耐久材料には不向き

外での使用や耐久性が長期間にわたって必要な用途には向きません。というのも、生分解性プラスチックは分解されることを前提にした材料となるためです。

使用する原料の農産物

原料が固有の植物、飼料などになるため、大量に必要とするプラスチックの製造に使われるようになると単一農産物の生産にシフトし農業の多様性が失われ、病害等での全滅の危機、食糧生産に影響するという問題が懸念されます。

また、こうした作物の生産には農薬を多量に使用するため、土壌環境の悪化も懸念材料の一つです。

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