ITO(酸化インジウムスズ)の特性

2020年2月15日更新

ITO(酸化インジウムスズ)はIn2O3(酸化インジウム)とSnO2(酸化スズ)を混合した材料で、可視光領域に透過波長域を持ち、透明かつ導電性を持つ薄膜を形成できることから、光学部品をはじめエレクトロクロミックデバイス、FPD、エレクトロルミネッセンスデバイス等その用途は多岐に渡ります。また赤外波長を吸収する特性を持ちます。ITOの膜質は加熱する温度により結晶質になります。概ね150℃程度で膜質の結晶化がはじまるとされています。

ITOの酸化インジウムと酸化スズの混合比は変更可能なことが多く、一般にはIn2O3:SnO2=95:5のものがよく見られますが、90:10のものや85:15、97:3など様々な比率のものがあります。この材料の肝とも言える抵抗値は蒸着条件や成膜手法によりかなり変わると言われています。

レアメタルであるインジウムを使用することから、以前、金属相場の高騰により材料調達が困難になった時代もあります。相場が落ち着いても、材料価格としては高価な部類になります。インジウムは亜鉛採掘の際の副産物として取れますが、希少資源であることに変わりなく、代替材料としてZnOやAZOなど様々な透明導電膜材料の検討が進められてきています。

スマートフォンやタブレットをはじめ、タッチパネルタイプの電子機器、情報機器が主流になるにつれ、透明導電膜なしでは産業自体が成り立たなくなっているとも言えます。

一般に、ITO膜(透明導電膜)の抵抗率、透過率に影響を及ぼす蒸着条件としては以下のものがあります。

膜厚
厚くすると抵抗率が下がり、可視域での透過率も低下。
基板温度
アシスト機構によるイオンボンバードができない場合、概ね300℃程度で低抵抗率、高透過率。成膜後のアニール処理でも効果があることが知られています。
酸素分圧
値が大きいほど高透過率、高抵抗。
表面平滑性
表面粗さが低い(表面が平滑な)ほど比抵抗は下がり、透過率も上がるとされています。
Snの比率
多すぎても少なすぎても抵抗値は上がるとされています。若干ですが透過率も影響を受けるとされています。
成膜手法
電子ビーム蒸着、CVD、マグネトロンスパッタリング、イオンプレーティング、反応性蒸着、ゾルゲル法等同じ材料用いても成膜の手法により違いが出ます。
膜特性(ITO 酸化インジウムスズ)
屈折率 2.06-i0.016 ※4
使用波長域 0.4-1μm ※4
蒸発方法 EB(電子ビーム)、RH(抵抗加熱)、レーザー
蒸発源材料 -
蒸発タイプ 昇華
膜質 結晶質(加熱)、非晶質
応力 圧縮
主な用途 透明導電膜、反射防止膜、電磁波防止膜、IRカット膜(熱線遮蔽)、帯電防止、静電防止
ITOの材料特性(一般的なバルクの物性値)
理論密度 -
融点 In2O3 三方晶系:850℃(揮発)※1
SnO2:1630℃
沸点 SnO2:1800〜1900℃(昇華)
性質 In2O3:可溶(酸:非晶)、不溶(水、(酸:結晶))※1
SnO2=融点:1630、沸点:可溶(KOH,NaOH)、不溶(水、王水)※2
結晶構造 In2O3: 立方晶系 Sc2O3型 ※3
SnO2: 正方 ルチル型 ※3
抵抗率ρ/10^-8Ωm 成膜条件による
誘電率、比誘電率εγ -
熱膨張係数 -
熱伝導率(cal/cm/sec/℃) -
比熱(cal/℃/mole) -
外観
CAS-NO 酸化インジウム(1312-43-2)
酸化スズ(18282-10-5)
輸送情報 輸出貿易管理令(リスト規制非該当)

参照文献

  • ※1:[日本化学会編,“化学便覧 基礎編 改訂5版”,丸善(2005),p.T-231]
  • ※2:前掲 p.T-331
  • ※3:[日本化学会編,“化学便覧 基礎編 改訂5版”,丸善(2005),p.U-839]
  • ※4:光学薄膜と成膜技術 李正中 署 株式会社アルバック訳 アグネ技術センター2005年8月30日初版第三刷

専門誌等で発表されているITOの薄膜に関する研究論文

掲載誌 Physica E: Low-dimensional Systems and Nanostructures, (2007)
タイトル "Influence of heat treatment on structural, electrical, impedance and optical properties of nanocrystalline ITO films grown on glass at room temperature prepared by electron beam evaporation"
著者 Hamid Reza Fallah, Mohsen Ghasemi, Ali Hassanzadeh
概要 電子ビームによる真空蒸着で成膜したITO膜について、成膜後のアニール処理温度の違いによる膜構造、抵抗値、透過率、吸収深さ(1/α)、キャリア密度等の違いについて考察した論文
掲載誌 Materials Research Bulletin 42(2007)487-496
タイトル "The effect of annealing on structural, electrical and optical properties of nanostructured ITO films prepared by e-beam evaporation"
著者 Hamid Reza Fallah, Mohsen Ghasemi, Ali Hassanzadeh, Hadi Steki
概要 室温にて電子ビームによる真空蒸着で成膜したITO膜について、アニール処理の温度を変えることで(350℃〜550℃)、膜の結晶性、抵抗値、透過率、バンドギャップ、粒径等がどのような変化を見せるか考察した研究
掲載誌 Thin Solid Films 496(2006)81-88
タイトル "Material properties and growth control of undoped and Sn-doped In2O3 thin films prepared by using ion beam technologies"
著者 Seok-Keun Koh, Young-gun Han, Jung Hwan Lee, Un-Jung Yeo, Jun-Sik Cho
概要 イオンビーム技術を用いた各成膜法(イオンアシスト蒸着IAD、イオンビームスパッタ法IBSD、イオンアシスト反応法IAR、ハイブリッドイオンビーム)にて、スズを添加していない酸化インジウムと添加したITOをガラス、ポリマー基板にそれぞれ蒸着し、蒸着条件の違い(Arrival ratio、電子ビームパワー、酸素分圧、基板温度等)が及ぼす膜質、膜構造、表面粗さ、抵抗値、キャリア密度への影響について考察
掲載誌 JOURNAL OF APPLIED PHYSICS 97, 033504 (2005)
タイトル "Influence of gaseous annealing environment on the properties of indium-tin-oxide thin films"
著者 R. X. Wang, C. D. Beling, S. Fung, A. B. Djurisic, C. C. Ling, and S. Li
概要 -
掲載誌 Thin Solid Films 411(2002)32-35
タイトル "Electrical properties of crystalline ITO films prepared at room temperature by pulsed laser deposition on plastic substrates"
著者 Hirokazu Izumi, Tsuguo Ishihara, Hideki Yoshioka, Muneyuki Motoyama
概要 ポリカーボネート基板へパルスレーザー蒸着(PLD, pulse laser deposition)にて成膜された結晶質のITO膜について、成膜中のレーザー照射による電気的特性の変化について考察した論文。ITO/PC基板、 ITO/CeO2/PC基板、ITO/CeO2/Al2O3/PC基板のそれぞれについてレーザー照射の有無での変化についても考察した
掲載誌 Thin Solid Films 162(1988)305-313
タイトル "PREPARATION OF INDIUM TIN OXIDE FILMS BY VACUUM EVAPORATION"
著者 ZHI CHEN, KAIYU YANG AND JIANQOU WANG
概要 ガラス基板に抵抗加熱法によりITOを真空蒸着し、ボートの表面温度、酸素分圧、Sn比等がITO膜の透過率、抵抗率にどのように影響を与えるか考察した研究。タンタルから自作したボートを用い、ボートの表面温度や口径が膜の特性に影響することを示した
掲載誌 Thin Solid Films, 76(1981)97-105
タイトル "ELECTRICAL PROPERTIES OF POST-OXIDIZED In2O3:Sn FILMS"
著者 MAMORU MIZUHASHI
概要 真空蒸着により成膜した酸化インジウムスズ膜について、Snの比率、酸素導入圧、膜構造(膜の粒子径)、ベーク時間の違い、蒸着中・蒸着後の酸化処理によって電気的特性(抵抗値)がどのように変化するのか調査した研究論文。酸化処理により透明なITO膜に至るまで抵抗値の変化には3つの段階があることを示した。
掲載誌 KONICA TECHNICAL REPORT VOL.14(2001)
タイトル "透明導電膜の反射防止膜への応用"
著者 中野智史、徳弘節夫、中村新吾、山本幸司
概要 プラスチックレンズ基板へのイオンプレーティング法による蒸着で、ITOを用いた低反射・高透過率、電磁波遮蔽効果を持つARコートを低温成膜する条件についての研究

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