商物分離のメリットとデメリット

2021年12月12日更新

商物分離(読み方:しょうぶつぶんり)とは、営業マターとなる客先との売買・商取引と、商品の現物出荷・納入にかかわる物流業務を分離するという意味を持ち、わかりやすくいえば、営業担当が自分で納入を行うというような物流業務からは手を放し、物流部門が受注から出荷・納入を請け負うという施策のひとつです。商物一致(読み方:ちょうぶついっち)というのがこの反対の意味を持つ用語です。

商物分離と商物一致

何を当たり前なことを、と思われる方はすでに商物分離が徹底された業務環境におられる方かと思います。実際には営業が客先からの注文書を受け取り、それに基づいて商品を仕入れたり、営業在庫から注文のあった品物をピックアップして自ら営業車に積み込んで顧客へ納品するという業態をとっている会社は多くあります。販売と納入が一致しており、これが商物一致の世界です。

この場合、在庫の仕入補充のための発注、納期調整、安全在庫数の決定や数量管理、梱包、積み込みといった業務が営業の手でなされることになります。

規模が大きくなるほどにこの商物分離を徹底しないと営業部門を極めて非効率な部隊としてしまうか、物流業務を行うスタッフも営業部門内に抱える肥大化した組織にしてしまいます。営業部門が営業活動に専念できるように考案され、在庫管理や受注から配送まわりの面倒を別のロジスティックスにかかわる部門が見る、というのが商物分離の根底にある思想です。

分離した場合、具体的には倉庫にしても配送センターや物流拠点を設けてそこで集中管理していくことになります。また営業担当が自分で在庫を行っている場合、特定の在庫をいわば自分の在庫のように私物化してしまう現象もあり、競争相手である社内の他の営業担当には使わせない、何個あるかも分かるようにしていないというケースすらあります。在庫の仕入れや処分にも裁量があるため、在庫が増えがちで管理もずさんになってきます。営業は売り上げを上げることがノルマですが、在庫削減が目標になることはまずないためです。

これを会社の共通の資産としてより効率的に活用するにはどうすればよいかという発想のもと、在庫管理を行う部隊を分けるというのは一つの大きな発想の転換とも言えます。営業在庫として運用する問題点は、「工場在庫と営業在庫」でもご紹介しています。

商物分離の事例

商物分離は大きくは2つのパターンがあり、その中でもさらにどの程度の営業事務的な業務や在庫管理を、営業外の部門が行っているかによって細分化されます。この辺りは各社の経営資源の活用方法などの戦略や社内政治、マンパワーの問題などもあり、一概に一括りにできず、会社が違えば、同じ業種や同じ規模でも線引きがかなり異なることがあります。

実施主体による分離基準

  • 1.社内で営業部門、物流(ロジ)部門と担当部署を分ける
  • 2.物流(ロジ)の一部または全部を社外へ委託する。いわゆる客先への納入代行を外部の会社に委託。

仕事内容による分離基準

ケース別の商物分離の程度
業務分野 委託内容
在庫管理 現物の入出庫業務と記録、在庫表の作成・提供
在庫の補充発注業務を実施
基準在庫の設定を実施
入出荷管理 入荷したものをそのまま出荷するのみ
荷姿の変更、詰め替えが必要
出荷時や入荷時の検品を実施
受領書や納品書などの伝票・帳票類の管理運用
受発注管理 客先の注文書や納入指示は営業部門に入り、それが情報展開される
客先の注文書や納入指示が直接物流倉庫サイドに入る
受注には固有のシステムの導入が必要でそのシステムを物流倉庫側に入れている
客先対応 客先からの連絡は営業部門が受け、そこからの指示に基づき出荷を行う。
倉庫側で客先のスケジュール等を把握し客先からの追加注文などの問い合わせも受け納期調整交渉まで実施する
物流上の不具合におけるクレーム窓口としての対応も行う
不具合品の代品納入や客先へ納入されてしまった不具合品の回収も行う

メリットとデメリットの比較

上記のように仕事内容をどの程度まで営業外の部門が行っているのか、あるいは委託しているのかによってメリットとデメリットも異なりますが、下表に代表的な内容をまとめます。

商物分離のメリットとデメリット
メリット デメリット
  • 営業担当が物流業務や在庫管理業務から解放され、営業活動に専念できる。
  • 社内の場合、在庫が全社管理できるようになり、棚卸資産の圧縮やCCCの向上といった全体最適につなげていける可能性がある。
  • 配送センターをまとめることで、各営業所から発送していた場合、物流コストを効率化できる。
  • 同一品を複数の営業所の倉庫で持っていたような場合、在庫管理場所を一元化して、最適な数量にできる。
  • 在庫最適化・低減による在庫コストと、営業効率向上の効果を見た場合、長い目では費用対効果が大きくなる。
  • 多品種で納入頻度や発注頻度の多いものや大型のものなど対応に時間のかかる受注出荷業務でも、専門の担当がいると、営業部門における対応が不要となり業務構造の変革ができる。
  • 営業に専念できることで営業のスタイルが変わる。提案営業となるため、納品にかこつけて訪問するといった従来の方法を変えることになり、うまくマッチすれば受注増やより効率的な営業活動に結び付く。
  • 在庫運用の技法に疎い営業担当であっても、専門の部署や社外が管理する場合、欠品や過剰在庫の発生に悩む必要がなくなる。
  • 営業担当の多くは売上や利益が目標となり、在庫を多く持つことにデメリットを感じない為、在庫が増えすぎる傾向があるが在庫管理の専門部署が行う場合は、在庫回転期間や回転率が目標となり、在庫が最適化しやすい。
  • 営業在庫としての運用で最も問題となる三悪とも言われる「欠品」「過剰在庫・不動在庫化」「偏在(必要なときに必要な数だけ必要な場所に在庫がない)」を減らすことができる。
  • 受注から納入までを社外に委託する場合、費用がかさむ。支払い方法にもよるが、製品売買価格の%にしてしまうとわずかでも大きな経費となる。
  • 社内で新たに行う場合、営業部門から業務を引き継ぐ部門の負担が大きい。場合によっては営業が新たにこれだけの売上を確保するのでこの業務を担ってほしいという費用対効果を明らかにする必要がある。つまり売り上げが増えないのであれば、人件費が増える施策であるため、効果が微妙なことがある。
  • 納入にかこつけて営業や客先動向の情報収集もついでに行うというスタイルの営業活動ができない。業態によっては営業が訪問をする機会が減ってしまい、営業機会が低下することがある。営業の変革とあわせて実施する必要がある。単なる工数減だけを狙うとうまくいかなくなる。
  • 日々の出荷にかかるトラブルが見えにくい。出荷や納入にかかわるクレームが後手にまわる。
  • 社内外どちらにしても営業外の部門は、客先の需要動向の情報キャッチがワンテンポ遅れるか、情報が不足しがち。それが原因で在庫過多や欠品が発生する可能性がある。
  • 昨今はあまり聞かないが、客先によっては外部会社へ発注書を送り、そこから出荷という形態に難色を示す場合が稀にある。
  • 社外に委託する場合、秘密保持などの契約を結ぶにしても、受注情報や出荷情報が蓄積されるので、自社の販売状況がすべて丸見えとなってしまう。
  • 緊急出荷への対応をどこまでやってもらえるかによるが、営業担当が自ら運ぶという選択肢がないので、こうした事態発生時は交渉ごとになる。
  • 長らく社外に委託していると客先の納入慣習がわからなくなり、例えば客先の注文を専用のシステムへ受注しているというような場合、そのシステムの使い方も社内では誰もわからなくなる。結果、委託先を簡単に変えられない。
  • 客先対応まで委託する場合、どのような方針でどこまでやってもらうかよく内容を詰めないと、この対応が原因で失注することがある。
  • 社外委託先の場合、在庫のスペースがない等の理由で必要な在庫を減らすなどの勝手を行うことがある(あるいは反対に多く持ちすぎる)。権限と責任を明確にしておく必要がある。

冒頭で述べたように商物分離は、営業担当を物流業務から解放させる施策とはいえ、実際に導入する場合は「営業施策をどうするか」という点と、「在庫の全社管理によりどのように経営資源の効率化をはかるか」という点は事前に吟味しておくべき内容といえます。

お客さんへ自社の製品を納入がてら訪問し、そのたびに世間話や情報を聞き出して役立ちそうな提案を行っていくという昔ながらの御用聞きの営業スタイルを続ける場合、一概に商物分離がいいかと言われるとそうとも言い切れない部分があります。

自社の営業規模やスタイル、人員の問題を複合的に考えてどのような販売と納品物流の取り回しにするか社内で議論するのもひとつの経営改善です。この際、物流と商流がどのようになっているのか、模造紙に図式化して書いてみて誰が見てもわかるようにして議論すると生産性の高い会議になると思います。

「商物分離のメリットとデメリット」に関する記事一覧

スポンサーリンク

>このページ「商物分離のメリットとデメリット」の先頭へ

砥石からはじまり、工業技術や工具、材料等の情報を掲載しています。製造、生産技術、設備技術、金型技術、試作、実験、製品開発、設計、環境管理、安全、品質管理、営業、貿易、購買調達、資材、生産管理、物流、経理など製造業に関わりのあるさまざまな仕事や調べものの一助になれば幸いです。

このサイトについて

研削・研磨に関わる情報から、被削材となる鉄鋼やセラミックス、樹脂に至るまで主として製造業における各分野の職種で必要とされる情報を集め、提供しています。「専門的でわかりにくい」といわれる砥石や工業の世界。わかりやすく役に立つ情報掲載を心がけています。砥石選びや研削研磨でお困りのときに役立てていただければ幸いですが、工業系の分野で「こんな情報がほしい」などのリクエストがありましたら検討致しますのでご連絡ください。toishi.info@管理人

ダイヤモンド砥石のリンク集

研磨や研削だけでなく、製造業やものづくりに広く関わりのあるリンクを集めています。工業分野で必要とされる加工技術や材料に関する知識、事業運営に必要な知識には驚くほど共通項があります。研削・切削液、研削盤、砥石メーカー各社のサイトから工業分野や消費財ごとのメーカーをリンクしてまとめています。

研磨、研削、砥石リンク集