ゴムにおけるスコーチとは何を意味しているか

2021年2月15日更新

スコーチ(英語ではScorch)とはゴム製品の製造過程で発生する原料不良の一つである「ゴム焼け」ともいい、加硫が進みすぎてゴムの使用期限が過ぎてしまっている状態を意味しています。ゴム製品の加工が不可能になるため、これが起きると原料である配合ゴムが使えなくなります。

ゴム製品はまず配合ゴムを練って、加熱加圧を行って加硫を進めることで狙った形状や特徴をもつ製品となります。その原料ともいえる配合ゴムにはすべて有効期限がありますので、スコーチ発生をいかに防ぐかという戦いでもあり、スコーチタイムの長いものほど、条件にもよりますがこの現象に猶予があるため、ゴム焼けしにくい原料ということがいえます。

スコーチタイムは、ゴムの加工性や流動性をみるための指標であるムーニー粘度で計測することができます。ただゴムは多種多様な薬品を添加して「配合ゴム」となるため、同一の配合や条件でないと比較は困難となります。

加硫に至るまでのゴム製造工程で発生

この現象を理解するためにまず簡単にゴム製品の製造工程をおさらいしておきます。

ゴム製品の製造工程は大きく分けると、以下の4段階になります。

  • 1.ゴム練り(素練り、混練り、S混)
  • 2.未加硫ゴム加工(ゴム成形、カレンダー、押し出し)
  • 3.ゴム加硫工程
  • 4.仕上げ

ゴム練りとは原料となるゴム(合成ゴムや天然ゴム、あるいはそのミックス)に充てん剤、加硫剤、加硫促進剤といった各種薬品(有機・無機)を練りこんでいく工程で、まさにゴム製品のもとになる原料とも言える「配合ゴム」を作る工程です。

このあとに、製品を作るための加硫機やプレス機に適合するサイズに整える加工工程となる未加硫ゴム加工を行い、さらにゴムの加硫工程を経て、製品としての性能・形状を確固たるものにします。ゴムは加硫しないと強度、物性、どれをとっても製品として使える品質にはなりませんが、逆に言えば、この工程が終わると形状を自由に変えられなくなります。

加硫後は製品の種別ごとに仕上げ加工を行い、最終的にバリをとったり等で完成品になります。

発生の原因と工程

「ゴムは加硫しないと製品にならない」と申し上げましたが、このタイミングが重要で、原料として使うことのできる状態になっている「配合ゴム」というのは、加硫機で熱をかければ加硫が進んでゴム製品になりますが、加硫機で加熱しているとき以外にも加硫現象が進んでいます。加硫をするまではゴムは流動的で様々な形に加工できますが、それが終わってしまうと形が決まってしまいます。

具体的には、以下の工程、つまり加硫が終わるまでの間はいつでも起きる、ということになります。

  • 混錬作業
  • カレンダー作業
  • 押し出し作業
  • 貯蔵中、倉庫に保管中
  • 加硫成形工程で金型のなかで流動中にも発生

スコーチの発生原因としては、温度と配合剤の影響で加硫が進んでしまうということになります。ゴムの種類によってもスコーチの発生のしやすさ、しにくさというのはあります。クロロプレンゴムといったスコーチの発生しやすいもの使う場合は特に配慮が必要です。

配合剤のうち、加硫剤、加硫促進剤、架橋助剤、老化防止剤、加硫促進助剤などが特に影響するとされますが、加硫促進剤の種類、量、温度にも関係してきます。

特に混練りの後工程で加硫剤である硫黄を練りこんでいく工程であるS混された練りゴムを放置しておくと、ゴムが蓄熱されているため、スコーチがどんどん進んでいき、ゴム焼けとなることが知られています。ゴム同士が引っ付かないように融着防止剤となる離型剤を混ぜた冷却水につけて練りゴム自体を冷やしていく必要があります。

スコーチが起きたゴムを使うとどうなるか

スコーチが起きるとゴム製品製造におけるさまざまな不良の原因となります。例えば、ウェルドライン(ゴム製品の表面に筋や傷のようにみえる外観不良)、ショートショット(金型の製品を作る部位であるキャビティの部分に材料であるゴムが完全に充填されない不良。加硫が進んでしまっているからゴムがすでに硬くて流動性低く、キャビティにきちんと入っていかない)、フローマーク(ゴム材料の流れにそった筋状の模様が出てしまう外観不良)、寸法不良(局所的変化)、接着不良、表面の転写不良、傷・ワレの発生など、成形にまつわるトラブルの多くにつながっている原因でもあります。

そもそも加硫が起きるとゴムは形状を確定させてしまうので、流動性が落ちます。これが金型の中であっても部分的に発生してしまえば、本来うまく流れるはずのゴムにひずみが生じてゴム製品の形状がうまくできなくなります。

スコーチ防止の対策

スコーチは、ゴムに配合剤といわれる薬剤を添加する以上宿命ともいえ、加硫を進めるための工程の前段階で加硫が起きてしまう現象であるため、これを食い止めるにはいくつかの対策を講じる必要がありますが、完全に封じるのは困難です。

  • 配合ゴム自体にスコーチ防止剤を添加し、スコーチ発生を遅らせる
  • 配合ゴム製造時に、各種薬品・配合剤をきちんと分散
  • 練りゴムの冷却方法を管理
  • 練りゴム加工時やゴム製品の加工時に温度管理
  • 配合ゴムの保管場所の雰囲気管理
  • 金型のキャビティにゴムを流し込む際、時間をかけずに最短で充填でき、同じ速度で加硫できるよう金型・設備・製法を工夫
  • 金型のスプルー、ランナー、ゲート構造の内径を大きめに設定する。あるいはスプルーレスやランナーレスの構造を検討する
  • 温調金型を使用する(金型で加工している最中の温度をコントロールしてスコーチが進まないようにする)
  • 金型のキャビティ(取り数)を制限する(取り数が多いと圧力を余計にかける必要があり、材料温度上昇する)
  • 金型のパーティングライン面(PL面)の間隔をやや広くする

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