カビにくい木材にはどのようなものがあるか

2022年9月23日更新

木材のカビは辺材変色菌と表面汚染菌とに分けて呼ばれ、カビ発生条件は環境の水分や栄養源に依存しますが、木の種類によってもカビにくい木材とカビやすい木材があります。またカビにくい木材でも、その性能は心材と呼ばれる木材丸太の中心部に限定されるという特性があります。

カビにくい木材にはどのようなものがあるか|目次
  1. 部位や樹種による影響
  2. 樹種ごとの防カビ剤処理
  3. カビの引き起こす変色
  4. カビ対策

部位や樹種による影響

同じ種類でも木材の部位によっても程度は異なり、例えば伐採されたあとの木材では心材よりも辺材に発生しやすいとされます。これは心材には抗菌性成分を含む樹種が多いことや辺材のほうが原因となる腐朽菌が利用しやすい栄養成分が含まれていることとも関係しています。

心材と辺材の違い

密度の高い木材も、隙間が少ないということから辺材でも腐朽しにくいといわれます。これは細胞壁が厚いため、腐朽菌の生育に必要となる空気や水分が十分に供給されないためです。もっとも木の用途が常時水がかかるような場所の場合はこれもなかなか難しくなります。

カビや菌による腐朽の強さを一覧にすると下表にようになります。

大と表示されているものが比較的カビにくい木材であり、腐朽に対しての抵抗力をもつ種類で、極小というのは反対にカビや腐朽菌に対しては弱い木材ということになります(ただし、心材部分)。

耐朽性にかかわる成分としては、フェノール類、トロポノイド、キノイド、スチルベン類、ロウ質物、テルペン類等があり、これらを含む木材は腐朽への耐性があるものが多いといえます。

カビや腐朽に比較的強い木材としては、サワラ、ヒノキ、ヒバ、クリ、ケヤキ等があります。

木材の種類ごとの耐朽性、耐腐朽性
樹種 耐朽性
サワラ
ヒノキ
ヒバ
ベイヒバ
ケヤキ
クリ
ベイヒ
ベイスギ
ホワイトメランチ
スギ
カラマツ
ミズナラ
ベイマツ
ダフリカカラマツ
イエローメランチ
アカマツ
クロマツ
ツガ
ブナ
ベイツガ
アピトン
トドマツ 極小
エゾマツ 極小
マカンバ 極小
シナ 極小
セン 極小
シオジ 極小
ラジアタマツ 極小
スプルース 極小
アガチス 極小
ラミン 極小

樹種ごとの防カビ剤処理

製材工場では木材に防カビ剤の浸漬処理を行うことでカビ対策としていますが、辺材がカビやすいものに対して以下のような間隔での処理が実施されています。

製材工場での防カビ処理と間隔の事例
カビの発生被害の頻度・程度と処理状況 主に辺材がカビやすい木材の種類
被害激しくほぼ通年での処理が必要 ラジアタパイン、中南米産マツ、オウシュウアカマツ、東南アジア産マツ
被害は激しいが初夏から秋の季節的な処理が必要 アカマツ、クロマツ、ロシア産エゾマツ、トドマツ、カラマツ
被害はさほど激しくないが通年処理をする ベイツガ、ベイマツ
被害はさほど激しくなく、梅雨時期など期間限定での処理をする ブナ、ミズナラ、カンバ類、シナ、シオジ、ヤチダモ、ケヤキ、スギ、ラワン類
被害は甚大だが産地国での処理実態が不明なもの ゴム、ラミン、ジェルトン、プライ、タウン、マトア、メラピ、アンペロイ、ジョンコン等南洋材
  

カビの引き起こす変色

木材の劣化や腐朽には様々な菌、微生物が関与しますが、これらをまとめて木材腐朽菌と呼ぶことがあります。なかでもカビはキノコ類と並んで主要な菌ではありますが、強度の劣化には直接的には影響しませんが、変色による外観の悪化やアレルギー症や真菌症の原因となるといった被害を引き起こすことがあります。

辺材変色菌
乾燥不十分な材木に侵入して辺材部を変色させる。材木中の糖やデンプン、アミノ酸、たんぱく質を栄養源とする。細胞壁の成分は利用しないので強度は劣化しない。ただ菌糸は細胞壁を貫通・縦断していく(子嚢菌、不完全菌)。この菌によるカビがよくみられる木材としては、アカマツ、クロマツ、エゾマツ、オウシュウアカマツ、ラジアータパイン、ブナ、ミズナラ、ゴムノキ等がある。
表面汚染菌
材木の表面に生育して変色汚染を引き起こす。菌糸は材木内部までは入り込まない。表面で大量の胞子を作る。栄養源は辺材変色菌と同じだが、木材表面のほこりや手あかも有機物として利用することがある。ラワン製材に用いられる水溶性の防虫剤処理を使ったことで逆に含水率が上がり、カビが発生することもある。
 

こうしたカビの原因菌による変色としては下表のようなバリエーションがあります。

木材のカビによる変色の種類
カビの色 要因、原因
青変 菌の生産する青黒色のメラニン系色素による変色。
褐変 褐色色素の沈着、菌の分泌酵素による木材のフェノール物質酸化による。
緑変 菌の生産する色素に由来。
赤変 菌の生産する色素に由来。

カビ対策

空気湿度95%以上で発生しやすいですが、結露等で木材の含水率が部分的に上昇するとその部分がカビの温床になるということもあります。

カビ対策としては、設置場所や空気の通り道を作るなどの風通しの改善、結露などで濡れる環境の場合、木部に水が接触しない工夫(水分が触れる箇所は別の素材にしてしまう等も)、水分・湿気の除去(除湿器の活用)と栄養分の除去(木材そのものの栄養分は除去できませんが、表面についた手あかやほこりなどの汚れの除去)のほか、防カビ剤の使用やカビや腐朽に強い木材の選択、防カビ処理済みの木材を使用するといった方法を組み合わせていくことになります。

ただ残念ながら常時水を吸うような木材用途だと、カビが嫌がる乾燥した木材、含水率約20%未満というのはなかなか実現しづらくなります。適度な酸素、水、温度、栄養分がそろうとカビの生育環境が整ってしまうので、そのどれかでも供給を断つ必要があります。

温度にしても人の生活環境とカビの生育環境はマッチしており、これをカビが死滅する温度にしてしまうと人も生活できなくなる問題があります。木材を個別に加熱できる状況なら、それも一つの方法です。多くは焼け石に水なのですが、ごく限定された範囲のカビなら、ドライヤーでの加熱も理論上はカビの嫌がる温度にすることは可能です。

そうした環境の構築が難しい場合、カビにくい木材を使用しつつ、防カビ剤で処理された木材を使う等の方法の併用というのも手ではあります。

もっともヒノキ風呂のような用途だと、防カビ剤を使ってしまうと低毒化が進んでいるとはいえ、人体への影響を心配する方もいるかもしれません。浴室自体の風通しを特別によくするか(冬は寒くなりますが)、ヒノキの浴槽自体を定期的に乾燥させる手段が必要となります。

なお、表面がカビてしまった部位を水拭きするのは逆効果です。目視できない菌糸がついていますので、表面の変色を落としても、逆に水分をカビに与えることになってしまいますので、アルコール等での除去が推奨されています。

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