木材の腐朽の原因

2022年9月23日更新

木材の腐朽(読み方:ふきゅう)とは、くさりくちることを意味しますが、この現象が起きると強度・外観を損ない、木で作られた製品や建造物を本来の形で維持することができなくなります。いわゆる金属にとっての腐食に相当するのが木材の腐朽です。木材の含水率が適切でなく、置かれた環境(酸素、温度)によっては急速に進行することもあります。本稿ではこの現象の原因と対策も含めて概観していきます。

原因は微生物と虫による食害

木材の腐朽の直接的な原因は、微生物と虫です。これらに侵食、食害されることによって木はボロボロになり、重量を失い、強度や形状、外観を保てなくなります。またこれら微生物や虫にはそれぞれ好む環境があり、それが出来上がってしまうと、より食害や腐朽に結び付きやすくなります。言い換えれば、微生物や虫が活動できる環境があり、そこに当該生物が根をおろしてしまうと腐朽していくことになります。

こうした点から、木材の腐朽の対策としては、以下の3つとなります。

  • 微生物や虫を駆除・防除する直接的なアプローチ
  • 上記の生物が活動しにくい環境を構築するアプローチ
  • 対策を施した木材や耐朽性の優れた木材を使用したり、他の材料と組み合わせる

以下、腐朽が発生する原因とそのメカニズムをもう少し掘り下げてみていきます。本稿では特に菌が引きおこす腐朽を中心に見ていきます。

腐朽を引き起こす菌

木材は生物であり、細胞壁で構成された部材です。その構成成分は約50%がセルロース、約30%がリグニン、約20%ヘミセルロースという天然の高分子で成り立っています。大多数の生き物にとってはこれら成分を直接取り込んで栄養源にすることはできませんが、木材腐朽菌として括られる一連の微生物は、細胞壁を分解し木材を朽ちさせて栄養源として取り込んでいきます。

こうした木材腐朽菌の代表的なものが、担子菌、子嚢菌、不完全菌といった所謂キノコやカビ類となります。他にも細菌や放線菌、ヒラタキクイムシに代表される乾材害虫によるもの、カミキリムシに代表される生丸太害虫によるもの、シロアリによる食害等があります。

腐朽を引き起こす代表的な菌を下記にまとめていきます。

細菌、放線菌による腐朽

水分を多く含む場所や酸素の少ない状態の木材に見られることがあります。果樹支柱木材の土中部がこれら細菌や放線菌に侵食されることもあります。ただ木造住宅等での被害のほとんどは後述するキノコ類となります。

キノコ、カビによる腐朽

実際のところ木材の多くはキノコ類にやられて腐っていきます。カビは変色によって外観や居住環境を悪化させますが、木材そのものをボロボロにはしません。キノコというと食用のものが思い浮かびますが、分類としては同じ生物でも木材を腐朽させていくタイプのものとはだいぶ見かけが異なるものもあります。ほとんどの木材腐朽では一般的にイメージされるキノコが生えているわけではないですが、腐朽が進行すると、菌糸が木材に入り込んでいる形となります。

褐色腐朽菌

針葉樹でよく発生します。担子菌であり、木材の細胞壁の主成分となるセルロースとヘミセルロースを選択的に分解する性質を持ちます。腐朽が進むと木材が褐色になり、乾燥した際には縦横にひび割れが発生することがあります。状況にもよりますが、乾燥時に割れる際は、かなりの変形を伴います。初期段階でセルロース分子を急速に分解していくので、木材の強度が著しく低下します。つまり、木材の強度の源である細胞壁がボロボロにされてしまいます。

銅を含む木材防腐剤に抵抗性が高いですが、シロアリを誘引するものがあります。種類や割合は白色腐朽菌に比べて少ないものの、損害は甚大です。

白色腐朽菌

広葉樹でよく発生します。こちらはセルロース、ヘミセルロースだけでなく多くの生物が直接は利用できないリグニンも分解することができます。

腐朽した木材は白っぽくなるのでこの名称がついています。褐色腐朽菌のような変形やひび割れがないかわりに、木材が繊維状が手でむしり取れるようにほぐれてしまいます。森に落ちている木っ端などでもこのような状態になっているものを見かけることがあります。こちらも担子菌がメインですが、子嚢菌の中にも一部この菌の分類に入るものがあります。

下表に建築物を劣化させる代表的な腐朽菌(キノコ類)を列挙します。

腐朽菌の種類事例
菌の種類 腐朽菌のタイプ
ホシゲタケ  白色腐朽菌
イドタケモドキ  褐色腐朽菌
イドタケ  褐色腐朽菌
カワラタケ  白色腐朽菌
キカイガラタケ  褐色腐朽菌
ヒメキカイガラタケ  褐色腐朽菌
キチリメンタケ  褐色腐朽菌
マツオオジ  褐色腐朽菌
ヘラバタケ  白色腐朽菌
イチョウタケ  褐色腐朽菌
Poria nigrescens  白色腐朽菌
ニクイロアナタケモドキ  白色腐朽菌
Postia placenta  褐色腐朽菌
マワタグサレタケ  褐色腐朽菌
ワタクサレタケ  褐色腐朽菌
チョークアナタケ  褐色腐朽菌
オガサワラハリヒラタケ  褐色腐朽菌
Serpula incrassata  褐色腐朽菌
ナミダタケ  褐色腐朽菌
オオウズラタケ  褐色腐朽菌

軟腐朽菌

広葉樹でよく発生します。セルロースとヘミセルロースを主に分解し、リグニンも若干分解できます。子嚢菌と不完全菌によるものです。水中や水と接している木材、土壌と接している木材、湿度の高い環境で使われる木材等広範な範囲で見られます。

この菌に侵された木材は黒ずんだ褐色になり、腐朽がすすむとその名称が示す通り、表層が指で落とせるほど軟らかくなります。ただし内部は健全なままで硬さも保持するので、腐朽部位とそうではない部分との境界が割とはっきり分かれます。

表層が脱落すると、次は内部も同様に腐朽していきます。褐色腐朽菌のようにこちらも乾燥するとひび割れが出ますが、そこまで激しくはでません。

菌の成長と腐朽発生の条件

以上が腐朽を引き起こす菌類ですが、実際に木材が朽ちていくにはこれらの胞子が発芽し菌糸が伸びて行く必要があります。菌糸の成長には栄養源となる木材は必要ですが、それ以外にも酸素(空気)、水分、温度の三拍子がそろわないと成長せず、腐朽は起きません。

酸素(空気)が必要

腐朽菌にはいずれも程度の差はあれど酸素が必要です。生きた樹木や伐採直後の生材の場合、含水率が高く木材の細胞が樹液や水分で満たされているために空隙が少なく、空気の供給が不十分なためと考えられています。

水分が必要

木材の水分は細胞壁内部にある結合水と、その外側の自由水の形で存在します。菌が使用できるのは自由水のほうで、細胞壁内部にある結合水は使うことができません。

伐採後の木材はしばらく放置しておくと、自由水を失っていき、やがて一定のバランスの水分量に落ち着きます。これが気乾材と呼ばれるもので、含水率は約15%前後となります。この状態になると自由水はなく、結合水だけになります。

気乾状態になる前の繊維飽和点の含水率は約20〜30%ですが、この時点でも自由水はなく、結合水のみになりますので、繊維飽和点以上の含水率の木材でなければ、菌は生育できないことになります。つまり、木材の含水率が約20%を下回ると、菌にとっては生育しがたくなってきます。

こうした環境では腐朽菌が使える水がないので、成長ができないのですが、空気湿度が高いと木材表面から気中菌糸が生育して繊維飽和点に近い状態の木材に到達すると腐朽することがあります。というのも、雨水や生活水、結露など様々な要因で木材が水分を吸っていることがあるからです。ただ含水率が低ければ生育はできません。

温度が必要

木材の腐朽菌には、低温(24℃以下)、中温(24〜32℃)、高温(32℃以上)を好むものが種類ごとにいます。木造建築に影響を及ぼす腐朽菌は、低温か中温を好みます。生育可能温度は0℃〜50℃程度となるので、活発になるか否かは温度にも依存するということになります。

人が通常生活している温度帯で死滅するということはないので、温度での制御は乾燥器等を使わない限りは難しい選択肢となります。

木材の腐朽が進行しやすい環境

前述の通り、菌の生育には一定の条件が必要ですが、劣化のしやすさというのは対象となる木材が地面に接地しているか否か、建物等の中ではなく外気に曝露されているか否かによっても大きく変わります。

下図のようにリスク4を最大、リスク1を最小とした場合、接地・曝露の双方を満たす条件がもっとも腐朽のリスクが高いということになります。つまり、曝露と接地のどちらがよりリスキーかといえば、地面に接するという「接地」が腐朽にとっては最もリスクが高いということになります。

これは地面をつたって水分や微生物自体が木材に到達しやすくなるからです。そうなると、腐朽のリスクを環境面から下げるのであれば、まずは地面から離す、地面に木材が直接接触しないようにし、次に曝露を減らす、つまり野ざらしの状態にしない、ということになります。

木材の腐朽リスク、マトリックス

上記を図示すると下記のようになります。屋内であっても、地面に近い、水回りに近い、水がかかる等の環境によってリスクは変わってきます。地面に接していること、というのが最も高いリスク4と3になっています。まずは地面から離すことでリスクを軽減することができます。

木材の腐朽リスク接地と曝露の図式

腐朽しにくい木材の種類

木材の種類によっても腐朽のしやすさ、しにくさというのは違いがあります。こうした耐朽性の大〜極小を表にまとめると下表の通りとなります。心材に抗菌成分をもつ木材もありますが、すべての部位に有効なものはなく、万能な木材はないので腐朽しにくいものであっても、環境によっては菌糸が育って侵食していきます。

木材の種類ごとの耐朽性、耐腐朽性
樹種 耐朽性
サワラ
ヒノキ
ヒバ
ベイヒバ
ケヤキ
クリ
ベイヒ
ベイスギ
ホワイトメランチ
スギ
カラマツ
ミズナラ
ベイマツ
ダフリカカラマツ
イエローメランチ
アカマツ
クロマツ
ツガ
ブナ
ベイツガ
アピトン
トドマツ 極小
エゾマツ 極小
マカンバ 極小
シナ 極小
セン 極小
シオジ 極小
ラジアタマツ 極小
スプルース 極小
アガチス 極小
ラミン 極小

対策のタイプ

以上、木材の腐朽の要因を見てきましたが、実際の対策としては冒頭で述べた3つの方法となります。内容を少し見ていくと以下のようになります。

微生物や虫を駆除・防除する直接的なアプローチ

シロアリなどの駆除ではよく用いられる方法で、駆除と防除(予防)の方法があります。菌の場合は目に見えない部分で進行していることが多いので、そうした菌が育ちにくい環境にするという点からの対策も有効です。

基本的にはターゲットとなる虫や微生物に有効な薬剤を使って駆除、防除することになります。

腐朽を引き起こす生物が活動しにくい環境を構築するアプローチ

上述した通り、酸素、水、温度の3点の環境がそろわないと腐朽菌は生育できませんので、これらのどれかを構造上遮断してしまう方法です。密閉して酸素をたつ、水がかからない、湿度が上がらない構造にするといった方法です。また、腐朽が進行しやすい環境によっては、木材のさらなる処理か、木材以外の材料の使用も検討候補となります。

対策を施した木材や耐朽性の優れた木材を使用したり、他の材料と組み合わせる

防腐剤を木材にあらかじめ浸漬させたり、塗布させたりする方法が使用されています。防腐薬剤には、加圧注入用薬剤、表面処理用薬剤があります。これらは防蟻剤と兼ねているものもあり、処理方法は同じものもあります。

また腐朽に対して耐性のある木材を組み合わせて用いたり、場合によっては木材以外の素材を組み合わせて菌の生育を防ぐという考え方もあります。

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