自動車の海外生産におけるメリットとデメリット

2022年2月7日更新

自動車を海外生産する場合のメリットとデメリットをその理由とともに簡単にまとめていきます。日本の自動車産業は、グローバル化とともに躍進してきた側面が多分にあり、世界へ打って出たからこそ日本の自動車産業がここまで拡大・伸張してきたという背景もあります。

海外生産するようになった理由

車の海外生産が盛んになった理由は、ひとえに国内より大きい市場を持つ世界で、日本車を販売するためです。

日本で生産した車を海外へ送るのでは現地に雇用を生み出さず、現地側のメーカーを競争で駆逐してしまうと、80年代の日米貿易摩擦のように日本製品のボイコットや国家間の軋轢、対日感情の悪化につながってきた歴史があり、工場展開先の国にも経済的な恩恵をもたらすとともに、より安く早く製品を提供できる生産体制を構築する必要があることをこうした歴史から学んできています。

高度経済成長期から一直線に経済発展してきたことから、日本の物価のレベルでは一部の国や地域に対して国内で生産したものをそれら海外に送るだけでは商売にならないという問題もあります。現地の価格帯にあわせるためには現地のリソースをいかに有効活用するかという点が肝となります。

また、昨今の自動車メーカーは日本の本社が中心となって戦略車を開発・製造するだけでなく、設計やデザイン機能を現地法人にも持たせて、市場の好みを取り入れ、現地にあった車を開発・製造する戦略がとられることもあります。

つまり、自働車の拡販において、日本の自動車メーカーでありながら、現地へ溶け込み、現地の自動車メーカーのようになる、という施策がとられてきた背景があります。この方法だと、現地法人が車を作るため、会社運営は現地法制に従うことになるにしろ、国同士の交渉で自動車の関税が上がって販売に支障をきたすといった影響もなく、その会社が儲かれば工場のある地域の税収が増え、雇用も増え、その会社と取引のある会社も潤うという好循環を生み出します。

自動車の海外生産で考慮すべき背景

まず自動車の場合、他業種や他業界に共通する内容も多々あるとはいえ、車の生産や輸出入に固有の事情がいくつかあるため、それらについて説明していきます。

生産には広範なサプライチェーン網が必要

自動車は約3万点前後にも上る部品から構成されるため、部品のサプライチェーン網が必要になります。いいかえると、これだけの部品や原材料のサプライチェーン、つまり供給網がないと生産ができないことを意味します。実際には部品はある程度の塊になりますので、取引の単位は3万点というわけではないのですが、さらにCKDとSKDの違いによっても必要となる設備や供給網は異なります。

生産方式が多様

自動車の完成車を作る工場は、いわゆる車両工場と呼ばれますが、部品を組み付けていくラインになります。例えば、かなりの程度まで部品を日本で「かたまり」の状態まで作り、現地では締結するだけで完成車ができるという形式の工場も作ることができます。これだと熟練工がいなくても比較的短時間で車両組み立てができるようになります。

つまり、部品メーカーの現地供給なしの前提なのか、工場では簡単な組み立てだけで車両が作れる方式にするのか等によって進出する際のコストも変わってくるということになります。鉄鋼業界の高炉のようにそこまで工場設立が高コストにはならないという特徴もあります。

オールジャパン方式

自動車と自動車部品メーカーの関係は日本の場合はたいていのメーカーにおいて強固なものがあり、代替が容易ではない部位については尚更その傾向が強いです。

加えて、海外生産において自動車に使われている部品が「海外で現地調達されている」といっても、供給しているのが、国内ですでに取引のある日系企業の現地法人であっても「現地調達」の分類に入ります。分野や自動車メーカーによっては日系メーカー以外の部品も多く入っていますが、実は現地調達率の高いところでも、そのほとんどが結局オールジャパン、つまりほぼ日本で車を作るのとかわらない部品メーカーの布陣になっているということもあります。これは部品メーカーの海外への供給能力や海外進出能力が高いということでもあります。

価格が高い・輸送コストがかかる

低価格の自動車も出ていますが、他の消費財に比べ1台当たりの価格が比較的高い商品であることに加え、大きさや重量もあり、車そのものを輸送するコストやそれに伴い発生する関税や諸税の影響が大きく出てくる特徴があります。

産業規模が大きく国策・政策の影響大

自動車はその製造領域だけでも国内で20数万社に影響し、自動車を運用する業種も含めると550万人以上もの雇用にかかわる長大な産業です。

このため、各国も自国の産業を守る法制をしいていることがあります。具体的には外資の参入障壁を有形無形の形で推進もしくは黙認する、関税をかけることで輸入車の数に制限を掛ける、規制・基準を変える、税制を変えるといった具合です。

つまり国策の影響を受けやすい産業ということになります。これは自動車産業が国家間の交渉のカードとして使用されるということです。もちろん、業界団体等を通じて各国政府へのロビー活動は行われていますが、どの国も自国のメーカーを優遇するのは常であるため、日本は諸外国に対してオールジャパンで戦うというスタンスを見せていますが、諸外国も自国の産業や経済発展によりメリットのあるほうを選択しますので、必ずしもフェアな競争にならないこともあります。

また、流通量も多く、環境に対する影響も大きいことから何らかの環境規制や国策としてのCO2削減の影響をダイレクトに受けるため、これらを先取りして動く必要がある産業です。

海外生産のメリットとデメリット

こうした事情を踏まえて、自動車の海外生産におけるメリットとデメリットをまとめてみます。ただし、この中には情勢によってメリットにもなればデメリットになる要素もあります。

メリット

  • 産業の発展のため、その国で工場を作ると優遇税制など特殊な恩恵を受けられることがあり(多くは期間限定や設立場所の指定もある)、原価を下げることができる。
  • 現地の自動車メーカーへの技術支援や合弁といったその国での自動車産業発展に貢献することと引き換えに、その国での販売の権益を得ることができる場合がある。あるいは他の競合に対し有利なポジショニングが可能。また、こうした場合では自動車産業を誘致したい工業分野や経済分野の官僚等の政府高官とのパイプが構築できる。
  • マーケットへのアクセスがよい。
  • 完成車を輸送するコストが低くすむ。貿易の場合、輸送するコストやリードタイム分のコストが必ず余計にかかる。
  • 現地スタッフを雇用するので進出先の国にも恩恵があり、販売しやすい側面がある。対日感情が難しい国や国策で現地自動車メーカーの技術力アップを狙う国の場合では合弁という形での展開も可能。
  • 輸入車に高関税をかけて、自分の国で自動車を作らせようとする政策をとる国(特に新興国に多い)では、自国生産扱いの自動車に対して優遇法制が適用されることがある。
  • 日本や諸外国で生産した完成車を輸出するよりも、関税面で大幅な優遇がある。例えば、EU内で作った車であれば、EU内の輸出は関税がない等のメリットを享受できる。
  • より安く生産できる国がある。サプライチェーン網がしっかり出来上がっている国の場合、日本よりも安価な調達コストで部品が集まり、人件費も日本より安くなることから原価を下げることができる。

デメリット

  • 産業規模が大きいので政策・国策の影響を受けやすい。これがよい面に働くこともあるが、例えば関税低減を見込んで工場を作ったら、その工場から出荷する予定の国との間で関係が悪化し、貿易が難しくなる、関税減免の恩恵が無くなるといった事態がある。また、自国の産業が十分に育ったのを見計らって、優遇税制が突然なくなるということも。また国益というより縦割りの省益を優先するような規制が突然施行されることがある。自国の会社を優遇する施策をとる場合や、そうした方向に一気に舵取りされて日本企業が不利になる場合がある。
  • どうしても現地調達できない部品や材料もあり、こうしたものを日本や他国から供給する場合、輸送トラブルや政情不安、関税などの貿易上の問題から供給できなくなることがある。貿易紛争や通関行政の変化の影響も受けやすい。自動車の生産には広範なサプライチェーン網が必要だが、それらが十分ではない地域では、世界中から部品をかき集める必要がある。そうなると貿易の依存度が高くなり、リスク軽減のために在庫増やコストが増える。
  • 日本政府と諸外国との経済連携協定といった貿易協定の影響を受けやすい。大きくメリットになることもあるが、政府が交渉で負けてしまったり、他品目を優先されたりした場合は、原価に打撃を受ける。
  • 自動車に対する税金が急に変動する場合がある。販売に影響があるとともに、EV車等に急にシフトせよと言われても、現地工場の設備や技術ではまだ難しい場合、大幅な設備投資を余儀なくされる。
  • 政権や政情の影響を受けやすい国がある。カントリーリスクの一種となるが、投資した費用を回収できない、精算や送金に規制を受けるケースもある。
  • さまざまな規制がある一方、汚職などが蔓延しているケースがある。
  • 本社との意思の疎通が難しくなることがある。
  • モラルが低かったり、盗難・犯罪が多発することがある。またこれらの抑制のために費用が余計にかかる。
  • 労働争議のプロが入り込んで工場の運営を難しくしたり、賃金が大きく変えられてしまうことがある。
  • リストラが難しい国がある。容易に現地からの撤退ができず、加えてまずい撤退の仕方をすると現地のスタッフの大量解雇となり、法的な問題やブランドイメージの悪化につながる。
  • 経済発展に伴い当初は低かった人件費が上がり採算が合わなくなってくる。
  • 対日感情が悪い場合や、外資企業に対して反感を持つ国がある。
  • インフラが十分ではない国がある。通信、電力、輸送網、水道等、工場運営やライフラインに必要なインフラに何かあると、生産に必要な部材が入ってこない。水害をはじめ、自然災害による寸断があると復旧にも時間ががかる。
  • 為替の影響を受けやすい。これはプラスに働くこともあるが、マイナスに働くと本業の業績とは関係なしに利益にダメージを受ける。
  • 人の入れ替わりが激しく、技術力の流出や育てた人材が流出しがち。さらに、優秀な人材が確保しづらい。製造、生産技術、品質管理、生産管理などの管理スタッフが不足しがち。また、日本に比べると納期意識が甘い、いい加減といった特徴のある地域もある。

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