部品共通化のメリットとデメリット

2021年12月10日更新

部品を共通化することのメリットとデメリットについて、使用する側とサプライヤー側の双方の視点から考えていきたいと思います。部品共通化の目的は、開発・製造・供給にかかるコストの低減です。これは自動車の例でいえば、ある箇所の部品について車種や車型ごとに異なるスペックを持つ部品を採用している場合、そこに全く同じ部品を使うように変えるということを意味しています。車種が違うと多くの場合、形状は似ていても自動車部品というのは往々にして異なるものが使われています。

自動車部品の共通化の影響

どこまで部品共通化するか程度に差はあれど、昨今、業種や業界を問わず、選択的にこの手法が取り入れられてきており、会社によってはこれが事業収益にも影響を及ぼす様相を呈しています。

自動車の場合、共通化の提案が量産段階で採用されることもあれば、量産での車両生産が終了して補用品や補給品になる段階で、調達しにくい、あるいは生産しづらい部分を簡素化するような部品共通化が行われることもあります。

これは量産時には大量生産により、秒単位分単位で時間短縮できるよう作りやすい部品が求められるので工場で車への組付け性や作業性を考慮して部品生産の上ではそれなりに手間やコストのかかる箇所が意図的に部品に作られることがありますが、補給品となると機能に違いがなければ大量に作るわけではないのでそうした要素を廃し、より調達しやすい部品に変えてしまうというような動きです。

同一カテゴリーで数万種類もの製品

自動車部品の場合、サプライヤーの種類にもよりますが同じ会社で特定の部品を作っているというような場合でも、その同一カテゴリーの製品の種類は数千から数万種類にも及びます。この数千〜数万の部品には、すべて図面から開発時の評価データ、量産移管時のトライアル結果、製造指示書、検査指示書、梱包指示書といった個別の指示内容が漏れなく附属し、製品種によってはこれらで金型をすべて使い分ける必要もあります。それら製品に使う部品や材料も同様に、使い分けられます。部品の多さというのは、その開発、製造、出荷、受発注、管理のすべてにおいてこうしたコストがかかるということになります。

部品の種類の多さというのはすなわちそれだけスペックや仕様にバリエーションがあるということですが、これは顧客要求にこたえるためのものもあれば、他社との差別化をはかるためにサプライヤー側から提案した仕様違いのものもあります。

こうした多種多様なバリエーションを最初から統合してしまう、あるいは途中から統合してしまうというのが部品共通化で行っていることになります。

例えば2つの使用違い品が1つになるというだけでも開発面では図面がひとつで済みます。製品評価も2種類で実施していたものが1種類で済みます。金型・治工具類も1種類で済みますので、それに付随する金型設計も1種類になります。設備も原則同じものが使えることになります。製法や製造の手順も同じなので作り分ける手間や作業者の教育も共通化できます。

ものづくりにおいて如何に開発や製造のコストが下がるかということが分かるかと思います。これは、出荷時の梱包の時も同じで、通常、製品の形状やサイズ、使っている材質が異なるとそれにあわせて専用の荷材を準備することになります。これらも共通化すれば設計、生産、生産に至るすべてのコストが下がります。

部品共通化で起きる課題

一方でこうした共通化によってデメリットも発生します。まず市場においてきめ細かな要求仕様に応えることができなくなり、製品の差別化やその開発に伴う新技術の開発という面では遅れをとることになります。また、他社との違いが出しづらくなる一方、価格は安くなりますのでサプライヤー側で利益を取りづらくなってきます。結果として過度に部品共通化してしまうと、その部品メーカーがもつ固有の技術に対しての新技術の開発に使えるコストやその契機が無くなってしまうということになります。

共通化に使える技術革新が必要とはいえ、突き抜けた性能を持つ技術開発は不要ということになってしまい、技術力の先細りが発生します。

またサプライチェーンの面では、多数の車種に使われるということは、万が一不具合が発生した場合、それだけ多くの車種への問題になるということです。大規模なリコールが発生した場合、部品メーカーでカバーできる損害賠償額ではなくなってきます。

さらに、部品が共通化していると設計変更や工程変更をせざるを得ない場合、影響を受ける車種が多く、そのすべてで承認・評価プロセスを経るという現実味のない現象が発生します。自動車部品によっては、資本関係のある複数の自動車メーカーで共通して使われている部品があるのですが、こうした場合、片方の設計変更を行う場合に、もう片方のメーカーにも設計変更を打診し承認プロセスを経る必要があり、ハードルが高くなったり、設計変更の漏れという致命的なミスのリスクも高まります。

昨今の半導体問題や原材料のFM宣言、コロナ禍や局地的な自然災害、地政学的なリスクからもお分かりの通り、グローバル化とサプライチェーン網の広範化に伴い、どこかの国で発生した問題がサプライチェーンに影響を及ぼし、一気に調達問題に発生するリスクがますます高まっています。

こうした場合に部品共通化は、メリット・デメリットの双方に傾く可能性があります。部材が共通化されていて特定の材料が入ってこなくなった、となれば供給問題によるデメリットに拍車をかけることになります。一方で、共通化されているのでそのメーカー内において生産場所や工場が複数の国で行っており、ひとつの国で供給ができなくなっても別の国の工場で生産したものをバックアップ供給することでBCPリスクの分散というメリットになることもあります。

部品共通化によるメリット、デメリットのマトリックス

下表では特に自動車部品における部品共通化のメリット、デメリットをまとめました。

部品共通化のメリット、デメリットのマトリックス表
- 自動車メーカー 部品メーカー
メリット
  • より安く部品を調達できる。
  • 評価や承認プロセスの簡素化。すでに実績のある部品を新しい車種に導入するので一からの開発部品に比して工数が下がる。
  • 設計費が新たに必要ないのでその分のコスト削減が可能。
  • 大量購入により値下げ要求しやすくその効果が大きい。
  • 開発総コストの低減
  • 新たなサプライヤー決定までにかかるコスト削減
  • 車種ごとに作り分けが要らないので大量生産によるコストダウン。
  • 多数の車種に採用されているほど、他社への変更のハードルが高いため、転注が容易にされにくい。
  • 社内の製造指示や検査指示、図面なども製品が違うことで多数存在し、その管理工数がかかっているが、共通化されればその分が一本化されて減る。
  • 輸送時の荷姿も作り分ける必要がなく、荷材も共通のものが使えるので梱包コストも落ちる。
  • 価格競争力のアップ。製造、開発、梱包、管理コストといった様々な面が共通化されて低い価格でも販売することができる。
  • 開発コスト削減になる。製品評価、テスト結果も過去のデータが使える。
  • 部品共通化により生産能力を増強したり、生産工場を増やす場合、自社内でつくることができる工場が増えるため、BCPの観点から万が一の場合、バックアップ生産体制が取りやすい。
デメリット
  • その部品に不具合が発生した場合、多くの車種でリコールが発生することとなる。損害大。
  • 特定の車種で不具合発生時に部品に設計変更が少しでも必要になった場合、すべての車種での検証が必要。
  • 製品の特長の違いを出しにくい。
  • きめ細かな仕様の違いがなくなるので車ごとの特徴に応じて作り分けていたスペックの違いがなくなる。ユーザーへのアピールポイントが大きな部分だけになる。
  • サプライチェーンがグローバル化しているため世界各地で起きる様々な問題の影響が波及しやすい環境で、調達問題や供給不安の問題が発生した場合、部材が共通なので問題が大きくなりやすい。大幅な減産等決断せざるを得ない。
  • 他社とブランドの特性や価値の違いを維持しにくくなる。差別化がしにくくなっていく。競合間での均質化。
  • 設計変更を行う必要が出てきた場合、すべての車種について申請や承認が必要。
  • 材料の購入先や製法の変更といった工程変更を行う必要が出てきた場合も部品共通化して共用しているすべての車種での変更が必要。
  • 部品共通化は、部材も同じになるので、何か一つの部品や材料、原料に調達問題が起きると製品が作れなくなる。
  • 他社に真似されてしまうと単なる価格競争になり、利益が取りづらくなる。
  • 技術が陳腐化すると一気に使用できなくなる。減少した売り上げを補填する時間が稼げない可能性がある。
  • 共通化している部品が大きいほど、競合へ転注となった場合に売上・事業への影響が大きい。
  • 顧客からの様々な課題、時には無理難題にも応えようとする姿勢から新しい技術革新が生まれることがあるが、部品共通化前提になると突き抜けた技術の追求がしづらく、新しい技法の開発が下火になる。
  • 技術革新にしてもコストダウンの方向につながるものばかりに重点が置かれてしまう。

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