トヨタ生産方式の「物と情報の流れ図」における記号一覧

2022年1月22日更新

トヨタ生産方式(TPS)での物と情報の流れ図、通称「ものじょう」は独自の記号を使って工程全体(材料納入から納入物流まで)の物の流れと情報の流れを把握し、物と情報の停滞を目でみえるように顕在化・共有化し、関係者全員が同じベクトルで改善活動を進めることができるようにするためのツールとして開発されました。

つまり、TPSにおいてはこのツールは仕入れから納入までにおける「停滞」がどこで起きているかを見つけ出すもの、ということになります。実現したいのは停滞をなくす、つまりリードタイムをいかにして短縮するかということです。

停滞を見つけてリードタイム短縮を実現するツール

「人に聞くな、物に聞け」を合言葉に、徹底した現地現物主義で事実を図に落とし込んでいく技法ですが、物の停滞は見てわかるにしても、情報の停滞はなかなか見えづらいものです。そこで、流れ図の形にして情報についても停滞を明らかにし、物と情報の両面から工程全体のリードタイムを短縮するという狙いがあります。TPSを支えるジャストインタイム方式というのは導入して終わりではなく、問題を顕在化させ、改善し続けることが前提になっている生産方式です。つまり、改善が継続されなければその真価も発揮されません。

どういうときに使うと便利か

これはリードタイム短縮を行うための改善ツールなので、リードタイムを削ることでメリットが発生するすべての活動に使用することができます。トヨタ流の改善で使う「みえる化」の一種ということもできますが、このツールは停滞を見つけ出すことが得意という特徴を持ちます(別の使い方もできますが)。

物と情報の流れ図の使用例
使用例 活用の効果
在庫低減活動 工程内の在庫を減らせます。またリードタイム短縮効果によってデポなどの外部倉庫在庫の低減にもつながります。
コスト削減活動 リードタイムの短縮は保有在庫が下がり、輸送中在庫が減り、購入材料が減り、生産時間が短くなるので生産コストが減るといった具合にコスト削減につながります。
ライン新設 設備レイアウト検討時に流れ図をつくり、事前に停滞のない工程設計を行うことに活用できます。

なぜ流れ図にするのか

物と情報の「流れ図」というふうに、これが流れになっている背景として、トヨタの中でもそれぞれの工程内で乾いた雑巾を絞るという表現にたとえられるほど知恵を絞りに絞って改善活動を進めていました。

ところが各工程がそれぞれ良い改善をひねり出したのに、前工程での改善が後工程に対しては悪影響、つまり停滞を生み出すという事態も散発することになります。これによって改善する分野によっては全体最適、つまり全体を通した仕組みやつながりを考えて改善を行わないと結果的にムダになってしまうことがわかりました。こうした全体を俯瞰するために考案されたのがTPSにおける「物と情報の流れ図」のはじまりです。

物と情報の流れ図の作り方

現地現物をベースに作ることになりますが、基本にある考え方としては、「物や情報というのは誰かが何らかの意図をもって動かしている」ものであり、このため、いつ、誰が、何を、どうやって、どれだけ、どこに動かしているかをモノと情報の双方について調べていく活動になります。

全体を俯瞰する必要があることから、対象工程の前後工程も調べる必要があります。最終的には客先の注文情報から前へ前へとさかのぼって作っていきます。

対象工程で流れるすべての製品と情報の流れを描いていきます。工程が分かれたり、合流したりといった流れも現状のままを調べて描きます。

現場で関係者が集まって模造紙などで手書きしていくことが基本です。より効率性を追求するなら、物と情報の流れ図で使う記号だけをカードのようなものに印刷しておき、それを模造紙にペタペタと貼りながら検討するという使い方もできます。手書きの場合は、後で間違いが分かると大掛かりな書き直しが必要になりので、貼ったり剥がしたりができると便利です。

物と情報の流れ図を作成する際に調査すべき主要なポイントを下表にまとめました。

物と情報の流れ図の作成時の調査項目
調査項目 内容・狙い
1.モノの流れの調査 大まかな流れの把握、どこの工程で何が作られているか、工程のつながり、設備能力や制約条件などなぜその設備で作られているのか調べる。他工程からの流入・流出の有無、各工程の稼働時間
2.注文情報の調査 情報の形態は何か(データ?かんばん?)、頻度、内示情報と確定情報の変動差
3.納入物流の調査 集荷と出荷の場所が分けられているか、出荷場は便ごとに区別されているか、集荷の開始と完了時間、出荷における積み込み開始時間・出発時間、運搬状況、直納か、中継か、輸送便のダイヤ情報
4.集荷方法の調査 集荷情報は何を使用しているか(引き取りかんばん?集荷リスト?置き場にあるものをすべて集荷するのでなし?)、集荷情報の処理方法(平準化しているか、1便分をまとめて集荷しているか)、頻度や量(定期で等ピッチか不等ピッチか、1箱単位などの定量か)
5.完成品置き場、中間仕掛品置き場の調査 置き場の状態、ストアは品目ごとか、先入れ先出しか、整列のルールの有無、間口(種類の数)、奥行き(在庫量)
6.仕掛け方法の調査 生産指示方法はどうなっているか(仕掛けかんばん?作業者のカンコツ?生産指示書?生産計画?)、生産指示の出し方がどうなっているか(かんばん1枚に対して生産?かんばんが一定の枚数たまってロット形成してから生産?)、1日分をまとめて生産?)、生産頻度や量はどうなっているか(定期?定量?)
7.運搬方法の調査 後工程引き取りか、作った分を一方的に押し込む方法か。運搬指示はどのように出されているか(時間による定期?定量?呼び出し?御用聞き?)、運搬の道具は何か(リフト、台車、コンベア、タグノバ、自動搬送装置(AGV))
8.材料調達方法の調査 材料の発注方法は(引き取りかんばん?発注書?)、発注の頻度は(定期、不定期、かんばんならかんばんサイクル、補充する期間は?)、調達のリードタイム(発注を決めてから納入されるまでのリードタイム)

物と情報の流れ図の記号

TPSの物と情報の流れ図では独特の記号を使います。この意味の共有をしっかり行っておかないと意味の分からない流れ図や人によって解釈の違うものができてしまいます。記号とその意味については下表の通りとなります。実際にPCで作成したり、上記でご紹介したカードやポストイットのような形で使う場合に便利な「物と情報の流れ図記号の一覧詰め合わせ」(zipファイル、画像png形式)もご参照ください。

物と情報の流れ図の記号一覧
意味するもの 記号 内容説明
物の流れ 物の流れ ものの流れは実線の矢印で視点から終点までつなぐ。
情報の流れ 情報の流れ 情報は破線矢印を使う。情報の始点から終点を矢印でつなぐ。
伝達の道具 引き取りかんばん 引き取りかんばん。別名、運搬かんばん。後工程が、前工程へ部品を引き取りにいくタイミングと引き取り量を指示するかんばんであり、工程間引き取りかんばん、外注部品納入かんばんがある。
仕掛けかんばん 仕掛けかんばん。生産工程での生産着手(仕掛け)指示に使うかんばんであり、工程内かんばんと信号かんばんとがある。
帳票 仕掛けや引き取りにリスト、帳票、指示情報を使用
電子データ 仕掛けや引き取りに電送データ、電子データを使用
工程 工程 生産ライン、受入、集荷場、出荷場を示す記号。同一工程が複数ある場合もすべて忠実に記入していく。
ストア ストア 製品の種類(品番)ごとに整理され、先入れ先出しができる置き場。
順序レーン 順序レーン ストアとは異なり、仕掛けた順番に物が並んでいる置き場。製品の種類(品番)ごとには整理されていない。
一時置き 一時置き ストア、順序レーン以外の物の置き場。製品の種類(品番)ごとや仕掛けた順に並べるなどのルールがない、単なる物の溜まりを意味する。
かんばん回収ポスト かんばん回収ポスト 外れた引き取りかんばんや仕掛けかんばんを一時的に入れるためのポスト。回収時刻や回収頻度を記入。
平準化ポスト 平準化ポスト 引き取り、仕掛けの指示情報を平準化するための道具。
ロット形成ポスト ロット形成ポスト かんばん1枚ごとに仕掛け(生産)ができない場合に、生産ロットになるまでかんばんを一定枚数までためる機能を持つポスト。
かんばんシュート かんばんシュート かんばんシュートはかんばんが仕掛ける順序に並べられるシュートのこと。
納入先、仕入先 納入先、仕入先 納入先や仕入先を示す。中には社名を記入し、記号の外にはかんばんサイクルを記入する。
工場以外の建屋 工場以外の建屋 工場以外の建屋で、物流センターやデポ等の倉庫もこの記号を使う。

ただ真似しただけでは効果なし

ポイントはただ単に漫然と作りました、というものではなく何らかの改善の意図をもって作るという点がポイントです。よく「物と情報の流れ図」の知識や作成スキルのある方は、片っ端から現状の業務をこの図に落とし込むよう指示を出すことがありますが、図を作って終わりでは意味がありません。作る前から何らかの問題意識や仮説、あたりをつけてこの工程やこの製品の「モノ情」を作って改善したいものがあるという強い意志を誰かがもって主導してこそはじめて意味を持ちます。

逆に言えば、正確な「物と情報の流れ図」ができたところで、関係者で「ふーん、そうなのか」「で、何が問題なの?」で終わってしまえば、作る工数が無駄になるということです。

実はこれは部分的にトヨタ生産方式(TPS)のツールをつまみ食いしようとして陥る問題の一つです。TPSは究極的には「トヨタの生産方式」であって、トヨタ以外では実現できないものです。各社はそれを参考にして自社の生産方式を作り上げていく必要があります。作っているものも人も風土も技術も違うのですから、そのままコピーしてもうまくいくはずはありません。その考え方のうち自社では何が有効に使えて何が使えないのかという見極めが重要になります。

具体的にトップが強い意志をもってこの数値目標達成するために何としてもこの部分のこの内容を改善するという思いのもとに行わないと現状のどこをどこまで詰めていけばいいのか改善意識のないメンバーにはさっぱり分からないということになります。

ともするとツールや道具を導入することが目的となってしまうことが往々にしてあり、一体何のために「物と情報の流れ図」をつくるのか、という点を関係者と共有・明確にしてから作り始めるとよいでしょう。

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