自動車部品の生産終了や生産中止はどのように決められているか

2020年10月12日更新

自動車メーカーと、自動車部品メーカーとの間には供給契約(取引契約)が結ばれて部品供給が行われますが、その中には量産での車両生産が終わった後も一定期間部品の供給を義務付ける内容が入っています。

これはカーメーカーによりまちまちではありますが、具体的な供給年限を指定している場合もあれば、年限は特に指定していなかったり、供給を終了させる場合の手続きやルールを別途定めているケース等があります。

車両生産が終わった後も続く部品供給義務

新車の生産に使われる自動車部品は量産部品となりますが、いったん車両の量産が終わってEOP(製造廃止、End of Production)となると、その量産部品は今度は補給品や補用部品、あるいはサービスパーツという名称で供給されることになります。もっとも、修理用途やアフターマーケット用途で、車両生産が終わっていない段階でも補給品や補用品が同時に供給されることは多々あります。そこで問題となるのが、こうした補給品や補用品に対して部品メーカーはいったいいつまで供給責任や供給義務があるのかという点です。

30年前に生産終了した車の部品オーダーが入ることも

契約で明文化されていない場合、車両生産が終わったあと10数年は部品メーカーから供給できるようにしておくのが暗黙の慣習ともなっていますが、中には車の生産が終了してから30年以上経過しているものについても自動車メーカーから自動車部品メーカーへ発注がかかることもあります。このあたりはカーメーカーごとに設けている生産終了や自動車部品の供給を終了してもよい制度が異なります。

法令での自動車部品供給義務はあるのか

国によっては、消費者保護法の観点から、量産での車両生産が終了してからも補給部品の供給義務を定めているところもありますが、日本では法令で定めがなく、カーメーカーごとに違いがあるのはこれが理由です。

また、自動車工業会等の業界団体でも、最低部品保管期間を定めているわけではないため、カーメーカーごとに扱いが異なります。もっとも現実には、日本では車両生産打ち切りから10年で部品が手に入らない、ということはまずありません。

カーメーカーによっては、10年足らずで部品供給終了する場合、補給品(サービスパーツ)としての流動がほとんどないような場合で、部品を長期間保存しても品質に影響がない場合、部品メーカー側から一括生産の申請(永年申請や、永年一括申請などと呼ばれることもあります)を受け付け、受理した場合は供給義務が終了するというルールを設けているところもあります。

これによって消費者からの引き合いがあった場合に備えて部品をある程度確保したうえで部品メーカーに対して供給停止の承認を与える形になっています。

国によっては法令で車部品の供給義務を定めている

車両販売後や車両生産後にどれくらいの期間供給しないといけないのか、また求められた際にどれくらいの期間で供給しなければならないのかは各国の法令ごとに違います。特に中東地域では法令でかなり厳しい制約が課せられています。

例えば、北米については日本と同様に法令での定めがなく、要望があってからいつまでに供給せねばらないという決まりもありません。

一方、ロシアでは車両販売後10年はカーメーカーから部品の供給義務があり、さらに20日内の部品供給義務があることが法令で定められています。

サウジアラビアの場合は、量産での車両生産終了後15年は供給責任があり、14日内の部品供給義務がありますので、現地で生産終了後も15年間は常時在庫しなければなりません。

カタールも似ており、量産での車両生産終了後10年は供給義務があり、15日以内の部品供給義務があります。バーレーンについても同様に、車両生産終了後10年が必要ですが、要求されてから何日以内に供給義務があるといった日数規定はありません。ブラジルも量産での車両生産終了後10年、エジプトに至っては半永久的に部品供給義務があり、21日以内の部品供給義務が生じます。

中国の場合は、中国販売管理弁法第21条2項に「生産または販売を停止した車両モデルを遅滞なく社会に公表し、その後少なくとも10年間の部品供給及び相応のアフターサービスを保証しなければならない」とする規定があります。

いずれも、自動車は高額な製品ですし、生産が終了してから、あるいは販売が終了した後も部品の交換は折に触れて必要となるものであり、それが例えば1年足らずで部品が手に入らないとなってしまったら消費者保護の観点からは著しく不利益を被ります。

カーメーカーの多くは法令で定めがなくても長期にわたって部品供給できるような体制を築いていますが、国によっては消費者保護のために法令で定めて運用を行っています。

自動車部品は1車種に1メーカーが原則

自動車部品の中には純正品でなくても問題のないもの、つまり複数のメーカーで生産できるものもありますが、中には車両生産時に供給していた部品メーカーしか本来の仕様を満たす条件で生産することができないものもあります。多くの自動車部品は、その車種に特化した仕様になっていることが多く、なるべくどのカーメーカーも自社の車種で共通のプラットフォームを持つものについては部品を共通化しつつあるとはいえ、部品の種類によっては同一のスペックを出すことができないケースもそう珍しくありません。

また、品質上の観点からも、同じ車種の同一の部品について複数の部品メーカーからの供給は通常行いません。一社専属となります。こうした点からも、自動車部品メーカーの供給義務にはかなり強い制約が課せられることになります。つまるところ、カーメーカーからの承認なしでは部品供給をし続ける必要があるということです。

自動車部品を生産終了できる場合

自動車メーカーから、自動車部品メーカーに対して完全に製造廃止にするため、部品を今後供給しなくてもよい旨通知があれば生産終了できますが、部品メーカー側から申請を行って生産終了できる場合もあります。

なぜこのような制度があるかといえば、消費者の観点からはその車を保有している限りいつまでも部品供給できる状態にしておいてほしいとなりますが、部品を生産する立場からだと、10数年に1回程度しかオーダーのない部品をつくるために専用の設備や金型を常時保管し材料やその部品を調達ルートも確保しておかねばならないということになり、相当なコストを要します。

したがって、部品メーカーの課題としてはいかに補給品や補用品の生産を終了するかというのがひとつのテーマともなっています。採算が合わないのであれば、値段を上げればよいのではと思われるかもしれませんが、カーメーカーごとに値上げできる幅やルールにも一定の制約があり、仮に値上げしたとしても生産効率の面から製造そのものをやめたがほうがメリットが多い場合もあります。

何より、自動車部品にもそれを作るための材料や部品がさらに必要で、これらが高騰してしまうとそれを価格に転嫁することができなくなり、販売するだけ赤字になるというサービスパーツ部品はざらにあります。自動車部品の材料などは量産時の大量生産を前提に見積もりや生産を想定しているため、数が補給品のように極端に少ないものになると調達コスト自体も高額になりがちです。

最後に一括生産して供給終了できる場合

話を戻すと、部品の供給をやめるための申請の要件としてはおおむね以下のような条件があります。カーメーカーごとにルール詳細が異なります。

  • 量産での車両生産が終了してから一定の年数が経過していること(3年〜や5年〜、10年〜、15年〜など)
  • 部品の発注数(流動数)の実績が年間で一定以下であること(例えば10個以下、50個以下など。生産終了してから年月が経っているほどこの流動数の基準を緩める傾向にあります。20年経過しているような場合、10年経過しているときよりもさらに多くの数量が流れていても申請対象になりうるということです)
  • 専用の金型、設備、治工具類が廃却できること
  • 長期保管することが可能で、品質保証面にも問題ないこと
  • 長期保管できる包装仕様や梱包仕様が準備でき、問題がないこと。

なお、上記にあてはまる場合であっても、海外向けに供給しているもので先に紹介したような法令がある場合は申請の対象外となります。また、リコールや集団訴訟対応品も、突発的に供給が必要となることがあるため、生産終了対象外となります。

自動車部品の多くは鉄鋼材料をはじめとする金属が使われており、これらの錆や塗布してある油脂類が固着したり漏れたりといったリスクがあります。こうした長期間保管することで品質劣化のあるものは生産終了の対象外となります。また、経年劣化することで知られるゴムを使った部品についても同様です。

最大手のトヨタの場合、新車の生産がはじまる号口のラインオフの日が、補給品新設の日とイコールになっています(号口LO=補給新設)。この量産とも呼ばれる号口での車両生産が終了する日が、旧型補給の開始となります(号口終了=旧型補給)。旧型補給となってからの経過年数と、年間の流動数によって、基準を設けて年1回、部品メーカーへ生産終了の打診を行っています。例えば、旧型15年経過していて、直近2年で平均受注120個/年以下のもの については一括生産を最後に行って生産終了できるというような基準を設けて運用されています。

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