自動車における補修部品の市場規模

2021年12月10日更新

自動車における補修部品は補用品、補給品とも言われますが、その市場規模は国内の出荷金額ベースで約1兆円前後あります。自動車部品全体の市場規模が約18兆円前後であるため、全体の5%前後が補修部品の市場ということになります。

供給年限は部品=車型によりけり

自動車は法令では義務付けられていないものの、その車種の生産が終了した後もカーメーカーに対しては部品メーカーの供給義務は数十年以上継続します。このため、その車種が生産されていた際の純正部品を供給していた部品メーカーは十数年から時には40年を超える期間、部品の供給を続けることになります。

自動車のモデルチェンジ等を考えると、ある車型の生産はおおむね5年で終わるとして、それ以降は補修部品になります。そうなると、補修部品としての供給義務がなくなる年限と、量産が終わり補修部品の供給がはじまるペースとの間に大きな差があることになり、自動車部品の供給を継続し続けている限り、補修部品は消滅するスピードよりも誕生するスピードのほうが速いことになります。仮に20年続く補修部品があれば、5年×4で、1つの部品の供給義務がなくなる間に、4種の新たな補修部品が誕生していることになります。

種類は永久に増え続ける補修部品

つまり、自動車部品メーカーにとっては長いこと営業すればするほど補修部品の点数が増えることになり、例えば、量産で2000種類の部品の出荷があるとしても、その背後には8000点を超える補修部品のみの出荷を抱えているということにもなります。これは年数が経てばたつほどさらに差が拡がっていきます。

補修部品の供給年限が供給開始時に一律に決まっているわけではないためです。量産が打ち切られた後の補修部品の出荷状況にあわせてカーメーカー側で最終的に供給義務を終わらせて良いかどうかを決める制度になっています。ある部品は10年、ある部品は15年、別の部品は22年、30年、40年という具合にそれこそ適用されている車型ごとに変わる制度です。基本、売れ行きの良い補修部品であれば、供給年限はいつまでも続いていくことになります。

十分に自動車市場のシェアを獲得している部品メーカーであれば、量産の供給部品の種類はあまり変わらず、補修部品のみが8000点だったものが10000点に、という具合に年数とともに増えていくという構造を持っています。

こうしたことから、補修品の市場規模というのは新しいタイプの車やサービスの登場もあり、年々増加していくはずですが、実際には補修品となる部品点数は増加してもそれに伴って出荷金額が毎年上がるというわけではない点には留意が必要です。

ある車種または車型は市場に出てから年々減少していきますので、補修対象となる車種が増えても、補修品の出荷数はある車種について見ていけば、年々着実に下がっていくことになるためです。これは自動車の買い替えや廃車状況とも連動しています。

補修部品はなぜコスト高で赤字になるか

基本的に純正自動車部品メーカーの多くは量産で大量に使用される前提での原価設定を行っているため、補修部品になって少し値が上がった程度では補修事業を黒字化するのは至難の業となります。したがって、量産での儲けを補修事業の赤字補填に使用するというような事業構造になっている会社もあります。

大量生産前提ということは、金型・設備・生産ライン・人などすべてが大量に作るからこそ計算上の原価になっているということで、例えば月に30000個売れるからこそ生産コストも黒字になるレベルで抑えられるということになります。これが月に2個しか売れない補修部品となってしまえば、その2個を作るコストは、30000個を作るときの2個とは比べ物にならないほど上がってしまいます。

原料や材料、あるいは部品の購入ロットが決まっていますので2個のために10000個近い材料が余るということも考えられますし、金型も量産時には一度セットすれば12時間や24時間使いっぱなしにできたものを、1ショット終わったら金型を交換するというような段取り替えの作業時間の工数がかかります。

補修部品の生産はすべてにおいて、コストが上がる、ということになります。まためったに使わない金型・ジグ・製造設備がその製品専用のものだとしたら、2個生産するとき以外、それらは工場や倉庫の場所を浪費することになります。他の製品を作って利益を出すことができたかもしれない工場スペースを潰してしまうということです。

また、錆等のメンテナンスや膨大な数量の金型を死蔵在庫のように保管しておくには広大な外部倉庫と管理コストもかかります。

こうしたことから純正品を手掛ける部品メーカーにとっては補修部品の供給義務が終わることは大きなメリットになるという側面を持っています。言い換えれば、補修部品はできるだけはやく製造廃止に持っていきたいということです。原価低減を継続して補修部品のような多品種少量生産でも事業利益を出しているというメーカーもありますが、量産に比べると儲けは圧倒的に低くなります。

部品メーカー側からの補修部品の削減やコスト削減の取り組みとしては例えば以下のような方向からのアプローチがあります。

部品の統合

互換性のある部品を異なる車種や車型向けに統合してしまうという発想です。カーメーカーの承認が必要ですが、統合した場合、金型・設備の廃棄や管理コストの低減が期待できます。

使用している部材を汎用性の高いものへ設計変更

これはカーメーカーの中でも推奨しているところもあります。量産時は分単位、秒単位での生産性が必要となるため、車両への組付け性のよい仕様にするために部品に特殊な加工を行っていた部分を、補修用途になった場合、汎用的な加工に変えてコストを落とすという発想です。加工のほか、部材や設計にも同じ考えが応用できます。

生産工場を集約

補修部品専用工場や専用ラインをつくる、あるいは同一品があるなら生産工場を一つにまとめてしまうことで補修部品の生産コストを低減するという発想です。

値上げのお願い

自動車メーカーによっては量産が終了してからの経過年数によって購入価格がどんどん上がっていくところもあります。一方、そうではないメーカーもあり、一般的に自動車部品の場合、定期的な値下げが恒例となっており、客先への単価自体の値上げは了承を得られることはほとんどありませんので、別名目での費用回収を模索するということになります。例えば、金型保管費の負担を要請する、といったものです。

製造廃止の申請

カーメーカーによっては部品メーカーからの製造廃止申請を受け付けており、それに基づいて審査・承認する制度を持つところがあります。通常は、まとめ生産を行い、その全量を供給し終わることで今後の供給義務がなくなるというものです。

上記のようなメーカーがある一方で補修部品を事業の核としているメーカーもあります。アフターマーケットを対象にしているところです。これらについての市場の特徴は上記の純正品とはまた異なる様相を呈していますので別の機会にご紹介したいと思います。

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