ゴリラガラスとドラゴントレイルの違い|化学強化ガラスの強度、硬度比較

2021年8月21日更新

ゴリラガラスとドラゴントレイルはいずれも化学強化による特殊強化ガラスで、前者は米国のコーニング社、後者は日本のAGC(旭硝子)で開発・製造されており、両者の強度や硬度、物性の違いと比較を表にまとめました。この両雄は以前はフラッグシップ同士を比較するとほぼ同等の性能を持つことが知られていましたが、実は両社の製品は後述する通り、基本的な物性以外の破壊試験などは両社から同一条件下で実施されたものが公開されておらず、厳密な比較を行うことができなくなっています。ただしコーニング社の最も新しいゴリラガラス(Gorilla Glass Victus)は、その破壊試験においてドラゴントレイルと思しきアルミノシリケートガラスとの破壊比較を行っており、強度に優れている点をアピールしています。

どちらもスマホの画面部分、つまりディスプレイのカバーに使われるガラスとして一躍脚光を浴びることになったものです。スマートフォンだけでなく、タブレットやラップトップパソコン、ウェアラブル端末・ウオッチ・デバイスなど各種の情報電子機器・家電のカバーガラスとして広く使われています。

スマホの保護ガラスはどこに使われているか

カバーガラス(保護ガラス)というのは、スマホでいえばユーザーが直接指で触れられる製品の最外層の部分です。タッチパネル操作を行う製品特性上、スマホは複数枚のガラスが使われており、カバーガラスの下には、タッチパネル操作を可能にするタッチセンサーを搭載したガラス基板があります。その際には液晶用のガラス基板がさらに控えています。カバーガラスはこれら操作パネルの重要部位を保護するためのもので、これが壊れると製品として使うことができなくなってしまいます。また操作感や触感も重要で、軽快に快適に触れられる素材であることも条件といえます。

スマホの画面が割れるというのは、通常このカバーガラスが割れてしまうことをいいますが、深刻なものだとこれを貫通してさらに下のタッチセンサーの破損、液晶基板の破損ということもあります。いずれにせよ、カバーガラスが本来の目的である保護ガラスとして機能すれば、機体を衝撃や傷から守ることができることになります。

残念ながら薄くて絶対に割れないガラスというのは存在しないため、いかに割れにくいか、落下時や衝撃時に傷がつきにくいか、割れる確率を下げるかという視点で各社の技術開発が進められてきています。

強化ガラスとしては、熱強化ガラスが主流でしたがこれには薄いガラスには適用が難しく、あらたに台頭してきたものが化学強化ガラスです。

ガラスの性質

他の工業材料と比較した場合、ガラスは「硬くてもろい」という共通の性質を持っています。硬脆材料(こうぜいざいりょう)に分類される素材です。

表面の硬度は、金属に比べて圧倒的な硬さがあり、例えば、一般的なステンレスであるSUS304はビッカース硬さの換算値で187程度、炭素鋼でよく使われるS45Cはビッカース換算で硬度は201から269程度、アルミ合金のうち航空機等に使われる超々ジュラルミンで155程度、チタン合金で110〜150前後、黄銅で80から150前後といったところです。対して、もっとも一般的なソーダライムガラス(ソーダ石灰ガラス、ソーダガラスともいいます)で、533から580前後はあります。これが強化ガラスになると600〜700近くになります。

ガラス破壊のメカニズム

硬さに優れるということは傷のつきにくさでもありますが、反面、一定の衝撃が加わると欠けたり割れたりしてしまう性質があります。

また、金属をはじめとする他の材料だと力を受けて元に戻らないほどの変形が起きて撓んでも破壊されるまでに少しバッファー(余力)があります。また降伏点(元に戻らないほどの変形)をこえなければ、力を受けてもそれがなくなった時点でばねのように元に戻ります。ガラスはこの余裕がなく、一定の荷重を受けて弾性限界を超えた瞬間に破壊されてしまいます。

ガラスの強度は圧縮に強く、引張に弱いという性質もあります。さらに、破壊に対してはどこまでもつのか強度に非常にばらつきがあることが知られています。金属ならば、例えば500 MPaといった決まった値を超えれば破断するといった一定のデータが取れますが、ガラスの場合は理論上の強度未満でも壊れ、一定しない傾向があります。

その原因は、ガラスの表面にある目に見えない微細な傷やガラスの内部に存在する不純物、周囲の温度、ワイヤーが入っているガラスであればその錆等も破壊に関与するためです。

強度に非常に優れた均一なガラスを製造しても、目に見えない傷のある個所に、たまたま打ちどころが悪く衝撃がかかった場合、想定よりも低い力で割れてしまうということが起きるのと、強度を見る場合に、スマホのようなどこから衝撃を受けるか一定していないような場合、メーカーの実証実験で1.5メートルから落下しても無事となっていても、端面や角が落下時に路面の石などにぶつかったとなれば、条件が変わってしまう問題があります。

こうしたガラスが破壊されるメカニズムにより、破壊強度を保証することが困難な材料もといえます。これを緩和するために破壊靭性というパラメータを使うこともありますが、微細な傷がどの生産ロットにどのように存在するかまでは見つけることができないため、ガラスが理論上破壊されないとされる強度未満でも壊れてしまうことがある点に変わりはありません。

厚みがあって重くて透明度を気にせずコストをいくらでもかけられ、タッチパネル操作ができなくてもよいとなれば、落としたり車にひかれた程度では割れないものも製造可能ですが、それとて強度のバラつきとは無縁ではありません。加えて、コストや量産での製造を考えて実用的に使える素材に、傷がつきにくい、軽くて薄い、透明といった要求をつけると実現がかなり困難になってきます。

カバーガラスに求められる性能

そもそも「硬い=傷がつきにくい」ということと、割れにくい欠けにくいということは、同時に満たすのが本来困難なパラメータです。加えて、上述の通りスマホの落下状況を再現すると、角や端面から落ちてしまうケース、画面が落ちてしまうケースなど様々です。傷というのも、ポケットに鍵と一緒にいれておけば、かなりの力がかかり通常のガラスであれば欠けたり割れたりするリスクが高まります。ダイヤの指輪などが一定の力でこすれてぶつかれば、それも傷となります。こうした傷が割れにもつながっていく性質があり、一定の強度を持たせるということが難しくなっています。

スマホ等の携帯型の情報端末に求められる性能は以下となります。

  • 耐傷性(傷がつきにくい)
  • 軽量で薄い
  • 強度(割れにくい、欠けにくい)
  • 透明で美しい外観
  • 環境負荷や健康を害する物質が入っていない

この「軽量で薄く、小型で強度に優れる」という条件を満たす強化ガラスとして、化学強化ガラスが使われているのが現状です。

化学強化ガラスの原理

化学強化はガラスに圧縮応力を発生させると同時に硬度上昇させる技術です。化学的なイオン交換でこれを実現するわけですが、端的にいえば、ガラス内のナトリウムイオンをカリウムイオンに入れ替えてガラス表面に圧縮層を作るという技術です。

ガラスは引張に弱く、圧縮には強い材質ですが、このため破壊されるときも引っ張る力がかかっている部位から割れると考えられています。このため、引張応力がかかる部分を圧縮応力で相殺するというような方法で強度を向上させます。例えば、スマホの角から落下して破損に至る端面衝撃の場合、内部引っ張り応力(CT)が一定であればCS(圧縮応力値)と圧縮応力層深さ(DOL)が高いガラスほど強度が大きいとされます。

イオン交換によりガラス表面に圧縮応力を発生させる技法をHigh Ion exchange(HIE)といいますが、化学強化の技術は厚みや形状に関係なく使え、強化後の寸法精度も高く、圧縮応力値が高いという特徴があります。

一般的なガラス強化方法である熱強化の場合、板厚が4mmは必要で、スマホの薄板には使えない問題があります。

化学強化したガラスは硬く曲がりにくくなるのではなく、しなやかに曲がるガラスになるという性質があります。イメージしにくいですが、硬くてもろいはずの材料が、ねばりやしなやかを得ることで衝撃や破壊への耐性を得た、ということになります。

ガラス破壊の特徴として、表面から破壊されることや、引張応力が起きた際に割れが発生すること、強度のばらつきが大きい場合に発生するといった点が挙げられます。

ガラス表面にある目に見えない細かい傷も破壊の原因となるため、傷を如何になくすか、つきにくくするか、拡大させないかが肝となります。化学強化は、こうしたガラス破壊の諸問題を解決する古くから改良を重ねられてきた先端技術の一つとも言えます。

ゴリラガラスとドラゴントレイルの違い

下表にそれぞれの特性値をまとめました。ここではゴリラガラス6とドラゴントレイル(DT-HW)の比較を表にしています。現時点、ゴリラガラスの最新版はアルミノシリケートガラス最強と謳われるGorilla Glass Victusとなります。ドラゴントレイルのほうはDragontrail Xが最新モデルとなります。

ゴリラガラスとドラゴントレイルの違いと比較
項目 ゴリラガラス ドラゴントレイル
ガラス種別 アルミノシリケートガラス アルミノシリケートガラス
強化方法 化学強化 化学強化
グレード/モデル Gorilla Glass Victus,
Gorilla Glass 6,
Gorilla Glass 5,
Gorilla Glass 3+,
Gorilla Glass 3,
Gorilla Glass with DX/DX+
Gorilla Glass Vibrant Corning Gorilla Glass,
Antimicrobial Gorilla Glass
Dragontrail(DT-HW),
Dragontrail X,
Dragontrail Pro
フラッグシップモデル  Gorilla Glass Victus:従来の最強モデルGorilla Glass 6に比べ耐擦傷性が最大2倍に。2m落下で面割れを起こさない。耐落下性と耐擦傷性の両方を大幅向上させたモデル。 ドラゴントレイルX:ソーダガラスに比べて8倍の強度。圧縮応力は1000 MPaにもなる。鋭角に強い。1.3mの落下で端面に対する衝撃でも割れない。1mの落下で面割れを起こさずに耐える。
薄さ 0.4mm〜0.9mm 0.5mm〜5.0mm
密度 2.40 g/cm3 2.48 g/cm3
ヤング率 77 GPa 74 GPa
ポワソン比(μ) 0.21 0.23
剛性率 31.9 GPa 30 GPa
ビッカース硬さ 678 kgf/mm2(200g load、強化) 673 kgf/mm2(強化後)
破壊靱性 0.70 MPa m0.5 公開データなし
熱膨張率 75.2 x 10-7/℃ (0-300℃) 98 x 10-7/℃ (50-350℃)
屈折率 コアグラス 1.50 コンプレッションレイヤー1.51(590nm) 1.51
透過率  90.5%以上(380nm〜2000nm) 公開データなし
特性温度
(歪点)
572℃ 556℃
特性温度
(徐冷点)
624℃ 606℃
特性温度
(軟化点)
885℃ 831℃

硬さが大きいほうが傷がつきにくいはずですが、ゴリラガラス6とVictusとでは前者のほうが硬度が高いにもかかわらず、後者のほうが耐傷性には優れています。ガラスの場合、単なる硬度の比較だけでは耐擦傷性の優劣も判定は困難です。

割れるのは、傷がひろがるからですが、これには内部引張応力(CT)が関わってきます。CTが大きいと面に対する割れには弱くなるとされます。端面割れに対する強度は、圧縮応力(CS)と圧縮応力層深さ(DOL)が関わっています。これらが高いほどに端面落下による割れには強くなるとされます。

ガラスの内部は引っ張る力や圧縮する力がせめぎ合っている状態で、内部引張応力(CT)を抑え込むように圧縮応力を作り出す技術が化学強化となります。圧縮応力が十分に効いていない箇所があれば、そこについたわずかな傷から破壊に至ることもあります。

こうしたことから単に硬度の値だけから強度を見ることができない所以です。

熱膨張率が低いほうが熱での膨張による割れが発生しにくいということは言えます。

ヤング率は大きいほど変形のしにくい材料、剛性が高いということになります。剛性率の値が大きいほど変形しにくい材料です。

特性温度については、以下のような意味があります。

特性温度の意味
歪点 この温度以下だとガラスの歪を除去できない温度。
徐冷点 寸法によりますが15分程度でガラス内部の応力を除去できる温度。
軟化点 ガラスの成形下限の温度。これ以上の温度になるとガラスは急速に変形します。
 

データ上はこのように違いを比較することができますが、結論としてゴリラガラスとドラゴントレイルのどちらが強度が強いのかという点については、対決を避けるかの如く、破壊強度に関する試験動画などでは両社は条件を微妙に変えており、完全に同一な条件での実証実験を公開していないこともあって、両者の厳密な比較が困難になっています。

コーニング公式の実験動画ではゴリラガラスは面割れに強く(傷のつきにくさと壊れにくさがバランスよく向上させてある)、AGC公式の動画ではドラゴントレイルは高い圧縮応力のため端面割れに強いという印象です。開発年次で見ると、この時点ではスマホ用カバーガラスとしてはGorilla Glass Victusが最も新しいものとなります。

「ガラス破壊のメカニズム」に述べた通り、ガラスの理論上の強度は目に見えない微細な表面の傷などにより実際には理論通りの強度が出ず、製品ロットによってもばらつく可能性があり、一体何をもって比較するのかという問題もあります。ガラス製品の場合、それこそ落とした時の状況や製品の状態によって、打ちどころが悪くて割れてしまった、ということもあり得る一方、この高さや衝撃を受けても無事だったということが起こるため、均一な強度を持つものとしての評価がなかなか難しいといえます。

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