比強度の一覧表

2021年9月25日更新

比強度とは、英語ではspecific strengthといい、計算での求め方である「引張強度(N/mm2)÷密度(g/cm3)」で示される通り、重さのわりにどの程度の強度を持つかを見るための指標で、材料ごとに比較できるようランキング形式で一覧表にまとめました。なお、単位は、kN・m/kgや N・m/kgが使われます。

比強度が大きい、すなわち数値が高ければ、「軽くて強度が強い」ということを意味しています。反対に小さければ重さのわりに強度は低いとなります。チタン、アルミ、木材、CFRP、高強度繊維などは通常の鉄に比べると比強度が大きい、つまり軽いわりに強い材料ということになります。強度の絶対的な比較を行うものではなく、あくまで重さに対してどれくらいの強度かという点での指標です。強度が高いが、身が詰まっておりずっしりと重いという材料は、自ずと同じくらいの強度で軽い材料よりも比強度が小さいということになります。

比強度は重さ(密度)と強度の関係を示す指標

重量のある超硬合金などは強度が高いことは想像に難くないですが、こうした材質はcm3あたりのグラムも高くなります。つまり密度や比重が大きい物質であるため、比強度で見ると、そこまで値が高くない材質となります。こうした材料でもぶっちぎりであまりにも強度が強い場合は、重くても比強度で見た場合、比強度に優れる材料ということになります。

反対にCFRPといった炭素繊維で強化したプラスチックなどは密度が小さく軽い素材ですが、強度にも優れるため比強度が高くなります。同じ金属でも通常のグレードであれば鉄鋼よりもアルミ合金、チタン合金といった軽金属の比強度は高くなります。逆に言えばそこまで強度が高くなくても、きわめて軽い素材の場合、比強度が高くなります。

比強度の優れた材料はコストが高くなる傾向があるため、費用・単価との兼ね合いにはなりますが、用途によっては唯一無二の選択肢ともなりえます。

軽量化検討

例えば軽量化の一途をたどる自動車にしても車体にCFRPを採用して重量を下げ、燃費効率を大幅向上させたり、鉄鋼系の部材をアルミ合金、チタン、樹脂といった比強度の高い材料へ変更することで軽量化をはかる動きがあります。航空機も同様で、アルミ合金よりもさらに軽量なCFRPなどの強化プラスチックを機体の一部に採用した機種もあります。

移動を伴う物体の材質は重量が燃料効率の面や物体を動かすという側面からいつの時代も重要な要素となりますので、比強度の優れた素材を選択することは大きな関心事の一つといえます。重量が求められる用途でない限り、軽さは自由も生み出します。軽ければその部位を支える部材の負担も減らすことができ、コンパクトな設計にも寄与します。

また機械部材に比強度の大きい材料を使うことで、機械の高速回転部位や摺動部品の作動効率を高めることもできます。こちらも装置の大型化・重量増加を抑えるメリットもあります。

ただ比強度に優れた材料を用いると、同じサイズで発生する最大応力、最大たわみを小さくすることができます。これは構造物については非常に大きなメリットといえます。

製品や構造物に重量制限がある場合などは比強度の優れた素材を使うことがキーになるため、材料選定に使うことができる便利な指標ですが、通常機械や構造物は安全率を加味して必要な強度は決められるため、比強度ではなく絶対値としてこの部分にこれだけの強度が必要という局面では、重量のある材料しか選択肢がないこともあります。もちろん、比強度の高い素材を使えば、自重自体も抑えられるので小型化の検討を行うこともできますが、こうした意味では、比強度だけで材料選択を行うことは困難といえます。また材質の選択は、使用される環境や加工性も加味されるため、耐候性や耐熱性、耐薬品性など強度以外の指標が重要となることも多々あります。

比強度の大きい材質とは

この記事の下表に、比強度の大きい・高い順に材質を一覧にまとめました。比強度の大きさ、高さでランキング上位を占めるのはスーパー繊維と呼ばれる高分子材料や無機材料となります。繊維と金属やプラスチックなどの塊となっているバルク材料を同列で比較するのは難しいのですが、軽さでは圧倒的な素材にもかかわらず驚異的な強度や、耐熱性、難燃性を持つ性能を持つものがあります。

こうした高強度のスーパー繊維を補強材としてプラスチックに添加し、FRPとしたものが構造物用途の素材としては高い強度を持ちます。

金属系では、マルエージング鋼、ピアノ線が優れた比強度を持ちます。マルエージング鋼は航空宇宙用途に開発された高強度の材料であり、鉄鋼系ではありますがニッケルやコバルト、モリブデンの含有比率が高いことが特徴的です。ただし一般的な工業材料としては使われることは稀な上、ここまでの強度が必要な用途も限られているといえます。

比強度の面ではアルミ(アルミ系最強の超々ジュラルミン)やチタン合金(α-β)といった軽金属が実用上優れた性能を持ちますが、金属系の頂点となると鉄鋼系に軍配が上がります。航空宇宙、軍用といった特殊な用途ではない場合、鉄鋼系でもっとも高い部類になるのはダイス鋼や析出硬化系ステンレス、ばね鋼といった特殊鋼になります。 当然といえば当然なのですが、強度に優れる素材でなければ、軽くても比強度の大きい材料とは言えないということになります。

また比強度の面からは、昔から言われてきたことではありますが木材が身近な素材としては優れています。比強度だけでみると、堅木系の種類であれば鉄鋼系上位ランキングとなる「ばね鋼」とほぼ同じとなります。ただ木材の強度は特に建造物に使用する場合、引張強度だけではなく、曲げ強さ、圧縮強度、めり込みに対する強さ、せん断強さなど総合的に見ていく必要があり、引張強度を密度で割った比強度が高いからといってあらゆる局面で十分な強度を発揮できるというわけではないので留意が必要です。また天然物ゆえのばらつきもあり、同一強度のものをそろえるのが難しいという課題もあります。

比強度のランキングと一覧

下表が材料種類ごとの比強度を一覧にまとめたものです。以下、一覧作成にあたっての留意点となります。

  • ダイヤモンドの引張強度は正確には不明で、60,000MPaまで観測されていますが、225,000MPa近くになるとも言われます。便宜上、観測された値で計算しています。
  • 繊維は乾燥時(標準時)のcN/dtexから次の換算式でMPaの引張強さへ変換し、比強度を算出しています。 密度(g/cm3) × 0.1 × cN/dtex × 1000
  • 繊維はバルク材と違って、本来の引張強度の基準寸法である1mm2にしての強度計測が困難です。というのも繊維の断面は立方体ではないうえ、繊維構造も複雑なものが多く、空気や水分を含み、金属やプラスチックのように身の詰まった状態の1mm2を作り出すことができません。このため、理論上の換算値を用いての比較になります。スーパー繊維については、メーカーからGPaでの引張強度が公開されているため、cN/dtexからの換算ではなく、GPaからMPaへ換算したものを計算に用いています。
  • 各材質はメーカーにより様々なグレードがあり高強度グレードについてはここに掲載されている比強度を凌駕するものがあります。
  • 金属材料については、熱処理により引張強度がかなり変化します。強度向上が熱処理で見込める素材は、材料記号の部分に熱処理の有無等を記載しています。材料によっては熱処理の方法でこれ以上の強度が出るものがあります。
  • 鉄鋼系材料で密度にばらつきがあるものや規格値がないものは7.8を便宜上採用して比強度を試算しています。鉄鋼材料は炭素量が密度に影響しますが、合金のグレードが多数あり、含まれている合金元素によって前後します。
比強度の一覧|大きい順のランキング表
材料の種類 材料記号・熱処理・商品名等 種別 密度(g/cm3) 引張強さ(T/MPa) 比強度(kN·m/kg)
ダイヤモンド - 炭素同素体 3.52 60,000 17,045.45
PAN系炭素繊維 トレカ スーパー繊維 1.76 7000 3,977.27
PBO繊維 ザイロン スーパー繊維 1.56 5800 3,717.95
超高分子量ポリエチレン繊維(高性能PE繊維) ダイニーマ スーパー繊維 0.97 3500 3,608.25
ポリアリレート繊維 ベクトラン スーパー繊維 1.41 4800 3,404.26
パラ系アラミド繊維 ケブラー スーパー繊維 1.44 3400 2,361.11
CFRP(一方向RC:33%) CFRP 炭素繊維強化プラスチック 1.5 2400 1,600.00
ボロン繊維 SpecialtyMaterials スーパー繊維 2.61 4000 1,532.57
ガラス繊維 Eガラス スーパー繊維 2.6 3400 1,307.69
ナイロン繊維 PA66 繊維 1.14 650 570.18
麻(ラミー) RA 繊維 1.5 855 570.00
石英糸 - セラミックス 2.07 1000 483.09
ポリプロピレン繊維 PP 繊維 0.91 364 400.00
ポリエステル繊維 PES 繊維 1.38 524 379.71
テグス(腸線) - 繊維 1.32 420 318.18
アクリル繊維 PC 繊維 1.17 362 309.40
マルエージング鋼 350級(焼鈍し、時効処理) 金属 8 2403 300.38
ピアノ線 SWP-V 金属 7.85 2210 281.53
綿 CO 繊維 1.54 400 259.74
ポリ塩化ビニル繊維 CL 繊維 1.39 334 240.29
ニッケルクロムモリブデン鋼 SNCM439(焼入れ焼き戻し) 金属 7.8 1765 226.28
チタン合金 60種、6Al-4V 金属 4.43 980 221.22
超々ジュラルミン(アルミ合金) A7075P(T6,焼入れ焼き戻し) 金属 2.8 573 204.64
絹糸 - 繊維 1.3 260 200.00
ダイス鋼(合金工具鋼) SKD6(焼入れ焼き戻し) 金属 7.8 1550 198.72
析出硬化系ステンレス鋼 SUS630(H900:固溶化処理後、470〜490℃で空冷) 金属 7.9 1310 165.82
ばね鋼 SUP7(焼入れ焼き戻し) 金属 7.8 1230 157.69
木材(堅木) - 木材 0.7 110 157.14
析出硬化系ステンレス鋼 SUS631(焼き戻し、時効処理) 金属 7.93 1225 154.48
超ジュラルミン(アルミ合金) A2024P(T4,常温時効) 金属 2.8 430 153.57
クモ糸 - 繊維 1.29 180 139.53
マグネシウム合金 MP5(製造したまま、板材) 金属 1.8 250 138.89
マグネシウム合金鋳物 MC1(T4,常温時効) 金属 1.8 240 133.33
ビニリデン繊維 - 繊維 1.7 221 130.00
アルミニウム合金(耐食アルミ) A5083P(焼鈍し) 金属 2.7 345 127.78
マグネシウム合金 MB1(製造したまま、棒材) 金属 1.8 230 127.78
ジュラルミン(アルミ合金) A2017P(T4,常温時効) 金属 2.8 355 126.79
クロムモリブデン鋼 SCM440(焼入れ焼き戻し) 金属 7.8 980 125.64
ニッケルクロム鋼(SNC815) SNC815(焼入れ焼き戻し) 金属 7.8 980 125.64
オーステンパ球状黒鉛鋳鉄 FCD900A(オーステンパ処理) 金属 7.3 900 123.29
木材(普通、木目に平行) - 木材 0.6 70 116.67
超硬合金 G5 セラミックス 14.3 1600 111.89
高張力鋼 HT80(焼入れ焼き戻し) 金属 7.8 865 110.90
ベリリウム銅 C1720(完全硬化) 金属 8.2 900 109.76
マンガンクロム鋼 SMnC420(焼入れ焼き戻し) 金属 7.8 830 106.41
機械構造用炭素鋼 S45C(焼入れ焼き戻し) 金属 7.8 828 106.15
機械構造用炭素鋼(硬鋼) S55C(焼入れ焼き戻し) 金属 7.8 780 100.00
クロム鋼 SCr430(焼入れ焼き戻し) 金属 7.87 780 99.11
ポリイミド樹脂(GF充填) PI プラスチック 1.9 186 97.89
ポリフェニレンスルファイド(GF40%添加) PPS プラスチック 1.64 160 97.56
ハステロイX (焼き鈍し) 金属 8.2 775 94.51
マンガン鋼 SMn438(焼入れ焼き戻し) 金属 7.87 740 94.03
羊毛 WO 繊維 1.32 118 89.39
モネルメタル (焼き鈍し) 金属 8.8 775 88.07
低温圧力容器用ニッケル鋼鋼板 SL9N590(焼入れ焼き戻し) 金属 8.8 760 86.36
ニクロム GNC108(製造したまま) 金属 8.4 690 82.14
鉄筋コンクリート用棒鋼 SD490 金属 7.8 620 79.49
機械構造用炭素鋼鋼管 STKM15C 金属 7.85 580 73.89
機械構造用炭素鋼 S45C(焼ならし) 金属 7.8 570 73.08
純チタン C.P.Ti(焼鈍し) 金属 4.4 320 72.73
マルテンサイト系ステンレス鋼 SUS410(焼入れ焼き戻し) 金属 7.75 540 69.68
りん青銅 C5212P(完全硬化) 金属 8.8 600 68.18
超硬合金 H1 セラミックス 14.8 1000 67.57
インコネル600 NCF600(焼き鈍し) 金属 8.4 550 65.48
ナイロン(PA66) PA66 プラスチック 1.15 75 65.22
オーステナイト系ステンレス鋼 SUS304(固溶化処理) 金属 8 520 65.00
インコロイ800 NCF800(焼き鈍し) 金属 8 520 65.00
鉄筋コンクリート用棒鋼 SD345 金属 7.8 490 62.82
ねずみ鋳鉄 FC材(鋳造したまま) 金属 7.2 450 62.50
洋白 C7521P(完全硬化) 金属 8.7 540 62.07
フェライト系ステンレス鋼 SUS430(焼き鈍し)) 金属 7.7 450 58.44
一般構造用圧延鋼材 SS400(焼鈍し) 金属 7.9 450 56.96
球状黒鉛鋳鉄 FCD370(鋳造したまま) 金属 7.1 370 52.11
シルミン AC3A(鋳造したまま) 金属 2.7 140 51.85
建築構造用圧延鋼材(ガイドライン鋼材、SN材) SN400C(16mmと想定) 金属 7.8 400 51.28
自動車構造用熱間圧延鋼板(ハイテン材) SAPH400(6mmと想定) 金属 7.8 400 51.28
ポリウレタン繊維 スパンデックス 繊維 1 50 50.00
亜鉛ダイカスト合金 ZDC1 金属 6.6 325 49.24
黒心可鍛鋳鉄 FCMB360(焼きならし) 金属 7.4 360 48.65
機械構造用炭素鋼(軟鋼) S12C(焼ならし) 金属 7.8 370 47.44
ネーバル黄銅 C4640P(製造したまま) 金属 8.4 375 44.64
マンガニン CMW 金属 8.2 340 41.46
アクリル樹脂 PMMA プラスチック 1.17 48 41.03
6-4黄銅 C2801(完全焼き鈍し) 金属 8.4 330 39.29
ポリプロピレン(一般グレード) PP プラスチック 0.9 35 38.89
ニッケル Ni(焼き鈍し) 金属 8.9 335 37.64
革ベルト - 繊維 0.86 30 34.88
冷間圧延鋼板 SPCC 金属 7.8 270 34.62
熱間圧延軟鋼板 SPHC 金属 7.8 270 34.62
ポリスチレン PS プラスチック 1.04 35 33.65
りん青銅鋳物 PBC2C 金属 8.8 295 33.52
7-3黄銅 C2600(完全焼き鈍し) 金属 8.5 280 32.94
青銅鋳物 BC2C 金属 8.7 275 31.61
純鉄(99.96%)焼鈍し - 金属 7.9 196 24.81
黄銅鋳物 YBsC2 金属 8.5 195 22.94
ポリエチレン(高密度) HDPE プラスチック 0.94 21 22.34
無酸素銅 C1020(完全焼き鈍し) 金属 8.9 195 21.91
ガラス - セラミックス 2.3 50 21.74
純アルミニウム A1085P(焼鈍し) 金属 2.7 55 20.37
ポリエチレン(低密度) LDPE プラスチック 0.91 4.1 4.51

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