黒錆加工の原理とデメリット|紅茶を使うタンニン染めは黒錆なのか?

2022年2月27日更新

黒錆加工を手軽に紅茶や酢、クエン酸等を使って家庭で実施する方法がいくつか紹介されていますが、この原理は一体どのようなものか考察していきたいと思います。また、あまり指摘されていませんが本来の四酸化三鉄で構成されている「黒錆」の膜を作り出す防錆対策に比べてこの方法のデメリットについても触れていきます。

黒錆は原則、自然にできない

「黒錆」を意図的に作り出して錆を抑える、防錆効果を付与する技術はいくつかの方法が知られています。ここでは3つの方法を比較考察していきます。

本来、黒錆加工は鉄の表面に安定した酸化鉄の膜(黒錆)をコーティングのように形成して、鉄の腐食が内部に浸透したりボロボロになったりしないようにする技術で、工業分野では意図的に作り出すものと、製法上の理由で鋼板にできてしまうものとがあります。

つまり、安定した黒錆は放っておいても発生してしまう赤錆とは違い、自然にはできない錆ですので、薬品で反応させて作るか、加熱するか等で作り出す必要があります。

なお、黒錆の成分は、一度できると容易には消失しない安定した四酸化三鉄であり、化学式ではFe3O4となります。マグネタイトとも呼ばれます。酸化第一鉄であるFeO(ウスタイト、酸化鉄(II))も黒い錆であるため、こちらも黒錆と呼ばれることがありますが、他の錆の成分に変化しやすく、黒錆の中で見られるとはいっても、四酸化三鉄がきちんと出来ていないと黒錆として防錆効果を十分に維持できないと考えられます。

鉄をボロボロにさせてしまう赤錆がFe2O3の酸化第二鉄を主成分としていることからも、そもそも錆の成分自体が同じ酸化鉄でも異なるということになります。

黒錆を作り出す技術と黒錆の中身がポイント

以下に黒錆を作り出す技術と、黒錆の中身が何かを見ていきます。実は紅茶や酢で作り出す「黒錆」と、高温加熱による「黒錆」では成分が違い、同じ黒色ではあっても、錆=腐食生成物ではないので、厳密には紅茶を使った手法は黒錆を作り出しているとは言い切れない部分があります。

紅茶や酢で行うタンニン鉄での色付け

「黒錆加工」と呼ばれていますが、実際には「タンニン鉄」を生じさせて、それを鉄の表面に付着させる手法です。紅茶にはタンニンが含まれますので、鉄製品を液にひたすとタンニンと鉄の化合物が生じ、水に溶けなかったこの化合物が鉄の表面に付着して黒っぽく見える、ということになります。

このタンニン鉄にも後述する手法とまではいきませんが、裸の鉄に比べれば防錆の効果があるため、黒錆という表現が適切かは微妙なところですが、そのように呼称されているという背景があります。

酢につけるというのは、鉄は酸と反応して鉄イオンに変化(+水素ができる)するという性質がありますのでこれを促進させる意図があります。つまり、酢に鉄をつけて鉄イオンを大量に放出させるということです。

鉄イオンを紅茶の中に大量に存在している状態を作り出して、紅茶の中のタンニンと反応させてタンニンと鉄の化合物をなるべく多く作ることができる状態を作り出していることになります。

ただし鉄イオンが空気に触れれば、そこにはすぐに赤錆が発生してしまいます。鉄製品を酢につけておき、液面から少し出した部分を残しておくと、酢から顔を出して空気と接する部分に余計に赤錆が発生しているのは、この液面には豊富に酸素が含まれ鉄イオンも豊富である為と考えられます。

つまり、この方法では本来の黒錆の主成分である四酸化三鉄が生成されていないのでは、との疑問が出てきます。ただ、この方法でも四酸化三鉄が生成されていないかと言われれば微妙なところで、空気と触れる環境での高温加熱がないので、巷で紹介されている方法でどこまで四酸化三鉄ができているかは実際に分析をかけてみないと詳細は想像するしかありませんが、原理としてはタンニンと鉄の化合物を作り出すというのが、この手法で行っている肝といえます。

ただ最大のデメリットは上述からわかるとおり、高い防錆効果が期待できる四酸化三鉄がどれだけ鉄の表面に膜としてついているのか皆目わからない点です。付着したタンニン鉄のみであれば、これが取れてしまえば防錆効果がなく、鉄の表面に強固な四酸化三鉄の膜ができていない場合は、継続した防錆効果もあまり期待できません。

黒染め加工

アルカリ黒色処理、黒染メッキ、BK、フェルマイト、SOBといったいろいろな名称があります。一般にメッキ加工業者で請け負っている加工です。

薬品を使って黒錆(四酸化三鉄)を作り出す方法で、アルカリ性となる高濃度の苛性ソーダの液中に酸化剤を混ぜ、140℃以上の高温に加熱し、鉄の表面を酸化させて四酸化三鉄(Fe3O4)を作り出す技術です。

このことからも、紅茶と酢ではこの処理の代用にはなりにくいことは想像に難くありません。

なお、生成される黒錆の膜厚は1から3ミクロン程度とされます。コストが安いことと、見た目がよいため、黒色の着色目的で実施されることもあります。

ただしこのようなアルカリ溶液への含浸で作られる黒錆は、鉄表面自体を完全にカバーするほど緻密な皮膜になっていません。膜も結晶質ではなく、非結晶性の膜であり、水のあるところではこれら黒錆の隙間から錆が進行することがあります。

黒染めで生成される黒錆は、他の化成処理に比べても薄いため、精密部品などに用いても寸法への影響が小さいことや材料が変質・変形するレベルでの加熱を行わないため、材料強度・性質への変化が少なくすむといったメリットはありますが、防錆面では強力な効果がない点に留意が要ります。

とはいえ、タンニン鉄を付着させる方法と比べると、防錆効果は高いと考えられます。

500℃前後までの高温加熱での黒錆生成

この方法で作られる黒錆は酸化スケール、黒皮とも呼ばれます。熱延加工の鋼板を購入するとはじめからこの状態になっているものもあります。

厚い層のあるスケール状の黒錆を作り出す方法で、身近にはフライパンや中華鍋の表面に加熱を繰り返して作る方法がこれに相当します。銀色の鉄の状態の鍋からしっかりした厚みのある黒錆が全面にできると容易には錆びず、汚れも落ちやすく、黒錆もこすっても取れにくくなります。上述の黒染めに比べると、厚い黒錆の層が表面に出来上がることになります。

ただ、この方法は均一に黒錆が表面にない箇所をなくすようにうまく作り出すことが難しいのですが、この方法でまんべんなく表面に黒錆を作る方法がもっとも安定的な四酸化三鉄の厚い層を作ることができ、防錆効果が高くなります。

工業的に作り出されるものでもわずかなピンホール等、黒錆が生成されていない小さな孔が残ってしまっているとそこから腐食し、鉄全体を侵食していきます。このため、黒錆のみに防錆を頼ることはせずに、他のクロメート処理やコーティング、塗装、防錆効果を持つ材料を使用する等の手法と併用されることが多いです。

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