ナットの強度区分ごとの硬度や材質|JISにおける強度区分4,5, 6, 8, 9, 10, 12等表示の定義

2020年1月20日更新

ナットの強度区分は、JIS規格において炭素鋼や合金鋼などの鉄鋼製のものと、ステンレス鋼のものの2つの系統の規格があります。したがって、ナットに表示されている強度区分を正しく調べるには、「材質」と「採用されている規格の種類」の双方の情報が必要です。

新旧規格が入り乱れるナットやボルトの強度区分規定

また、ボルトやナットの強度を定めた強度区分の規格は、「附属書品」とよばれる附属書(1985年のJIS改正による)に沿った製品と、「本体規格品」(国際規格であるISOに準拠して定められたJISによる)と呼ばれる製品との2種に分かれ、どの時点の改訂内容を反映したものかによって、実務や図面表記でも新旧の規格が入り乱れた複雑な様相を呈しています。

端的に言えば、4T, 5T, 6T, 8T, 10T, 12Tのように最後にTがついた強度区分表示がされているものが、附属書品です。5, 6, 8, 9, 10, 12のように数字のみの表記が新しい規格に盛り込まれた区分となります。

ナットの強度はさらに、ナットの高さによっても違いが出てきます。このため、穴径(一緒に使われるボルトの有効径)によって違いが出てきます。

強度区分は何を意味しているか

強度区分とは、ナットにどのくらいまでの力がかかっても壊れないかを示す数字で、例えば鉄鋼製のナットであれば、最新の規格で5、6、8、9、10、12の6段階が設定されています。

以前は強度区分4も使われていました。数字が大きいほどより強い荷重がかかっても持ちこたえられる製品であることを示しています。旧規格では、これが4T、5T、6T、8T、10Tとなります。正式な規格ではありませんが、7Tや9Tといった表記を行う製品もありました。

ナットのサイズによって耐えられる力、つまり保証荷重応力は変わってきます。保証荷重応力というのは、単位面積あたりにかかる力で見ますので、N/mm2の単位が使われますが、保証荷重試験力は新しい規格ではNと表記され、旧規格はkNが使われています。ナットやボルトはサイズが違えば、直径が違い、それに伴って断面積が違いますので、耐えられる力もそれに応じて変わってきます。

したがって、強度を見るための指標となる「保証荷重応力」の計算式は、保証荷重試験力を、おねじの有効断面積で割った式となります。

強度区分ごとのナットの材質

強度の強いものはボルトでも合金鋼を用いるものが多いですが、鋼製ナットのJIS規格において強度区分ごとにナットの材質を規定した表では、炭素鋼か、焼入れ焼戻しをした炭素鋼かの違いしか明記されてはいません。また熱処理の指定がない強度区分であっても、製造者の判断で焼入れ焼戻しを行ってもよいことになっています。

規格は、鋼材の強度や脆さに影響してくる化学成分の最大と最小を規定しており、炭素の最大値、マンガンの最小値、リンの最大値、硫黄の最大値のみについて決められています。

また、ステンレス鋼を用いたナットについては、オーステナイト系5種、マルテンサイト系3種、フェライト系1種の合計9種類の鋼種が指定されており、これらはISOのステンレス鋼材の規格と呼応しています。

ナットは高さによって3種類に分類

先にも述べた通り、ナットは呼び径と高さによって強度が変わり、規格では以下の3種類のナットに分類されています。下図のように、ボルトが挿入される直径となる呼び径Dに、数字を掛け合わせた値を基準に分類しています。例えば、M5のボルトは呼び径が5mmとなり、このボルトにつけようとするナットの高さが、5 x 0.9 = 4.5mm以上ある場合は、高ナット(スタイル2)ということになります。

ナットの高さと有効径
高ナット(スタイル2)の定義
ナットの高さが約0.9D以上
強度区分 ねじの呼び径Dの範囲
8 M5≦D≦M39, M8 x 1 ≦D≦M39 x 3
9 M5≦D≦M39
10 M5≦D≦M39, M8 x 1 ≦D≦M39 x 3
12 M5≦D≦M39, M8 x 1 ≦D≦M16 x 1.5
並高さナット(スタイル1)の定義
ナットの高さの最小値が0.8D以上のもの
強度区分 ねじの呼び径Dの範囲
5 M5≦D≦M39, M8 x 1 ≦D≦M39 x 3
6 M5≦D≦M39, M8 x 1 ≦D≦M39 x 3
8 M5≦D≦M39, M8 x 1 ≦D≦M39 x 3
9 -
10 M5≦D≦M39, M8 x 1 ≦D≦M16 x 1.5
12 M5≦D≦M16
低ナット(スタイル0)の定義
ナットの高さの最小値が0.45D以上0.8D未満のもの
強度区分 ねじの呼び径Dの範囲
04 M5≦D≦M39, M8 x 1 ≦D≦M39 x 3
05 M5≦D≦M39, M8 x 1 ≦D≦M39 x 3

ナットの強度区分の表示方法

ナットの強度区分は、ナット自体にも刻印などで表示されており、いくつか表示方法があります。下図のような方法の場合、aやcの部分にメーカーの名称やロゴ、識別記号などを刻印で入れている企業もあります。bの部分に数字で強度区分が表示されていることがあります。

ナットの強度区分を表示する方法

ナットの強度区分とボルトの組み合わせ

ナットはボルトと組み合わせて使われますので、ナットの強度区分は、セット使われる対となるボルトの強度区分の組み合わせも決まっています。

並高さナット(スタイル1)と高ナット(スタイル2)に限定されますが、これらで規定されているナットの強度区分ごとに、組み合わせることができるボルト(おねじ)の最大強度区分の対応表は下表の通りです。

改訂前にはあった強度区分4が姿を消していますが、低ナットは並高さナット(スタイル1)と高ナット(スタイル2)に比べて、負荷能力が減少し、ねじ山のせん断破壊を防止する設計にはなっていないナットとなります。

ナットの強度区分とボルトの組み合わせ
ナットの強度区分 組み合わせる「ねじ」(おねじ)の最大強度区分
5 5.8
6 6.8
8 8.8
9 9.8
10 10.9
12 12.9

ナットの強度区分の一覧

前述の通り、強度区分の規定は時代とともに変わってきています。最新の規格では、低ナットの強度区分が別途設けられ、これに伴い、低ナット以外は5から12の6区分が正式に規定されています。とはいえ、改訂前の強度区分4を使うケースもまだあります。実際の保証荷重を確認する際には、そのナットがどの規格に依拠した強度区分を採用しているのかをまず調べる必要があります。

鉄鋼製のナット強度区分

低ナットの強度区分04, 05の一覧
ナットの強度区分 呼び保証荷重応力(N/mm2) 実保証荷重応力(N/mm2)
04 400 380
05 500 500
ナットの強度区分の一覧
ナットの強度区分 保証荷重応力(N/mm2)
4 510
5 520から630
6 600から720
8 800から920
9 900から920
10 1040から1060
12 1140から1200

並目ねじ、細目ねじの保証荷重

以下は、並目ねじのナットにおける保証荷重試験力の一覧です。ナットの大きさによって荷重は変わりますので、「保証荷重応力」を算出するには、下表の保証荷重試験力を「おねじの有効断面積」で割る必要があります。

実保証荷重応力と同じ力をかけた際に、ナットのねじ山がつぶれたり、ナットが割れたりといった破壊がおきないことが条件となります。またこの力をかけるのをやめたあと、試験用のマンドレルから指でナットを外せることも条件の一つです。

並目ねじのナットの強度区分ごとの保証荷重試験力
ねじの呼び
D
ピッチ
P
保証荷重試験力(N)
強度区分
04 05 5 6 8 9 10 12
M5 0.8 5400 7100 8250 9500 12140 13000 14800 16300
M6 1 7640 10000 11700 13500 17200 18400 20900 23100
M7 1 11000 14500 16800 19400 24700 26400 30100 33200
M8 1.25 13900 18300 21600 24900 31800 34400 38100 42500
M10 1.5 22000 29000 34200 39400 50500 54500 60300 67300
M12 1.75 32000 42200 51400 59000 74200 80100 88500 100300
M14 2 43700 57500 70200 80500 101200 109300 120800 136900
M16 2 59700 78500 95800 109900 138200 149200 164900 186800
M18 2.5 73000 96000 121000 138200 176600 176600 203500 230400
M20 2.5 93100 122500 154400 176400 225400 225400 259700 294000
M22 2.5 115100 151500 190900 218200 278800 278800 321200 363600
M24 3 134100 176500 222400 254200 324800 324800 374200 423600
M27 3 174400 229500 289200 330500 422300 422300 486500 550800
M30 3.5 213200 280500 353400 403900 516100 516100 594700 673200
M33 3.5 263700 347000 437200 499700 638500 638500 735600 832800
M36 4 310500 408500 514700 588200 751600 751600 866000 980400
M39 4 370900 488000 614900 702700 897900 897900 1035000 1171000
細目ねじのナットの強度区分ごとの保証荷重試験力
ねじの呼び
D x P
保証荷重試験力(N)
強度区分
04 05 5 6 8 10 12
M8 x 1 14900 19600 27000 30200 37400 43100 47000
M10 x 1.25 23300 30600 44200 47100 58400 67300 73400
M10 x 1 24500 32200 44500 49700 61600 71000 77400
M12 x 1.5 33500 44000 60800 68700 84100 97800 105700
M12 x 1.25 35000 46000 63500 71800 88000 102200 110500
M14 x 1.5 47500 62500 86300 97500 119400 138800 150000
M16 x 1.5 63500 83500 115200 130300 159500 185400 200400
M18 x 2 77500 102000 146900 177500 210100 220300 -
M18 x 1.5 81700 107500 154800 187000 221500 232200 -
M20 x 2 98000 129000 185800 224500 265700 278600 -
M20 x 1.5 103400 136000 195800 236600 280200 293800 -
M22 x 2 120800 159000 229000 276700 327500 343400 -
M22 x 1.5 126500 166500 239800 289700 343000 359600 -
M24 x 2 145900 192000 276500 334100 395500 414700 -
M27 x 2 188500 248000 351100 431500 510900 535700 -
M30 x 2 236000 310500 447100 540300 639600 670700 -
M33 x 2 289200 380500 547900 662100 783800 821900 -
M36 x 3 328700 432500 622800 804400 942800 934200 -
M39 x 3 391400 515000 741600 957900 1123000 1112000 -

ステンレス製のナットの強度区分

鉄鋼製のナットとは異なる表記方法が採用されています。ステンレス製のナットについては、強度区分が例えば、A2-70と表記されていた場合、前半のアルファベットの数字の組み合わせであるA2がステンレス鋼材の種類を表しており、後半の70の数字が、保証荷重応力の最小値である700MPaを意味しています。

ステンレスナットの強度区分
ステンレスナットの強度区分
ステンレスの種類 鋼種区分 強度区分 保証荷重応力(最小)MPa 硬度
m≧0.8Dのナット 0.5D≦m<0.8Dのナット m≧0.8Dのナット 0.5D≦m<0.8Dのナット HBW HRC HV
オーステナイト系 A1, A2, A3, A4, A5 50 025 500 250 - - -
70 035 700 350 - - -
80 040 800 400 - - -
マルテンサイト系 C1 50 025 500 250 147から209 - 155から220
70 - 700 - 209から314 16から34 220から330
110 055 1100 550 - 36から45 350から440
C3 80 040 800 400 228から323 21から35 240から340
C4 50 - 500 - 147から209 - 155から220
70 035 700 350 209から314 16から34 220から330
フェライト系 F1 45 020 450 200 128から209 - 135から220
60 030 600 300 171から271 - 180から285

F1のねじの呼び径は24o以下、C1-110, C1-055については、最低焼き戻し温度275℃での焼入れ焼戻しを行うと規定されています。

ナットの強度区分ごとの硬度

ボルトと同様に、ナットについても強度区分によって硬さの範囲が定められています。

並目ねじのナットの強度区分ごとの硬度
ねじの呼び
D
強度区分
04 05 5 6 8 9 10 12
M5≦D≦M16 ビッカース硬さ(HV) 188から302 272から353 130から302 150から302 200から302 188から302 272から353 295(注3)から353
ブリネル硬さ(HBW) 179から287 259から336 124から287 143から287 190から287 179から287 259から336 280(注3)から336
ロックウェル硬さ(HRC) 最大30 26から36 最大30 最大30 最大30 最大30 26から36 29(注3)から36
M16<D≦M39 ビッカース硬さ(HV) 188から302 272から353 146から302 170から302 233(注1)から353(注2) 188から302 272から353 272から353
ブリネル硬さ(HBW) 179から287 259から336 139から287 162から287 221(注1)から336(注2) 179から287 259から336 259から336
ロックウェル硬さ(HRC) 最大30 26から36 最大30 最大30 最大36(注2) 最大30 26から36 26から36
  • 注1:高ナット(スタイル2)の最小値は180HV(171HBW)
  • 注2:高ナット(スタイル2)の最大値は302HV(287HBW, 30HRC)
  • 注3:高ナット(スタイル2)の最小値は272HV(259HBW, 26HRC)
細目ねじのナットの強度区分ごとの硬度
ねじの呼び
D x P
強度区分
04 05 5 6 8 10 12
M8 x 1 ≦D ≦ M16 x 1.5 ビッカース硬さ(HV) 188から302 272から353 175から302 188から302 250(注1)から353(注2) 295(注3)から353 295から353
ブリネル硬さ(HBW) 179から287 259から336 166から287 179から287 238(注1)から336(注2) 280(注3)から336 280から336
ロックウェル硬さ(HRC) 最大30 26から36 最大30 最大30 22.2(注1)から36(注2) 29(注3)から36 29から36
M16 x 1.5 < D ≦ M39 x 3 ビッカース硬さ(HV) 188から302 272から353 190から302 233から302 295から353 260から353
ブリネル硬さ(HBW) 179から287 259から336 181から287 221から287 280から336 247から336
ロックウェル硬さ(HRC) 最大30 26から36 最大30 最大30 29.2から36 24から36
  • 注1:高ナット(スタイル2)の最小値は195HV(185HBW)
  • 注2:高ナット(スタイル2)の最大値は302HV(287HBW, 30HRC)
  • 注3:高ナット(スタイル2)の最小値は250HV(238HBW, 22.2HRC)

旧規格のナットの強度区分|4T, 5T, 6T, 8T, 10T, 12T

JIS B 1052-91の頃は、4T, 5T, 6T, 8T, 10T, 12Tの6段階の強度区分がナットにも規定されていました。附属書JBにおける鋼製ナット(並目ねじと細目ねじで、ねじの呼び径2mmから39o)の機械的性質は、強度区分4Tから10Tについて規定されています。

旧規格でのナットの強度区分ごとの機械的性質
強度区分 4T 5T 6T 8T 10T 12T
保証荷重応力 N/mm2
(kgf/mm2)
392(40) 490(50) 588(60) 785(80) 981(100) 1177(120)
硬度 ブリネル硬さ(HB) 302 353
ロックウェル硬さ(HRC) 30 36

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