パススルーの意味とは

2021年6月20日更新

自動車部品業界で使われるパススルーの意味は、海外へ完成品(自動車部品)をそのままサプライヤー側が輸送することを意味しています。自動車メーカーが日本で部品を購入し、KD(ノックダウン)品として自ら輸送する場合と比較して使われます。

つまり、部品調達やサプライチェーンの視点で見ると、パススルーのほうが安いか、KDのほうが安いか比較検討されることがよくあります。以下にパススルーをサプライチェーンで使う場合のメリット、デメリットを自動車メーカー、部品メーカー双方の視点から見ていきます。

部品供給におけるパススルーとKD(ノックダウン)の違い

パススルーとKDの違い
サプライチェーン 納入形態
パススルー サプライヤー(自動車部品メーカー)が輸送し、現地で自動車メーカーへ部品を納入
KD(ノックダウン) サプライヤーは日本国内の自動車メーカー拠点へ納入して完結。その後自動車メーカーが他の部品とまとめて海外の自社拠点へ輸送する
 

パススルーでの自動車部品納入

パススルーでカーメーカーへ納入する場合というのはさらに大きく2系統あり、日本の部品メーカーが直接自動車メーカーの海外工場へ納入する、つまり取引も海外現地法人と直接契約するというパターンと、部品メーカーの現地法人にいったん納入し、契約・納入はその現地の部品メーカーから同じ地域の自動車メーカーへ納品するというものです。形式上は後者のほうを使うケースが多くなります。

購入する自動車メーカーの視点で見れば、日本からのパススルーをそのまま受け入れると、輸入者が自社となり輸入手続きやそれにかかわる専門のスタッフが必要になります。また輸送リードタイムの検討や契約条件によっては船便のアレンジもせねばなりません。

一方、すでに現地で取引にある同じ部品メーカーの工場から納入してもらうのであれば、単なる国内取引になるうえ、ミルクランををはじめ、日々の部品納入と同じスケジュールや方法で実施可能でコストも別途計算する必要がありません。

KD(ノックダウン)品としての納入

一方、KD(ノックダウン)部品として自動車メーカーが海外の自社工場へ自ら部品を送る場合、日本の部品メーカーの納入場所はその自動車メーカーの国内拠点となり、その納入をもって完納となります。あとは輸送スケジュールから使用する船便選定まですべて自動車メーカー側で行い、具体的には現地法人から発注を受けた国内法人側が輸出手続きをして海外へ輸送することになります。

昨今のグローバル化で自動車メーカーも世界戦略車を複数の国や地域で生産することも珍しくなくなってきていますが、その場合、使用する部品が同じであれば世界中どこであっても本来同じ価格で購入すべきという流れにあります。どういうことかというと、サプライヤー側でも同じ部品をすべて同じ工場で製造しているわけではなく、中国工場向けは中国の現地法人で作らせ、タイ工場向けはタイの現地法人で作らせているというようなことが起きています。この場合、自動車メーカーからすれば、最安の拠点からの販売される価格で購入したい、となるのは必至ですが、実際には製造コストが異なるため、国によって売買価格にばらつきが出てしまうことがあります。

こうした差異を埋めるために、KDとパススルーでの価格比較を行うとコストの明細がより見えやすくなるため、比較検討の依頼がサプライヤーになされることがあります。

例えば前述の例では、中国とタイで生産している同じ部品が、タイの原価が最安だった場合、タイから中国へパススルーで送る価格とKDで送る価格を比較することで、中国から調達するよりも安くなるか明らかにすることができます。

実際、サプライヤー側のコスト構成やどこで利益を確保しているかにもよりますが、ほとんど場合はパススルーにすると負担が増加します。そもそも輸出入業務のあるなしというのはかなり大きく、多品種で大量に流動することになる自動車部品の場合、専属の担当が必要になります。

ただし、製造工場の関係でパススルー一択というケースもあります。例えば米国の顧客から引き合いがあるが、米国の現地法人では製造設備や材料調達の面から製造できない、あるいはすでに製造している別の拠点から供給したほうが設備投資を行わなくて済むので安いというような場合です。この場合は自動車メーカーからの受注のために、はじめからパススルー前提となり、KDの選択肢ははじめからありません。他社とのコンペなどで価格競争となり現地でその品種の製造ラインを立ち上げていては費用があわない場合も同様です。

パススルーとKD(ノックダウン)を比較したメリット、デメリット

以下に自動車のサプライチェーンにおけるパススルーとKDのメリット、デメリットを一覧表にまとめます。なお、自動車メーカーとそのサプライヤーである部品メーカーは立場が異なりますので、それぞれの納入・取引形態で受ける恩恵や被るデメリットも異なります。

パススルーとKDのメリット、デメリット
パススルー KD
自動車メーカー メリット 輸出入業務を行う必要がない。これに伴う在庫リスクをサプライヤーへ転嫁できる。国内担当からすると現地法人同士の取引になるため、工数が減る。 輸送量がサプライヤーより多く有利な価格条件での輸送が可能。
デメリット 海外輸送が得意で荷量がよほど多いサプライヤーでないと輸送条件・価格が上がってしまう。カントリーリスクや輸送上の問題が発生した場合、サプライヤーの対応能力にばらつきがある。中央(国内)でコントロールしたい場合、状況が見えづらい。 輸出入業務が増える。発注量が乱高下することが多くこの調整工数がかかる。
部品メーカー(サプライヤー) メリット 貿易が得意なメーカーであれば輸出入業務における原価低減活動で成果が出た場合自社で享受できる 顧客への納入管理は国内ではなく海外で直接行える為、現地法人の実力によっては情報がつかみやすい(逆に現地法人が弱いとKDよりも数量情報つかみにくくデメリットになる) 国内納入であるため、輸出入業務を行う必要がない。輸送リスクやカントリーリスク等を負う必要がない。
デメリット 輸出入業務が増えるので専門スタッフが必要。自社の現地法人によっては定款変更が必要(製造工場扱いで完成品を仕入れて転売することができない場合)。在庫は、輸出側・輸入側の双方で持つ必要があり総じて増加する。 手配が乱高下することが多く在庫を余計に持つ必要があったり内示や発注量の変動に細心の注意を払う必要がある。打ち切りや数量減で膠着在庫抱えるリスクがある。ただしこれは国内車両生産工場と比較した場合。パススルーと比較すれば総在庫はまだ少なくてすむ。

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