法対メーカーとは何か

2021年2月22日更新

法対メーカーとは、ビジネス略語の一種で、下請法対象メーカーを意味する表現です。下請「法対」象の、法対を取り出しています。取引相手先が下請法に則った取引を実施する必要があることを意味します。親事業者となる発注者視点では、特別な配慮が必要な取引先ということになります。

製造業であれば親事業者つまり発注側が資本金3億を超える場合、法対メーカーとなるのは資本金3億円以下の会社です。また親事業者が1000万を超え3億円以下の場合は、資本金1000万円以下の会社が対象となります。

プログラムやソフト、ウェブデザイン等デジタル関係の情報成果物の作成やサービスなどの取引の場合は対象となる資本金の額が異なり、親事業者が5000万を超える場合、下請法対象は5000万以下の資本金を持つ会社が対象となります。資本金1000万円を超え5000万円以下の親事業者の場合は資本金1000万以下が対象となります。

そもそも、この「法対メーカー」という言葉が使われるシーンはかなり限られており、法対メーカーではない企業同士のやり取りの中で使用されることがほとんどです。この用語が使用される背景を理解するには、企業間取引において下請法対象事業者と親事業者との取引にどのようなルールがあるかを理解する必要があります。

下請法は、正式名称を下請代金支払遅延等防止法といい、立場の弱い下請事業者が発注者である親事業者から不利益な取引をされないよう守るための法律です。これは発注者が優越的な地位を利用して、下請事業者にとって著しく不利益な内容を押し付けたりといったことが横行していたことに端を発し、近年はこの法令は強化の方向にあります。中小企業庁が定期的にアンケートなどで調査を行うほか、下請取引の内容が正しいものなのか公正取引委員会が調査や検査を行っています。

不利益な取引とは、例えば、発注書を発行せずに電話で注文を告げられ、依頼通りに製作したものの状況が変わったので納入がいらないと言われたり、発注者からの代金の支払いまでの期間が60日を超えていたり、発注後に強制的に値引きさせられたり、値引きに応じないと受領しないと言われたり、あるいは値引き前提の取引であったり、発注者側の製品を理由なく使用させることを条件にしたり、下請事業者に責任がない内容で返品をされたりといった内容です。いずれについても下請法では禁止となります。

言葉通りの意味にとらえるなら、法対メーカーとの取引であっても常識的とも思える下請法を遵守する必要があるだけで、特に配慮の必要はないように思われますが、実務上、相手が下請法対象の会社かどうかは大きな違いが出てきます。

というのも、下請法は下請事業者を守るための法令ですが、状況によっては親事業者の目線では不利益な内容となることがあるためです。下請法は使いようによっては、法対メーカーにとって極めて有利な取引とすることができます。特に法令遵守を会社方針に掲げている多くの大企業にとっては、これを理由になかなか下請法対象となる会社と新規の取引をしたがらない傾向があります。

この辺りなかなか分かりにくいのですが、以下例を挙げてみます。

法対メーカー固有の事情による取引の例
事例 下請法上の対応
親事業者となる自社は、法対メーカーから毎日納入してもらっている製品を使っているが、自社で設備トラブルが発生してしまい、自社の生産ラインを一時的に止める必要が出てきた。法対メーカーへの注文は通常前日や当日に送っているが、内示情報としてその月に必要な数の目安も提示している。納入を止めない限り、自社の倉庫はパンクしてしまい、製品を置く場所もないが、法対メーカーからは納入させてほしいと言われた。 内示情報は注文の一種と取られる可能性が高く、納入停止は下請法対象事業者の責に帰することでもないので納入を断れません。あるいは、納入を止めるのであれば下請事業者で被る損失を補償する必要があります。
法対メーカーから部品を納入してもらっているが、生産リードタイムがかかることと、業界の慣習から注文書のほかに、来月や再来月の内示情報も毎月更新して渡している。自社も客先からの注文に基づいて生産を行うため、客先のオーダーが変動し、前月提示の内示と注文との間に差異が発生してしまった。法対メーカーからはこの差分を買い取ってほしいと求められた。 これについても無碍に断ることができません。内示は注文の一種となります。
量産での生産が終了した後も修理用の部品として法対メーカーに時々注文を行っていた。このとき、金型の保管費用を別途支払ってほしいといわれた。 自動車部品などはこの典型なのですが、量産で大量の売買を行いますが、いったんそれが終わるとサービスパーツなどの修理用の部品がごくわずか売れるだけとなります。金型費自体は量産で回収しているのですが、めったに売れることがない製品であっても自動車メーカーからは供給責任を果たすよう求められますので十数年は供給義務が生じます。このとき、法対メーカーに対しては金型の保管費用を支払う義務があります。

下請法対象外の取引では、各社の責任の範囲におさまる内容でも、発注者側の責任として補償が必要となることが多々あります。見えないコストがかかっているともいわれる所以です。

いわゆる大手企業同士の取引の中では、自社の仕入先が法対メーカーであることを理由に、無理な対応を断るケースもあります(ただし、大手同士には当然下請法は適用対象外であるため、その言い分を飲むかどうかは取引先の考え次第となります。取引先の先が下請事業者で両社の取引において法令違反を犯す必要があるような注文を入れるかどうかというのはモラルの問題ともいえます)。

ただこの法律は海外取引先には通用しませんし、日本国内だけのものです。また下請法対象事業者が公正取引委員会に親事業者の違反行為を訴え出たりした場合に、報復措置をとることを禁じる条項もありますが、実際には自社に不利益な問題ばかり起こす取引先については、徐々に注文を失う傾向があります。単にコストだけを見ても、将来発生するであろう補償金額を上乗せして比較すれば、コスト競争力も維持できなくなるため、コンペで負けてしまうのは単に報復措置とも言い切れない事情もあります。

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