有償支給と無償支給の違い、それぞれのメリット、デメリットのまとめ

2021年3月15日更新

有償支給とはわかりやすく言うと、顧客から指定された部品や材料を購入しそれを使って製品を製造、製造したものを同じ顧客に販売する形態の取引です。有償とは、顧客から支給部材を「購入」する形式のことを意味しています。無償支給とはこの前半部分が違い、顧客から部品・材料を無償で供給してもらい、それを使って作った製品を同じ顧客に販売する形態です。すべての部材を無償支給してもらっている場合は、加工賃だけを顧客からもらうことになります。

なお、有償支給取引は英語でbuy-sell transaction, buy-sell trade, buy and sell trade等と表現されます。無償支給品のことを英語ではnon-free supply materials、有償支給品をcharged supply materialsと表現することもできます。

支給取引の目的と狙い

部品や材料を支給するという方法での取引は、多くの製造業、特に自動車業界、自動車部品業界では一般的な方法で、規模の大きい顧客側のほうで部材の大量購入などを行うことでサプライヤー側が単独で調達するよりも安いコストや有利な購買条件での調達が可能になり、結果として部材の価格を低く落とす手法となります。また、発注側視点で見ると、部材の品質も同一のものを使うことで加工先での調達部材の品質ばらつきを抑制し、材料での一定レベルの品質を維持できると考えられます。

二次請け、三次請けのように生産を請け負うところが階層的に多岐にわたるのが自動車部品の特徴の一つですが、この場合でも、材料や部品の供給を顧客側から受けるため、部材の品質については変わることがありません。

有名なものでは集購材といって、各自動車メーカーが大手鉄鋼メーカーと直接交渉し、鋼材の価格を抑えて各部品メーカーへ有償支給する方法があります。鉄鋼メーカーは巨大ゆえ、ほとんどの部材メーカーは直接の価格交渉が困難ですが、使用量の大きい大口顧客である自動車メーカーであれば、より低コストでの調達が可能となります。結果として、自動車メーカーは自社が調達した部材を部品メーカへ供給することで、部品価格自体も抑制することができるという仕組みです。

無償支給の場合でも、狙いと原理は同じであり、有償支給との違いは支給する部材を売買によって供給するかどうかという点です。ただし後述する通り、これが大きな違いとして影響してきます。

支給取引の模式図

下図は製品を生産し顧客となる自動車メーカーへ納入する立場を青色のサプライヤーで示し、発注側であり顧客側となる自動車メーカーをオレンジ色で示しています。

有償支給取引をわかりやすく図にすると

取引の流れは、@にある通り、自動車メーカー側が部材を支給し、サプライヤー側がそれを使って製品を作り自動車メーカー側へ納入するというものです。

実際の支給品の流れで見た場合は、Aのように、自動車メーカーから指定された別の部品メーカーから支給品が送られてきて、それを使ってサプライヤーが製品を作り、自動車メーカーや同社が指定した別の納入先に製品を納めるという形式です。

なお、有償支給の場合、手数料や事務工数、伝票授受の軽減などの観点から「支給品の支払金額」と「製品の支払金額」は相殺してその差分だけの送金にすることが一般的です。製品代金のほうが通常は当然高くなるため、製品代金−支給品の代金=サプライヤー側に支払われる代金となります。

支給元と支給先とのやり取りのパターン

有償支給、無償支給いずれについても、支給する部材を出荷するサイドとなる「支給元」と、それら部材を受け入れる側となる「支給先」が存在します。各サプライヤーはカーメーカーから直接部材の支給を受けるケースもありますが、ほとんどはそのカーメーカーから指示を受けた別の部品メーカーから支給部品が発送され、納入されることになります。

支給元と支給先のやり取りに自動車メーカーがどの程度介在するかは、メーカーごとに差異があります。主流となっている考え方は、例えば実務上の必要数量のやり取りは納期調整も含めて支給元と支給先が直接行うというものです。トヨタはこの方法を使っており、基本的に必要数のやり取りにはトラブル等が発生しない限り介在しません。

図のAの例でみると、トヨタへ納入しているサプライヤーは、支給元となる部品メーカーへ直接発注情報をトヨタ共通EDI等のシステムを使って送信します。支給元は指定のかんばん・納品書をつけて支給先であるサプライヤーへ製品を納入します。支給された部品の支払いそのものはサプライヤーから自動車メーカーとなるトヨタへ行うことになります。

この方法のメリットはサプライヤーと支給材メーカーとの間で直接やり取りすることで発注数から納期まで決めるため、支給部品のムダがなくなり、管理工数も下がる点です。デメリットは、サプライヤー側は自動車メーカーへ支払う側で、支給部材メーカーは自動車メーカーから支払いを受ける側であるため、お互いの間には売買の取引関係があるわけではなく、利害が対立した場合、二社間では話がつかないことがある点です。

有償支給、無償支給なしでは成り立たないサプライチェーン

これら取引手法は自動車業界では不可欠な手法であり、支給取引の構造なくしてはもはやサプライチェーン自体が成り立たなくなってしまうほど深く浸透しています。サプライチェーンの頂点に位置づけられる自動車メーカーとそこへ直接納入を行う部品メーカーとなるTier 1(ティア1)でこうした商慣習をもつと、Tier 1同士の取引や、Tier 1とTier 2(ティア2)との取引、Tier 2とTier 3の取引や各取引窓口の下請け企業に至るまで同種の取引形態が浸透していく構図になります。

今日では支給取引を行っていないカーメーカー、部品メーカーはほぼないといえます。ただしやり方はメーカーによっていくつか方法があり、納入方法・発注方法に至るまで支給元と支給先で直接やり取りすることを推奨するところもあれば、いったんカーメーカーで買い上げて自社指定倉庫に入れた後、そこから必要な部品メーカーへ支給している形態も持つこともあります。あるいは受発注だけはカーメーカーと直接行い、実際の物の流れだけを支給元と支給先で行うという形態もあります。

支給する数量の決め方もカーメーカーごとに違いがあり、自動車生産台数にあわせて支給数量をカーメーカー側で決めるところもあれば、あくまでカーメーカー側で指示するのは自分たちが必要な部品の内示数量だけで、その生産に必要な支給部品の発注依頼はサプライヤー側に任せている、というケースもあります。

一方的に支給部品を送り込むタイプの支給取引の場合は、自社都合のタイミングやロットを踏まえたタイムリーな生産や支給部品の最適在庫での運用は困難になります。この場合、一定期間たつと在庫調査し過多になった分を在庫調整する機会を設けるケースが一般的です。

貿易取引の場合、無償支給は課税価格に注意

なお、税務上の問題で無償支給の場合には一点注意が必要な事柄があります。製品を輸出・輸入するような場合、各国の税関では関税をはじめとする諸税を支払うことになりますが、このときの基準は主に製品売買に用いられた金額に輸送費と保険費を加算したものが使われます。

無償支給の部材や治工具、金型などを使って作った場合、国内の売買価格にはこれらは無償でもらっているため入ってきません。極端な例でいえば、材料費も含めて計算すると1個1000円の製品が、すべての部材を無償支給されていた場合、1個200円の加工賃ですむため、この金額で売買を行います。この200円をもとに輸出・輸入を行ってしまうと、取引の内容によっては過少申告になるという問題があります。関税や諸税の計算根拠となる製品単価というのは通常はこの1000円がもとになるためです。

有償支給と無償支給のメリット、デメリット

上述を踏まえ、以下に発注側=顧客側=支給元と、受注側=供給側=生産側=支給先とに分けて、有償支給と無償支給それぞれのメリット、デメリットを表にまとめました。コストを下げることを考えるのであれば、会計処理に手間がかかったとしても、断然、無償支給よりも有償支給が有利となります。

有償支給と無償支給のメリット、デメリット
主体 有償支給 無償支給
発注側(支給元)のメリット
  • 受注側が無駄に購入した場合、受注側(支給先)の費用になるため、結果として効率的な発注になることが多い
  • 受注側が勝手に支給材を転用しにくい
  • 在庫管理を発注側で行う必要がなくなる
  • 支給先が購入する形をとるので資産も支給先のものとなり棚卸が不要
  • 伝票処理や会計処理が楽(ただしコスト面でのメリットはほとんどない)
  • 資金力に乏しい外注先とでも支給取引がやりやすい
発注側(支給元)のデメリット
  • 体力のない仕入先に対してこの手法を使う場合、発注と必ず紐づける必要があるが、先に有償支給材を準備・発送してからそのあとで実際に製品発注するため、数量に差異が出ることがある。相手が下請法対象事業者であれば、この分は買い取りの必要がある。
  • 特に転売を防ぐ目的や他社へ調達価格を知られないようにするために支給単価を高めに設定することがあるが、これら差益は決算時に取り消しの必要があり処理が煩雑となる。
  • 有償支給材にも管理費をのせる必要があり、最終製品の価格に影響する。
  • 売り上げの二重計上などにならないよう注意が必要。
  • 伝票の処理や会計処理が煩雑
  • 数量管理が支給先任せになるため、供給しすぎているかどうかが分からなくなる。在庫管理を個別に実施すればトレースできなくはないが、非常に煩雑となる
  • 無償で供給した部材を支給先に転売されたり、自社品以外のものに使われてしまうリスクがある
  • 支給先に転用されても気が付きにくい
  • 支給元から支給先へ資産が移転せず、未使用品については棚卸が必要となる
受注側(支給先)のメリット
  • 使う分しか購入しないので無駄な在庫を持つような依頼はしなくなる。結果として、倉庫のスペースが空き、管理費用も浮く。
  • 部材を支給元から購入する資金的な余裕がなくても支給取引ができる
  • 特に発注数量が乱高下するようなタイプの製品の場合、支給された部材の支払いをする必要がないため、利益や買掛金の変動がない
  • 在庫管理があまくても自社の損失にならない
受注側(支給先)のデメリット
  • 購入するための資金が必要。生産に時間がかかる場合は先行で支給品を購入しておくため、作ったモノに対する支払いを受けるために、支給部材の支払いが先に発生する場合がある。下請法対象事業者であれば、こうした支給材の早期決済は禁止されているが、そうでなければ法で守られることはない。
  • 数量変動が大きいオーダーの場合、自社からの販売金額より有償支給金額が上回ってしまうと、赤字になったり、現金がショートするリスクがある。
  • 必要数以上の数量を頼みがちであり、在庫場所が必要となる
  • 支給品が自社の資産ではないため、社員が勝手に転売・転用等しないよう注意する必要がある

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