抗菌作用のある金属とそのメカニズム|殺菌性能の高い金属の一覧

2020年9月27日更新

ある種の金属に抗菌作用や殺菌作用があることは古くから知られていますが、どのような仕組みで抗菌することができるのでしょうか。実際、微生物には害があるものの、人には微量であれば比較的害の少ない金属があり古くから抗菌や殺菌の用途で使われています。古代エジプトですでに利用されていたという説もあります。

正しく使えば、食中毒や伝染病、疫病から守ってくれる可能性があり、インフルエンザやコロナ等の流行でも抗菌性能を発揮する物質が何かについてはいくつか実証実験が行われています。

解明されていない金属と抗菌の関係

結論から言うと、すべての金属ごとに細菌やウィルスに及ぼす影響は完全には解明されていません。各種の実験や研究により諸説あり、例えば抗菌性能の高さで様々な製品に添加されてきた「銀」であれば、以下のようなメカニズムと考えられています。

  • 銀の触媒作用が、空気中や水中などの酸素を活性酸素に変える。この活性酸素が微生物や最近に損傷を与えているのではないか。
  • 銀イオンが細菌などの細胞膜、細胞表面、あるいは内部でタンパク質・酵素と反応することで、障害を引き起こし細菌・微生物に損傷を与えているのではないか。

銀や銅の添加だけでも効果を発揮

水にわずかに溶けだした金属のイオンが細菌やウィルスの活動を抑える効果は銀以外にも知られていますが、中でも銅イオンと銅錯体は抗菌や抗ウィルスに対して効果があるとの研究が発表されています。

また、Agイオン(銀イオン)を洗濯槽や抗菌製品、抗菌スプレーで使われている通り、数多く実用化されており、無機系抗菌剤としても市販されています。これらはシリカゲルやゼオライトといった無機物を担体とし、銀を粉末状にして固定担持させたものとなります。また、銀だけでなく、副剤として銅や亜鉛が添加されるケースもあります。

銀や銅を添加した抗菌性のステンレスも存在します。特殊鋼であるステンレスは腐食に強いことがメリットですが、細菌由来のバイオフィルムが表面につくことで錆の原因になることが知られています。銀や銅を添加したり、コーティングすることでその抗菌性能、殺菌性能から微生物由来の腐食の原因も取り除くことができます。

何をもって抗菌と判断するのか

抗菌性の評価基準としては、「生菌数」や「一般生菌数」という指標が使われます。英語ではviable bacteria countと呼称します。これは寒天培地で一定の温度条件や栄養条件を整えた際、その中で発育する菌の数を測定したものです。食品衛生の分野では一般的な検査項目の一つでもあります。

この際、測定対象の菌としては「大腸菌群」「黄色ブドウ球菌」「サルモネラ」「腸炎ビブリオ」「セレウス」「カンピロバクター」「乳酸菌数」「腸管出血性大腸菌(O157:オーイチゴーナナ、O26、O111等)」「クロストリジウム属菌」「リステリア」「カビ」「酵母「ウェルシュ菌」等があります。

食品衛生法でも細菌数がいくら以下でなければならないといった成分規格を定めており、食品製造の分野では欠かせない指標の一つとも言えます。

JIS規格における抗菌性

「抗菌性」を判断するための測定方法や基準について、産業分野、工業分野では長らく共通のものがありませんでしたが、JIS規格として制定されてからはより明確な基準として可視化されることになりました。

抗菌製品の種類によってもJIS規格には種類があり、繊維製品やファインセラミックス、抗菌加工製品の三種について定められています。ここでは金属の抗菌性を見ていきますので、抗菌加工製品における基準を見ていきます。

まず、JISでは先に述べた種々の菌のうち、黄色ブドウ球菌と大腸菌が評価対象となります。

JISでは二種の細菌に対する抗菌性で判断

同じ金属でも細菌の種類が違うと抗菌性を発揮するか否かが変わってくることが知られており、これは微生物の細胞表層構造の違いとされています。このため、代表的な二種の細菌を使って試験を行うことになっています。

ここでは主として、フィルム密着法と呼ばれる評価手法が使われます。試験対象とする抗菌製品に菌液を密着させ、上からフィルムをかぶせて24時間後に細菌の数がどうなったのかを調べるものです。

JIS規格での抗菌性の定義は、抗菌性を調べたい製品の試験片と無処理の試験片に培養した菌液をつけ、菌液の24時間後の生菌数が無処理に比べて2桁以上減少していること、つまり生菌の99%以上が死滅する場合を「抗菌性がある」としています。

正確に言えば、JISでは抗菌性があるという判定は、「抗菌活性値が2.0以上のもの」ということになります。この計算式は以下となります。

  • 抗菌活性値=無加工試験片(抗菌処理なし)の24時間後の生菌数の対数値の平均−抗菌加工試験片の24時間後の生菌数の対数値の平均

「対数」であるため、2.0以上ということは2桁以上減少となります。抗菌活性値が3.0以上ならば3桁以上(99.9%以上死滅)、生菌数が減っている、ということになります。繊維をはじめ、高い抗菌性能を持つ製品にはこうした基準をクリアしたものがあります。

JISだけでは限界のある抗菌性能評価

先に述べたJIS規格では24時間でどれだけの生菌数となっているかが調査対象となりますが、ある種の菌に対して、鉛や銅は生菌数が急速に減少することが知られています。同じ菌の数まで減らすのに、8時間かかる金属と、1時間で減らしてしまう金属とでは1時間のほうが特定条件における殺菌性能、抗菌性能は高いと考えられます。

このため、生菌数が10分の1になるまでにかかる時間で殺菌性能を評価した研究もあります。

金属の抗菌性を評価する場合、「どの細菌やウィルスに対して」「細菌の減少数(生菌数)」「細菌が減少するまでにかかる時間」で見ていく必要があります。また、抗菌性能が持続可能する時間についても製品や用途によっては重要になってくるでしょう。

抗菌性、殺菌性に優れた金属

以下、細菌・ウィルス別に見ていきます。実用性を考えると人体や環境に著しい悪影響を与える金属については、あまり着目されてきていません。人と細菌双方に対して損傷を与えるものであれば有用性に乏しいからです。

例えば、マーキュロクロム液(メルブロミン)は赤チンの名称で、消毒薬として医療用途で使われていましたが、水銀化合物を含み、現在は製造中止となっています。

インフルエンザウィルス
A型インフルエンザウィルスが 銅(C1020)の表面に接触した場合、30分程度でウィルス検出できる限界値まで死滅することが報告されています。感染性不活化に30分程度という強い抗菌性能があることがわかります。
新型コロナウィルス(SARS-CoV-2)
ウィルスが感染性をもっていられる時間についていくつかの論文が出されています。以下のように、銅が抜きんでた性能を持っていることがわかります。
 
対象 感染力持続(生存)
4時間
段ボール 24時間
鉄鋼 48時間
プラスチック 72時間
MERSコロナウィルス(MERS-CoV)
温度が上がるとウィルスの生存期間は短くなることが知られています。
対象 感染力持続(生存)
鉄鋼 48時間(20℃)、8〜24時間(30℃)
プラスチック 48時間(20℃)
SARSコロナウィルス(SARS-CoV-1)
金属ではやはり銅の抗菌性能が最も高くなります。
対象 感染力持続(生存)
銅  8時間
段ボール  8時間
鉄鋼  48時間
プラスチック  72時間
木材   4日(室温)
紙   4〜5日(室温)
ガラス   4日(室温)
ヒトコロナウイルス(HCoV)
同じ金属でも、非鉄金属のほうが抗菌性能が優れる傾向にあります。鉄鋼材料には抗菌性能はほとんどないためです。
対象 感染力持続(生存)
鉄鋼   5日(21℃)
アルミニウム   2〜8時間(21℃)
プラスチック   2〜6日(室温)
PVC   5日(21℃)
シリコンゴム    5日(21℃)
ラテックス(天然ゴム)   8時間以下(21℃)
セラミックス    5日(21℃)
テフロン    5日(21℃)
黄色ブドウ球菌
JISの抗菌性指標とされている二つの菌のうちの一つです。チタン、錫では抗菌性発揮されないとの研究結果も出されています。コバルト、ニッケル、亜鉛、銅、ジルコニウム、モリブデン、鉛では抗菌性発揮(生菌数が2桁以上減少)し、菌が減少する速度別に並べると下記のようになります。銅、銀の殺菌、抗菌性能が抜きんでていることがわかります。ステンレスや鉄鋼などは抗菌性能がほぼありません。
  • コバルト
  • アルミニウム
  • ニッケル
  • 亜鉛
  • モリブデン
  • バナジウム
  • ジルコニウム
  • タングステン
  • パラジウム
大腸菌
スズ以外の金属で抗菌性を発揮する実験データが発表されています。こちらも黄色ブドウ球菌と並び、JISの抗菌性指標とされている二つの菌のうちの一つです。銅、銀、コバルトの上位3金属については、黄色ブドウ球菌と同じです。
  • コバルト
  • ニッケル
  • パラジウム
  • アルミニウム
  • 亜鉛
  • モリブデン
  • タングステン

抗菌性能に優れた銅が食器に使われないのは

なお、銅が金属の中で最も優れた抗菌性能を持つにもかかわらず、衛生用品や食器類であまり見かけないのは、食品衛生法により銅の食器は、食品の接する部分にメッキすることが義務付けられているためです。抗菌性能に優れているとはいえ、メッキなしの銅食器を入手するのは現状難しいと言えます。

これは、銅の錆である緑青が有害であるとの間違った認識の時代に作られた法令の名残と言われますが、銅自体が長時間酸性の食品と接して大量に銅イオンが溶け出したものを摂取すると稀に吐き気、嘔吐、下痢等の食中毒症状を引き起こすことがあるとされます。ただ、食器や調理器具から実際に中毒症状を起こすほどの量の銅が溶解することは考えにくいと言われています。

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