コルテン鋼の規格

2023年1月6日更新

コルテン鋼とは、耐候性鋼のことで表面に意図的に錆の層を作って、それ以上錆が進行するのを抑えるか、極端に錆進行を抑える思想の鋼材です。地鉄を錆でコーティングしてしまうという発想です。正式にはCOR-TENと書き、United Steel Corp(USスティール社)の登録商標になっています。国内では日本製鉄が販売しています。身近なところでは橋や送電鉄塔などの構造物のほか、屋外に常設される記念塔(北海道の百年記念塔が有名)・モニュメントや表札等でも見かける鋼材です。

錆のコーティングが錆を防ぐ仕組み

その歴史は意外に古く、1933年に開発され、米国で1950年代にかけて製品化・実用化されていったとされます。表面に錆の層を安定化させて、長期間屋外にさらされていてもメンテナンスフリーで運用可能ですが、錆が安定するまでに錆の色が黄色、赤茶色、茶色、焦げ茶色、黒色と変遷していくため、初期のころは全面に錆汁が垂れているような外観になります。

また周囲もこの錆汁で汚してしまうことがあります。こうしたことから建造物によっては嫌煙されることがあります。昨今は錆安定化補助処理を行うことで、流れ錆を防ぎ、ある程度色調もコントロールできるようになっています。

初期は普通の鋼と同じように錆びていきますが、その錆が徐々に緻密で母材に密着する保護性の錆に変わっていくことがこの鋼材の大きな特徴です。

つまるところ、保護性の錆がしっかりコーティングの役割を果たすようになるまでには大気中に長時間放置しておく必要があります。

構造としては下図のように、地鉄と最外層の錆との間に銅やクロム、ニッケルなどの元素が濃縮したとされる緻密な非晶質の錆層ができ、これが酸素が透過して地鉄に届くのを防ぎ、腐食が抑制されるという仕組みです。

コルテン鋼の錆を抑制するメカニズム

メリット

メンテコスト軽減

この鋼はメンテンナンスコストを大幅に抑えることができる点が大きなメリットです。構造物がメンテが容易ではない山地等に設置された場合、腐食や錆による劣化がすすむと維持管理コストも膨大なものになるため、利用によるコスト低減が期待されるところですが、本家の米国に比べると日本での普及率は今一つという状況です(橋=橋梁での利用は、米国で約45%、日本で約6%というデータもあります)。

塗装コスト減

一見すると表面が赤茶けているため、錆が拡がっているにも見えるので、用途は選びますが、塗装も可能なうえ、塗装の剥離や欠陥が起きてもその部位から腐食が進行していくということがなく、塗装自体の寿命も長くなる利点があります。このため、塗り替えの周期が延びますので、再塗装にかかるコストが抑えられます。

溶接性良好

溶接性については、長期間の耐候性を実現するために銅やクロムといった添加元素を入れているため、溶接性に特化した鋼材には及ばないとはいえ、炭素量がもともと抑えられているため、スポット溶接をはじめ、容易に溶接加工ができます。

デメリット

錆層が安定化するまでに時間が必要

黒色の安定化した錆層が形成されるまでには時間と条件が揃う必要があり、その間に冒頭で述べた通り、色が変わっていったり、錆汁の問題等が出る場合があります。対策方法も開発されていますが、時間がかかる点については致し方なく、どのような環境でも耐候性を発揮できるわけではない点には注意が必要です。

常時水分や通風性悪いと効果発揮できず

水中や土中など常時水分があるところでは安定化させた錆をコーティングとして使うことができませんので、こうした環境では不向きな鋼種です。

また、通風性の悪い部分の錆がいつまでも安定しないという問題もあり、開発元でもある米国のような乾燥地帯では威力を発揮しますが、湿潤気候の日本では効果発揮までに時間を要することがあります。

塩害

海岸地帯のように塩害を被る環境でも、錆が剥離してしまう問題があります。塩害に強い鋼種も開発されていますが、飛来塩分量の目安としては、0.05mdd(mg/dm2/day)が提唱されています。

どこで使うのかという点とマッチすれば、力を発揮する材料ですが、相性の悪い場所に設置すると効果が出ない為、設置場所には吟味が必要といえます。

コルテン鋼の成分や強度|JIS規格ではSMAとして制定

コルテン鋼に相当する鋼材は、JISでは溶接構造用耐候性熱間圧延材として以下の鋼種が規定されています。

Aはシャルピー吸収エネルギーの設定がなく、B、Cには設定されているという違いがあります。C付きのグレードがより衝撃に強い種類ということになります。また、SMA400AW、SMA400APのように末尾にWがついているものは塗装なしか錆安定化処理を行って使用するもの、Pがついているものは塗装して使用するものとなります。

  • SMA400A
  • SMA400B
  • SMA400C
  • SMA490A
  • SMA490B
  • SMA490C
  • SMA570

コルテン鋼自体の規格としては、以下の材料の規定があります。

  • COR-TEN O
  • COR-TEN 490A
  • COR-TEN 490B
  • COR-TEN 490C
  • COR-TEN 570

コルテン鋼の化学成分と引張強度、降伏点、伸び等の物理的性質

コルテン鋼のうち、COR-TEN Oの成分や機械的強度については下表の通りとなります。JIS規格ではSMA400やSMA490に相当する材料となります。

COR-TEN Oの成分
化学成分
C Si Mn P S Cu Ni Cr その他
0.12以下 0.12から0.75 0.20から0.50 0.07から0.15 0.035以下 0.25から0.55 0.65以下 0.30から1.25
COR-TEN Oの機械的強度
鋼種 引張試験
厚さ又は径(mm) 降伏点(N/mm2 引張強さ(N/mm2 伸び 試験片(JIS)
厚さまたは径(mm) 伸び(%)
冷延鋼板 t≦2.3 315以上 450以上 24以上 5号
熱延鋼板・形鋼 t≦20 355以上 490以上 t≦5 22以上 5号
t≦20 355以上 490以上 5<t≦16 18以上 1A号
t≦20 355以上 490以上 16<t≦38 21以上 1A号
20<t≦38 325以上 460以上 16<t≦38 21以上 1A号
38<t 295以上 430以上 38<t 21以上 1A号
38<t 295以上 430以上 38<t 23以上 4号
棒鋼、バーインコイル D≦38 325以上 460以上 D≦25 20以上 2号
38<D 295以上 430以上 25<D 23以上 3号

コルテン鋼のうち、COR-TEN 490A、490B、490Cの成分や機械的強度については下表の通りとなります。JIS規格におけるSMA490に相当します。

COR-TEN 490A、490B、490Cの成分
化学成分
C Si Mn P S Cu Ni Cr その他
0.17以下 0.30から0.65 0.80から1.25 0.035以下 0.035以下 0.30から0.40 0.05から0.30 0.45から0.65 V:0.02から0.10
COR-TEN 490A、490B、490Cの機械的強度
鋼種 引張試験
厚さ又は径(mm) 降伏点(N/mm2 引張強さ(N/mm2 伸び 試験片(JIS)
厚さまたは径(mm) 伸び(%)
熱延鋼板、形鋼 t≦16 360以上 490から610 t≦16 15以上 1A号
16<t≦40 355以上 490から610 16<t 19以上 1A号
40<t 335以上 490から610 40<t 21以上 4号

コルテン鋼のうち、COR-TEN 570の成分や機械的強度については下表の通りとなります。日本製鉄が取り扱う国内向けのコルテン鋼としては最も強度に優れたものとなります。JIS規格ではSMA570に相当する材料となります。

COR-TEN 570の成分
化学成分
C Si Mn P S Cu Ni Cr その他
0.17以下 0.40から0.65 0.80から1.25 0.035以下 0.035以下 0.30から0.40 0.05から0.30 0.45から0.65 V:0.02から0.10
COR-TEN 570の機械的強度
鋼種 引張試験
厚さ又は径(mm) 降伏点(N/mm2 引張強さ(N/mm2 伸び 試験片(JIS)
厚さまたは径(mm) 伸び(%)
熱延鋼板 t≦16 460以上 570から720 t≦16 19以上 5号
16<t≦40 450以上 570から720 16<t 26以上 5号
40<t 430以上 570から720 20<t 20以上 4号

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