青鋼と白鋼|刃物用に開発された合金鋼

2019年10月13日更新 2024年8月10日最終更新 Written by 金属加工事業部

金属の世界で特に刃物の材料で使われる青鋼や白鋼という名称は、日立金属の開発した刃物鋼の一種である青紙シリーズ、白紙シリーズのことを意味しています。同社のYSS高級刃物鋼は、ヤスキハガネの名称でも知られ、日本伝統の和鋼である安来鋼をルーツに持つ鋼材です。

どちらも刃物に最適な鋼材

鋼材の分類としては、以下になります。

青鋼と白鋼の材料分類
名称 分類
青鋼 合金鋼
白鋼 工具鋼、炭素鋼

これらは高品質な刃物で使われている有名な刃物鋼です。青紙1号、青紙2号、青紙スーパーが青紙シリーズで、白紙1号、白紙2号、白紙3号、白紙鋸材が白紙シリーズとなります。JIS規格にある一般的な名称では、青紙シリーズは合金鋼となり、白紙シリーズは工具鋼あるいは炭素鋼となります。特に刃物鋼としての利用が多い鋼材であり、刃物の職人の間では合金鋼というよりも、青鋼や青、青紙といった名称でやり取りされるほどよく知られた鋼材です。

外観だけで違いや見分けはつかない

「青紙=青鋼」と「白紙=白鋼」の違いは見た目では区別がつきませんので、見分け方は販売者がつけるマークや鋼材の刻印等に頼るほかありません。したがって、使用する際には材料置き場をしっかり分ける、識別のマークをつけておく等工夫が必要です。材料を表示する部分が加工中に消えてしまうこともあるため、使用時には置き場を分ける、混ぜて使わない、加工しない部位にも識別をつけておく等気をつけたいところです。

青鋼と白鋼の違い

「青紙=青鋼」と「白紙=白鋼」それぞれの具体的な性質、特徴については下表のとおりです。

白紙=白鋼
SK材(工具鋼)をベースにした高炭素鋼。JISでいう工具鋼は、炭素含有比率が0.6から1.5%となり、硬さ、耐摩耗性、耐衝撃性に優れた鋼です。0.6%を下回ると、S45C, S55Cに代表されるような機械構造用の炭素鋼ということになります。ただし硬いということは脆い性質もあります。工具鋼の硬さというのは熱にはあまり強くありませんので、ナイフや包丁をはじめとする機械加工に用いない手工具には向いています。
青紙=青鋼
白紙に合金元素を添加して切れ味と耐久性を向上させた合金鋼。クロムとタングステン、鋼種によってはバナジウムを添加した合金鋼となります。

鋼材の性能を決める要素

刃物に使う鋼材の種類としてはステンレスが有名ですが、切れ味や耐摩耗性、耐久性など抜きん出た性能を出したい場合、使う材質にも工夫が必要になります。

さびに対する強さ、耐食性という面ではステンレスが強いですが、合金鋼である青鋼や、工具鋼である白鋼は硬さに優れた鉄鋼材です。刃物における硬さとは、すなわち切れ味につながっていく要素です。また硬ければ耐摩耗性に強くなります。ただし硬すぎれば刃こぼれや欠け、折れにつながったり、研ぐ場合の難易度が上がったり、錆が出やすくなったりといった弊害もあり、粘り強さや折れにくさ、強度の指標となる靭性(じんせい)と呼ばれるパラメータとのバランスも重要となります。

一般に、あるレベルからは靭性(じんせい)と硬さは両立しなくなってきます。つまり、刃物の持つ粘り強さを追求する場合、硬すぎるとこれが失われ、反対に硬さを極めていくと粘り強さがなくなります。硬さを極めた先は例えるなら、セラミックのように、ある衝撃を加わると破壊される、というような状態になります。

このような鋼材に求める性能を付加するためには、元の成分を調整、あるいは合金元素を添加し、適切な熱処理を行う必要があります。

合金元素の添加による性能付加

以下、青紙シリーズに添加されている合金元素の特徴を見ていきます。

バナジウムは微量でも降伏点や引張強度を高める効果を持ちます。合金鋼の分野ではマンガンを組み合わせて強度を高める目的で使われることが多いです。バナジウムの添加の加減は難しく、一般には上限が0.10%に設定されている理由として、過度に加えることで切り欠け靭性や硬化性の悪化が指摘されています。適量であれば、結晶粒を微細化して靭性を高める効果を発揮します。

クロムはステンレスには欠かせない合金成分のひとつですが、微量添加している意図としては、炭化物の生成による鋼の焼入れ性を高める点がまずあげられます。焼き入れ性のよい鋼材は、熱処理により硬度をあげることができます。また焼き戻しによる軟化防止にも効果があります。

高温強度が高くなる点、表面に酸化皮膜(不動態皮膜)を生成して耐食性を高める点にも効果があります。

タングステンは金属元素としては最も硬さに優れる元素ですが、鉄鋼材に添加した場合、耐摩耗性の向上、耐熱性の向上、焼き戻し脆性を減らすといった効果が期待できます。

青紙と白紙シリーズのグレード別の成分と硬度の一覧

以下が「青紙=青鋼」と「白紙=白鋼」の化学成分と焼き鈍し、焼き戻し時の硬度目安の一覧となります。

    
白鋼、白紙シリーズの成分と硬度
鋼の種類 化学成分(%) 硬度
C Si Mn P S 焼き鈍し(HB) 焼き戻し(HRC)
白紙1号 1.25から1.35 0.10から0.20 0.20から0.30 0.025以下 0.004以下 223以下 60以上
白紙2号 1.05から1.15 0.10から0.20 0.20から0.30 0.025以下 0.004以下 217以下 60以上
白紙3号 0.80から0.90 0.10から0.20 0.20から0.30 0.025以下 0.004以下 212以下 60以上
         
青鋼、青紙シリーズの成分と硬度
鋼の種類 化学成分(%) 硬度
C Si Mn P S Cr W V 焼き鈍し(HB) 焼き戻し(HRC)
青紙1号 1.25から1.35 0.10から0.20 0.20から0.30 0.025以下 0.004以下 0.30から0.50 1.50から2.00 - 229以下 60以上
青紙2号 1.05から1.15 0.10から0.20 0.20から0.30 0.025以下 0.004以下 0.20から0.50 1.00から1.50 - 229以下 60以上
青紙スーパー 1.40から1.50 0.10から0.20 0.20から0.30 0.025以下 0.004以下 0.30から0.50 2.00から2.50 0.30から0.50
(特殊溶解鋼)
235以下 60以上

白紙と青紙の関係は下図のようになります。青紙は白紙の改良鋼種であることがわかります。硬度と靭性は裏返しの関係にあるため、靭性をあげた白紙3号といった鋼種は、硬さでは劣ることがわかります。鋼材においては万能なものは難しいため、どういう状況で使用しどの性能を優先するかという視点でバランスのあうものを選択していくことが重要となります。

白紙、青紙、白鋼、青鋼

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