原産国と生産国の違い

2022年6月5日更新

生産国や製造国は原産国と違い、何かしらの生産や加工を施している国の意味で使われる用語です。対して原産国というのは、生産だけでなく採取された天然物等も含めて「その国で生産・製造または採れたもの」を意味しています。

さらにいえば、貿易上はこれらの用語は区別して使われており、貿易上、どこの国の品物(産品)かという指定をする際には「原産国」「原産地」という用語が正式には使われます。生産した国と同じになる事が多いのが実態ですが、厳密には異なります。産品という表現が使われるのは、産出されたもの、生産されたものの双方を含むためです。製品が複数の国での生産工程を経る場合も、輸出する際にはただ一つの「原産国」を指定する必要がありますが、原産地を決める原産地規則によっては、最終加工を行った生産国が原産国にならない場合があります。以下、この違いを見ていきます。

生産国ではあるが原産国ではない、ということも

どこの国の産品かというのは輸出や輸入の際の申告の際に必要となる情報で、これによって関税の決定や統計的な利用がなされます。国をまたぐ貿易の場合、輸出する側と輸入する側のそれぞれの国で必ず「許可」が必要になりますが、それを得るのに提出する書類には、どこ産のものかという情報は必須になります。

例えば貿易摩擦などで特定の国に対して高関税をかけるというような場合、その物品の原産国がどこかで判定することになりますし、そもそも通常の関税もその国に対していくらにするかは各国が決めています。世界の貿易ルール上は、貿易協定などで特別な取り決めをしていない限り、WTO加盟国(ほぼすべての国が加盟)に対しては同じ税率を使わないといけないという原則があり、このWTO加盟国かどうかも輸入申告時の原産国で判定されています。

輸出や輸入において生産国ではなく原産国という言い方がなされるのは万国共通で、英語では下表のようになります。

生産国と原産国の英語
英語 日本語
country of origin 原産国
country of manufacture 生産国
rules of origin(略:RO) 原産地規則
certificate of origin(略:CO) 原産地証明書
Japan origin 日本原産
Made in Japan 日本製

貿易の際は、どこの国の産品かというのが必要であって、ものによっては作っているわけではないが、その国でとれたもの、というものも含まれます。ただし、輸出・輸入する際のインボイスにはMade in Japanを記載した場合は、原産国が日本であるということを示しております。こうしたことから、Made in〜、〜originのどちらかの表記があれば、それが原産国となりますので、made in とoriginを複数記載するのはNGです。正確を期すなら、この場合、originの表現のほうが正しいということにはなります。

図で示すと下のようになります。

原産国と生産国の違い

本来の原産とははじめに産出したことやそのものを指します。原義には起源やオリジン(origin)を示すものという意味が込められています。ただし貿易上は、その国で採れたもの、その国で作ったことの双方の意味を含みます。つまり原産国は生産国よりも大きな範囲を示します。

こうしたことから原産地とは品物の生産地または採取地のことになりますが、貿易上、輸出時または輸入時のある物品の原産国はただひとつということになります。鉱石そのものを採掘して輸出する場合、採掘した地が原産国となります。鉱石を輸入して鉄鋼材を生産した場合で、その鉄鋼材を輸出するときにはその生産を行った国が原産国です。鉱石を採取した国は原産国にはなりません。生産は原産性を付与する為の行為の一つということになります。

原産国に間違いがある場合、通関が進まなかったり、最悪の場合輸入国側で受け入れできない事態になることもあります。また、EPAをはじめとする特恵貿易制度を利用する際は、それぞれの貿易協定ごとに原産国の定義が個別厳密に決められているので、それを間違えると本来関税を払わないといけないものに対して免税や減税を申請する制度であることから後から追徴金や罰則金の支払いにつながることにもなります。

何をしたら生産・製造したことになるのか

その国の産品であるというために必要な「生産」や「製造」の程度というのは各国が定めている原産地規則によって決められています。この基準をクリアできれば、材料が外国産でも日本製ということになります。いわば、原産国を決めるための基準をまとめたルールブックともいえるものです。

日本の貿易では大きく分けると特恵貿易(EPAなどの経済連携協定を使って関税を減免する手続きを使用する貿易)に使う原産地規則と、非特恵貿易(普通の貿易)に使う原産地規則があります。

例えば、日本では包装・梱包を行ったり、ラベルをつけたりする行為は生産や製造にはなりません。同様に、塗装を行うだけや検品・検査を行うだけ、分解してあるものを再度組み立てるだけというのも生産したことにはならないと定義づけられています。

原料や部品となるものをすべて他国から輸入して日本で生産・加工を行っている場合、前述した工程だけを行っても貿易上は日本産ということはできません。この貿易上日本産ということができるかどうかは原産地規則で定めており、原産性を付与する行為がどのようなものかについても定めがあります。

原産性を付与することができる、つまり原産国を名乗ることができるのは大別すると以下の3パターンのものになります。

1.完全生産品

自国で採取・産出したもの。農産品、畜産品、魚介類、原油、鉱石等の一次産品。

2.原産材料のみから生産される産品

自国で採れたものや自国の生産品だけから作られたもの。

3.実質的変更基準を満たす産品

他国の原材料を一部または全部使用して自国で作られるもの。

この3つのうち、生産・製造をどの程度行ったら自分の国の産品にできるのかというのは「実質的変更基準を満たす産品」に該当します。他の1と2は程度によらず、自分の国の産品ということがいえますが、3は他国の原材料が「実質的変更」となるレベルでの加工や生産が行われている必要があります。

この実質的変更は、日本の通常の貿易(非特恵貿易)の場合、材料のHSコード上4桁と、輸出や輸入する製品のHSコードの上4桁が変わっているレベルでの加工や生産を行っていること、と定義付けられています。

貿易上、あらゆる物品にはHSコードという分類番号がつけられますので、業種・業界によってさまざまな品名が入り乱れても、その物品がなんであるかというのはこのHSコードでただ一つに分類されて関税や許可の判断基準とされます。HSコードの番号体系は上6桁までは世界共通の体系をもち、それ以降の桁数は各国で好きにつけることができますので、国ごとに異なる番号を持ちます。

このHSコードの番号体系は似たものは類似の番号を持ちます。例えば、自動車を例に見てみます。シリンダー容積が3,000立方センチメートルを超える乗用自動車のHSコードは8703.24となります。上2桁が87となり、この部分は類と呼ばれます。8703までの部分が上4桁で項と呼ばれます。この乗用車を日本原産とするためには、乗用車を作る部品や材料が8703以外であればよい、ということになります。自動車の部品のHSコードは8708から始まります。部品(8708)→自動車(8703)で上4桁の番号が変わるほどの加工、つまり実質的変更するほどの生産を行ったということになりますので、自動車部品がすべて海外産だとしても、日本で自動車を生産したのであれば日本製ということになる、という理屈です。

実質的変更基準を判断するためのHSコードの構成
番号 名称 意味
87 鉄道用及び軌道用以外の車両並びにその部分品及び附属品
8703 乗用自動車その他の自動車(ステーションワゴン及びレーシングカーを含み、主として人員の輸送用に設計したものに限るものとし、第87.02項のものを除く。)
8703.24 シリンダー容積が3,000立方センチメートルを超える乗用自動車

この原産地規則を関税分類番号変更基準といい、上4桁(項)が変わっていることを求めるものをCTH基準といいます。通常の貿易ではCTH基準が使われますが、日本が締結するEPA等の協定を使って関税減免を行う貿易の場合、原産地規則は協定の種類とHSコードによって異なる基準が使われるので、各協定を参照する必要があります。関税分類番号変更基準のほか、付加価値基準、加工工程基準等といった複数の原産地を決めるためのルールが存在します。

以上が貿易での原産国という表現がなされるかの背景です。実態としてはほとんどの製品は生産国=原産国となりますが両者が示す内容は異なるということになります。

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