図面を実力値にあわせる|実力合わせのための設計変更

2021年10月3日更新

実力値の意味とは、実際に生産している製品で出すことができる寸法や特性などの値でそれを出すことができる能力のことでもあります。実力値は英語ではactual valueと呼ばれますが、これは実測値に近い意味で、微妙なニュアンスを出したい場合は表現を変えたほうが良いかもしれません。図面での指定寸法や特性、物性を実力値にあわせて変更することを実力合わせと呼ぶことがあります。

実力値と実測値の違い

実力値と実測値は似た用語で、後者は実際に計測した値ということになりますが、実力値も計測していることには違いはありません。ただ「実力がある」と似たような用法になりますが、実測値が「ただ計測した値」ということだけを意味しているのに対し、実力値のほうは継続的にある範囲の値を出し続けていくことができる能力も言外に含まれる表現です。

製造現場での実力値とは、図面上の値とはまた異なるもので、保証値とも異なります。実際に作ったものを計測した時に得られる実測値に近い意味ですが、継続して量産で生産している場合に出すことができる値やその範囲のことになりますので、ニュアンスが異なります。

寸法を例にとると、100±0.3という寸法が図面で指定されている製品があったとして、1000個作っていずれもが100±0.1に収まっているとしたら、これが実力値ということになり、良品を出すことにかけては図面よりもかなり高い能力があることが分かります。反対に、1000個作って100±0.3の図面通りに仕上がる個数が0個で、100.4や100.5、99.60や99.5のようにすべて100±0.5のものだとしたら、それが実力値ということになり、図面の指定寸法を満足できないことになります。

こうした場合には後述の通り、図面の値を実力にあわせた寸法へ設計変更してしまうことがあります。もちろん、まずは製造技術のうえでの改善を行い、いかに図面通りのものを作ることができるようにするか試行錯誤することになりますが、結果としてできなかった場合は、図面を変更するか、ギブアップするしか手がありません。

工程能力における実力値

良品をどれだけ作ることができるかを示す工程能力を検討する際に、実力値という用語がよく使われます。これは工程能力指数を計算する際に、「設計上の公差の幅」を「実際に生産現場で生産される際のばらつきの大きさ=実力値」で割って出されます。図面上はこの寸法公差で製造するよう指示されていても、内容によってはすべての工場で100%合格品を作れるわけでもなく、実際に作ることができる良品は現場ごとに異なります。

このように現場で実際に物を作った際には、どれだけ図面で指定された範囲内に入ったものを作ることができるかという工程能力は非常に重要な要素となります。

たとえば、不良率が90%というようなものであれば工程能力がきわめて低いものですが、製造業としてはほぼ成り立たなくなります。設計する際に目標としている工程能力を出すことができるものなのかも十二分に検討が必要となる所以です。

実力合わせのための設計変更とは

実力合わせとは、図面上で指定されている寸法や特性を実際に製造している際の実力値にあわせて変更してしまう設計変更のことを意味しています。

本来は図面通りに作ることが主であり、実際に作ることができる内容にあわせて図面を変更するというのは設計変更の内容としては違和感があるかもしれませんが、製造することができない仕様が指定された図面も存在するためです。

もちろん、こうした実力合わせには、図面上の規格を緩和する、仕様をゆるくして良品率をあげるという意図がある一方、機能的に重要な部分で、工程能力も十分なのでさらに寸法をシビアにしていくというようなものもあります。

ただしほとんどのケースでは製品の性能には影響がないので、実際の製造では満足できていない図面個所を修正するという意図があり、これを実際に行うには納入先となる顧客への申請と承認が通常必要となります。図面を変えるということは、設計変更扱いになるためです。

あるいは客先からの承認図には記載されていない事項で社内の図面のみの記載箇所の実力合わせの場合は、こうしたプロセスが不要なこともあります。社内関係部署で合意して図面を変えたり、製造指示書に反映させるという形になります。

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