SOLAS条約での重量誤差の決まり

2022年4月6日更新

改正SOLAS条約(読み方:ソーラス条約。2016年7月発効)とは、船や港が守るべき安全規則・保安対策や備えておくべき設備や構造について定めた国際条約で、貿易や物流分野の実務で関わってくるのは、海上輸送コンテナの申告重量と現物重量の誤差を一定の範囲内に収める規定があるためです。

コンテナ重量オーバーはなぜ起きるか

国際輸送における海上コンテナには積載重量が定められていますが、これを守らずに重量オーバーのコンテナを船に積んでしまうと、船の重量バランスが狂ってしまったり、船が安全に航行できず、転覆や貨物落下、沈没等の事故につながることもあります。

一体どうしてこういうことが起きるかというと、故意に過積載をしたり重量を無視して詰め込んだりしている場合を除くと、以下のような事情があります。

国際貿易においてはインボイスで貨物の申告をし、これにパッキングリストが付随しており、この書類で貨物の重量を判断することができます。しかしながら、このパッキングリストの重量というのは作成者によって実測されているものばかりではありません。

製品の1個あたりの重量と箱や緩衝材の重さ、パレットや固縛のためのシュリンクラップやPPバンドといった梱包にかかる重量から計算上合算して記載されていることも多く、誤差が発生します。パレットも様々な種類があり、どれを使うかでもかなり重量に違いが出てきます。

また、よしんば実際の重さを実測していたとしてもその計測機器に誤差がある場合、重量が一定の範囲に収まらないという事態に陥ります。

上記のように誤差があると例えば、合計21トンちょうどになる計算のものが、製品の重量公差が±10%で、梱包材量の重量公差が±5%という場合、最大で計算上の重量は±15%の幅がある、ということになります。こうなると、21トン±3.15トンというのが重量の範囲となってしまい、最小であれば17.85トン、最大であれば24.15トンということになってしまいます。

また、実測している場合も計測機器自体にも誤差があり、±5%で変動するとなってしまえば、同様に下限と上限の間で重さが変動するということになります。

コンテナ重量算出は2つの方法が認められている

2016年7月の改正SOLASでは、荷送人、つまり出荷する側にて以下の2つのうちいずれかの方法で総重量を把握することが規定されています。つまり、以下のどちらかで重量を確定させる義務があるということです。仮に総重量の記載や情報提供ができない場合、そのコンテナの船積みは禁止となります。

  • 1.貨物が入った状態のコンテナの総重量を計測する
  • 2.コンテナに入れた製品、梱包材、パレット、固定材等の重量を個別に計測して、空コンテナの重さと合計して総重量を出す。

上記のどちらかで総重量を算出して船積書類(B/Lやパッキングリスト等)に記載するということになります。1が最も確実な方法なのですが、これはトラックごと計測する方法になり、場合によっては対応していない場合やコストや納期などのスケジュールの問題で毎回使えないこともあります。そこで、慣習的には2の方法でも認められているということになります。

なお、1の貨物が入った状態のコンテナ、いわゆる実入りのコンテナの実測方法としてはトラックスケールが一般的に使われます。これはトラックごと計測する設備で、空コンテナの状態のトラックをまず計測し、次に実入りコンテナを積載した状態の同じトラックで計測してその差をコンテナの中身の重量とします。これに空コンテナの重量を加算すれば、コンテナの中身が入った状態の実重量ということになります。

2の方法をとる場合ですが、製造メーカーにおいて、図面で重量公差が指定されているからと言っても、出荷品のすべてを梱包材とともに実測していることはほぼありませんので、図面で設定されている重量の範囲で計算上出していくというのが実務での対処方法の一つとなっています。

重量は公差で誤差範囲が決められている

納入先から改正SOLASに基づく重量保証を求められる場合は、納入先または顧客と取り交わしている図面の重量公差がいくつになっているかの確認と、使用している納入箱・中材といった緩衝材、パレットなどのメーカーに重量公差(誤差)を確認して、それぞれの公差を合算する必要があります。

例えば、製品図面の重量公差が±5%、納入している箱が±3%、緩衝材が±2%、パレットが±5%の重量公差とした場合、それぞれが基準となる重量を合計した後に、5%+3%+2%+5%=±15%の重量誤差が発生する可能性があるということになります。

もし実測での重量保証をと言われた場合は、出荷の取り回しを大幅に変えねばならず、大量の計測機器の購入と人員の手配も必要になるため、大幅な値上げになることを伝える必要があります。多くのメーカーでは対応自体が困難になると思われます。

この重量保証というのは、荷送人の義務であるため、輸出者が上記の1の方法で保証すればよい、ということになりますので、直接輸出していないメーカーの場合は、国内の納入先(顧客)との取り決めに従って納入し、輸出している顧客側が重量を実測するなりして保証する義務を負うということになります。

重量誤差の範囲

改正SOLASでは計量機器の誤差が±5%以内のものを使うとの規定があるため、この範囲内の誤差であれば許容されますが、つまるところ、機器の誤差・製品の重量誤差も含めて±5%ということになります。

改正SOLASを遵守するためには、最大でも申告重量と実測重量の差を±5%以内に収めないといけないというのがこの条約とそれが落とし込まれている法令の要諦になります。会社によってはこの誤差をさらに狭めて運用していることもあります。

上記事情から製品や荷材の重量公差がそもそも±5%に収まらないことが分かっているのであれば、トラックスケール等を使用して毎回コンテナの実重量を計測する方法をとる必要があります。

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