貿易における錆の保証期間

2024年3月10日更新

貿易において錆の発生するリスクのある金属を含む製品を取引する場合、どこからどこまでが売り手の保証範囲なのか、買い手の責任はどこからか契約書で取り決めておかないと発生時にトラブルになることが多い内容です。貿易は輸送期間が長く、海上輸送では潮風もあり海水が入らないとしても完全気密ではなく錆びやすい環境です。また結露も起きます。金属系の部材や製品の場合、必ず、取引開始前に書面でどういう場合に、どちらが責任を負うか決めておきましょう。

錆がいつ発生したかの証明は難しい

というのも、受け渡し時点では錆びていたか否か、輸送中に発生したのか否か、輸送中発生の場合どこで発生したかというのが容易に証明ができないからです。発生するとたいてい非難の応酬となります。

買い手としては、開梱したら物が錆びていた、となっていた場合、売り手の責任としたいところですが、売り手とすれば、貿易条件にもよりますが、自分たちの工場や倉庫から出荷時点で錆が確認できなかったのであれば、買い手の責任にしたいところです。

わかりやすいのは、買い手が受け取ったら指定日数以内に内容を確認し、検収をそこで上げたら責任が買い手に移る、というようなものです。

受け取る側は検収をあげる、つまり受け取ったものが良品であることを確認して支払いを行うのが常道ですが、これをきちんと明文化しておかないと、都合の良いときだけ検収しているというようなことを言い出す企業もあります。

着荷した日というのは、偽りようがないのでこの日から起算して何日以内に錆が発見された場合は売り手責任というのが、妥当な落としどころですが、錆については一切不問とするというような売り手にきわめて有利な契約も存在します。あるいは逆に、受領した製品に錆が出た場合は、無期限で売り手責任というような買い手に極めて有利なものも場合によっては可能です。

つまり貿易取引では、科学的にどこで錆が発生したかではなく、着荷した時点や出荷した時点、製造した時点など、ある時点で錆があったか、あるいはなかったのかによって売り手なのか買い手なのか責任をはっきり線引きしておくという考え方です。これであればその「時点」は必ず明確になりますので、あとはその確認・証明方法と誰がいつまでに確認するか、クレームを主張できる期間を決めておきます。着荷してから1年も経過して錆びていたと言われても納得できる売り主はいないでしょう。ただ現実には契約をきちんと定めておかないとあり得る話です。

錆の責任区分の例
スタンス 売り手の目線 買い手の目線
@非現実的だが最も有利な条項 契約条項に錆の有無は売り手は関知しない、あってもなくても売り手には責任はなく、錆は取引上の不適合責任ではないとうたってしまう 買い手が使用または開梱したときに錆があった場合、着荷してからの経過期間にかかわりなく、売り手の責任とする
A現実路線での有利な条項 出荷時に錆がなかった場合、錆の責任は買い手になる(トラブルになるなら出荷時に梱包を閉じる前に写真を撮影し、買い手に送るというプロセスを入れる) 着荷時に錆がなかった場合、それ以降の錆の責任は買い手となる。
B折衷路線 買い手は検収を着荷した翌日までに行う。その時点で錆がなかったら売り手には責任がない 指定倉庫に搬入した後、例えば1か月以内(この期間が長いほど買い手が有利)に錆を見つけた場合は売り手の責任とする

契約に定めがない場合、錆保証の期間はどうなるか

実際に錆のトラブルに遭遇すると以降は気を付けるようになりますが、それまでは契約条項もあまり錆の面では見ないと思います。とはいえ、発生した内容によっては大損害になり、契約になかった場合、どのようなルールがあるのか気になるところです。

片方がウィーン売買条約(CISG)に加盟している国での貿易の場合で、契約書の中にウィーン売買条約の適用を排除するという規定がない場合に、この条約に規定されている内容を使うこともできます。ただし、この場合も、錆のある物品は品質に適合しないことを契約書や仕様書、図面でうたっておく必要があります。「錆なきこと」が適合品の条件として明示されている必要があります。

この条約では、いわゆる瑕疵担保責任はありません。ただし、物品を引き渡す義務(第35条)においては、あらかじめ取り決めた品質に適合する状態で引き渡す義務を記載しており、そのなかには梱包仕様で取り交わした内容の通りに包装していたかもポイントになります。

35条では以下の条項で、「契約に適合しないもの」の例を列挙しています。

  • 当事者が別段の合意をした場合を除くほか、物品は、次の要件を満たさない限り、契約に適合しないものとする。
  • 同種の物品が通常使用されるであろう目的に適したものであること
  • 契約の締結時に売主に対して明示的又は黙示的に知らされていた特定の目的に適したものであること。ただし、状況からみて、買主が売主の技能及び判断に依存せず、又は依存することが不合理であった場合は、この限りではない。
  • 売主が買主に対して見本又はひな形として示した物品と同じ品質を有するものであること
  • 同種の物品にとって通常の方法により、又はこのような方法がない場合にはその物品の保存及び保護に適した方法により、収納され、又は包装されていること

ウィーン売買条約では、買主は、物品の不適合を発見し、又は発見すべきであった時から「合理的な期間内」に売主に対して不適合の性質を特定した通知を行うとしています(第39条第1項)。この通知は、自己に物品が現実に交付された日から2年以内にしなければならない(第39条第2項)と定められています。

つまり、ウィーン売買条約を適用するのであれば、買い手は錆という不適合を発見すべきときから合理的な期間内に通知を行う必要があります。これがひとつの争点です。受領したものについて、6カ月開梱せずに、6か月後に開梱して錆びを発見した、製品が不適合だから売り手が補償しろ、というのが合理的な期間かどうか、です。普通は、「6カ月間に錆びるだろう、合理的なはずがない」となりますが、買い手からすると自己の正当性を主張するでしょう。

現に、ウィーン売買条約では2年以内に通知が必要となっています。これは様々な不適合があるので、相当期間おかないとわからないという前提なのでしょうが、民法の6カ月よりも相当長い期間です。

また46条によって、条件が揃えば、買い手は売り手に対して、「補修せよ」ということもできることになっています。つまり錆取りです。貿易ですので、実際には海外から人が来て錆取りを行うというのは考えにくいですが、方法としては購入した側で錆取りを実施してその費用を請求する、あるいは着払いで品物を送り返して良品を返してもらうといったケースが現実的です。

あらかじめ錆の責任範囲を契約に盛り込むのであれば、適宜、ウィーン売買条約の適用を排除するといった条項を入れて、個別に錆保証については取り決めたほうがよいということになります。

錆に関する責任でもめるケース

契約で取り決めても条文の抜け漏れやそもそも当事者間で契約内容についての理解が十分でなかったり、売り手と買い手に著しい力関係がある場合(他の取引にも影響する)、契約通りに処理ができないことも多々あります。

具体的にどのような応酬ややり取りとなるか筆者の経験をもとに下表に一例を記載しておきます。

錆発生時の売り手と買い手の双方の言い分
売り手 買い手
  • 出荷時には製品に錆がない、検査記録も残っている
  • 倉庫での管理状態も万全で、水濡れ、雨濡れはない
  • もともと契約で合意した梱包仕様書に基づいて梱包しており、そのことは開梱時にも確認いただけていると思う。
  • 輸送中の錆の発生の責任を負うという話は聞いていないし、契約もしていない。
  • 輸送条件はEXWに指定しており、買い手が指定した輸送トラックや船便で輸送されている。当社としては軒下で物品を指定のトラック業者へ引き渡した。
  • 責任の所在がはっきりしない段階で、錆品の引き取りや補償はできない。
  • 出荷時の保管状態に疑問がある。軒下で雨がかかる状態ではなかったのか。また、製品の完成時の検査では錆びなかったとしても、梱包して安置している間に錆びているのでは。
  • トラックへの積み込み時に雨がかかったのでは。
  • 段ボールが過度の湿気を吸い込み、輸送中に放出したのでは。
  • ダンボールに水に濡れた形跡や、水で強度が劣化した痕跡がある
  • コンテナ内部の結露によると思われる水滴が貨物上部に認められた
  • コンテナ内で結露が発生する状況では。そのことは類似品で予見できたのでは。
  • 買い手が検収し、錆がないことを確認するまでは売り手の責任である
  • 錆品の処置は売り手の責任である。錆品を選別しに来るように。または返品するので引き取ってもらう。
  • 危険負担の移転があったからといって不適合の責任まで無くなるわけではない。トレードタームは関係ない

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