貿易におけるブッキングの意味|輸出者、輸入者どちらがブッキングするのか

2021年5月5日更新

ブッキングとは予約することを意味していますが、貿易の分野で使用された場合、輸出時の船便やコンテナを予約することを意味しています。仮ブッキングと本ブッキングがあり、海外取引で輸出する場合、通常はフォワーダー経由で船を運航している船社の特定の船便やエアー便の場合、航空会社の特定の便にスペースをおさえることになります。ここでは特にメーカーの視点から見たブッキングについて述べていきます。

ブッキングが原因でトラブル発生することも

貿易の責任範囲ともいえる危険負担や輸送アレンジの問題とつながっている部分があり似通っていますが、ブッキングに伴うミスやトラブルがあった場合、輸出者と輸入者のどちらが費用負担するかというのはこれらとは往々にして別問題として扱われるため、取引前に契約書面で取り決めをしておくことが望ましいといえます。

特に「船便やコンテナのブッキングができなかったので納期遅延した。ブッキングの責任は当社にはないので、遅延の責任もない」と相手方が主張してのトラブルが起きた場合、どうするかという決め事が必要です。

船や航空機の輸送スペースを確保すること

船便、エアー便も他の輸送手段と同様、いつでも無尽蔵に運航しているわけではなく、運航スケジュールが決まっていますので、輸出者・輸入者の輸送区間、納期、コスト等の希望を聞いた輸送業者(フォワーダー)が複数の輸送手段・スケジュールを組み合わせて輸送をアレンジします。このときに、実際に輸送手段をもっている船会社や航空会社に予約を入れる行為がブッキングとなります。

ブッキングの仕組みを理解することは、フォワーダーを使用した複合輸送の仕組みを理解することでもあり、実務上、トラブルになることもある項目ですので、あらためて整理しておくとトラブルの防止になります。

特に冒頭述べた通り、ブッキングがうまくいかずに納期遅延となった場合、その責任はどちらになるかというような場合に揉めることになる項目です。製品によっては納期遅延となれば、船便ではなく高額のエアー輸送を行う必要があり、その費用をだれが負担するのかという点ともつながってきます。

グループ会社間の取引であれば、社内ルールのようなものを設けて行ってもさして問題にはなりませんが、自社と資本関係のない海外取引先においては遅延した場合のケースごとに賠償金が発生するのか、挽回にかかる輸送費をだれがどのように負担するのか契約書できちんと合意しておくことが必要になります。

コンテナと船便、エアー便いずれもブッキングなしでは始まらない

まずブッキングにはコンテナをおさえるためのものと、便をおさえるためのものがあります。両者が不可分になっている国(業者)もありますが(通常はセット)、世界的なコンテナ不足に陥った折には、結局「何も入っていない空(から)のコンテナ」が確保できずに船便に積載することもできないという事態が多々発生しています。

コンテナは輸出者・輸入者自前のものではなく、輸送時に船会社から借りている形になります。一方、当の船会社もコンテナは専門業者から借りていることも多く、世界各国の航路間を行ったり来たりしているのがコンテナです。フリータイムを過ぎても着荷したコンテナを取りに来ないと超過保管料であるデマレージが発生したり、コンテナの返却が遅れると返却延滞料としてディテンションチャージが発生したりするのも、コンテナの管理運用コストを船会社側が負担しているからです(コンテナが汚れた場合の清掃費用の請求がくることもあります)。

空のコンテナを運ぶのも、貨物が満載されたコンテナを運ぶのも実質輸送賃にあまり違いはありませんので、どの会社も空のコンテナの輸送というのはやりたがりません。ただしそうなるとある航路の特定の港にはやたらコンテナが余っていたり、逆に不足していたりといった事態が発生します。

コンテナを確保しないと、船のスペースが空いていようが輸送ができない、というのは現在の海上輸送はコンテナ単位で行っているからです。フルコンといわれるFCLの船便輸送では、輸出者や輸入者がコンテナをまるまる借りきって輸送するので、コンテナの積載重量上限を超えず輸送上のルールを順守していれば空に近い状態だろうが自由に詰めて輸送することができます。ただこれはコンテナありき、の話になります。

輸出者・輸入者のいずれかがコンテナを確保し、コンテナへ荷物を積み込んで固定する作業であるバンニングを行い、輸送業者へ引き渡すという一連の流れは、コンテナがおさえらえており、積載する船便が決まっていてはじめて実施可能になります。なお、コンテナ船の積載能力は、1TEUのようにTEU(Twenty-foot Equivalent Unit、20フィートコンテナ換算)という単位を使って表わされることからも、あくまでコンテナ単位で輸送が考えられています。

混載便、いわゆるLCLといわれる輸送サービスでは1つのコンテナに複数社の貨物が混載されるため、1パレット当たりは割高にはなりますが荷量が1コンテナに満たないものでも輸送できます。この場合、コンテナのブッキングは輸出者が行う必要はありませんが、荷量が無制限というわけではなく、コンテナが不足してくると一社で受けることができるパレット数に制限がかかってきます。

ブッキングは誰が実施する業務なのか

取引関係においては必ず売り手と買い手がおり、海外取引の場合でもこれは変わりません。複雑な輸送便のアレンジや通関業務はほとんどのメーカーは、専門のフォワーダーや通関ブローカー等に依頼しています。したがって、実際に船便のブッキングをだれがやるのかという点でいえば、輸送業者(フォワーダー)が船社に対して行う、というのが直接的な回答になります。

では売り手と買い手、どちらが手配した輸送業者・フォワーダーがやるのかという点が問題になります。フォワーダーはあくまで代行しているため、例えば「この船便に40ftコンテナ2本分を積載して輸送したい。ブッキングしてほしい」という依頼があってはじめて成り立ちます。

船便やエアー便などの輸送手段・輸送便の選定権限が誰にあるのか、という点については貿易に欠かせないトレードタームである程度規定されています。

トレードタームには規定なし

例えば自国の最寄港をFOBにして輸出取引を行うのであれば、自分の国から出航される船便を選ぶ権限をもつのは、輸入する側(買い手)のほうです。ではその船便のブッキングは誰が行うのかという点については、トレードタームには規定がありません。船便を選ぶ権限を持っているのは輸入側なのであれば、ブッキングも当然輸入側が行うのでは?となりますが、実務上、FOB取引でも輸出側がブッキングを行っているケースは多々あります。

取引の視点でみると、輸出側と輸入側はそれぞれ売り手と買い手になります。買い手は「納期を指定して」発注書を発行しますので、売り手はそれに間に合うよう納入する必要があります。ただしここでFOB取引であれば、製品の価格はFOBで指定された港までの費用しか入っていません。したがって船便であれば、そのFOB指定港から輸入側の指定場所に納品されるまでに全輸送費は、輸入側が負担します。だからこそ船便を選ぶ、決定する権利が輸入側にあると解釈されています。

実はFOB取引の多くではこうした場合でもコンテナと船便のブッキングは輸出側で行っています。コンテナをブッキングする、というのはFOBの場合、港で船に積載するまでは輸出側が危険負担を負うので、コンテナのバンニングもFOB責任といえます。コンテナを予約することまでが輸出側かどうかはインコタームズでも明記はありませんが、船便と分離して予約可能なのであれば、輸出側が行うことに特に違和感はないかと思います。

ただ船便のブッキングを輸出側が行うのはどのような理屈なのでしょうか。これは実務上、いろいろなケースがあって一概には言えないのですが、例えばトレードタームごとに以下のような流れで進みます。いろいろなケースがあるというのは、例えば以下のEXWであっても輸入側が手配したフォワーダーとやり取りしてブッキングまで輸出側でやってしまうこともあるためです。極論すれば、輸出者と輸入者の取引関係の中で輸送便の決定権者がどこまでを相手方に許諾したり、依頼したりしているかという点で決まってきます。

EXW
  • 輸入者と輸出者とでPOのやり取りを行い、輸出側の出荷可能日について合意します。
  • 輸入側が手配した通関業者(フォワーダー)から輸出側に連絡が入ります。
  • このとき、荷量といつ集荷にきてよいかの確認があります。
  • 輸出者は集荷日時にあわせて製品を準備します。製品の梱包やパレタイズは輸出者側で行います。
  • 指定した集荷日時に、輸入者側が手配したフォワーダーのアレンジによる輸送便がやってきて製品を積み込んでいきます。(特段の取り決めがなければ、集荷場所へ輸送業者が取りにきたらそれで納入完了。積み込みをする義務もありません)
  • 積み込まれる製品を集荷場所でコンテナへバンニングする場合は、コンテナを送り込む日時や作業者の手配を輸入側指定のフォワーダーが事前に行い、輸出者と日時と段取りについて合意します。
  • 別の場所でコンテナバンニングする場合は、輸出者からパレット単位で回収した製品をトラックへ積み込んだら、バンニング場所まで運びます。
  • 輸入側が手配したフォワーダーに対し、輸入者が船便のブッキングし、輸出通関の依頼も行います(輸入側が手配したフォワーダーとの間でどの船便に載せるかという実質的なブッキングを輸出者が行うこともあります。ただしフォワーダーは輸入側の意向を受けた代理人ですので、使用する船便については間接的に輸入者が決定しているということになります)。
FOB
  • FOB取引でのPO(発注書)のやり取りを行い、輸入者と輸出者とで納期について合意します。
  • その後、輸入者は輸出者へ指定の船社や使用してよい船便についての情報を連絡します。
  • 輸出者はこれに基づき、納期から逆算して積載したい船を自分たちが委託している輸出通関側のフォワーダーへ伝えます。フォワーダーから候補となる船便スケジュールや便名を出してもらい、これを輸入者側へ打診。
  • 輸入者の了承が取れたら輸出者は自社の使用する輸出通関側のフォワーダーへブッキング依頼を出します。
  • あるいは、輸出側フォワーダーは、輸入側フォワーダーがブッキングした船便に積載するまでの接続の調整を行います。
CIF
  • 輸入者と輸出者でPOに基づき納期について合意します。
  • 輸出者は合意した納期に間に合う船便を手配・ブッキングします。
  • 仕向先(相手先)の国に入ってからの通関は輸入者が行います。
  • 輸入通関以降の輸送アレンジや費用負担も輸入者が行います。
DDU
  • 輸入者と輸出者でPOに基づき納期について合意します。
  • 輸出者が納期に間に合うよう輸送便のアレンジをフォワーダーに依頼、すべての輸送便のブッキングを行います。
  • 輸入側の国に入ってからの輸入通関も輸出側(輸出側が依頼した通関業者)で実施します。
  • 輸入通関以降のすべての輸送費・輸送アレンジは輸出者が負担・実施します。

ブッキングや輸送費用負担、輸送便決定の主体

以下、ブッキングや費用負担、輸送手段決定を行うべき主体が誰なのか表にまとめました。

なお、下表のFOBはFCA等Fではじまるトレードターム、CIFはCFR、CPT、C&F、CIPなどのCではじまるトレードターム、DDUはDAPやDDPなどDではじまるトレードタームと同様の範囲となります。

出荷から輸送便のブッキング、通関までの実施者
内容 EXW FOB CIF DDU
出荷場所での製品梱包 輸出者 輸出者 輸出者 輸出者
出荷場所で使用するコンテナバンニング 輸入者 輸出者 輸出者 輸出者
出荷場所でトラックへ積み込み 輸入者 輸出者 輸出者 輸出者
出荷側指定港・空港までの輸送 輸入者 輸出者 輸出者 輸出者
輸出通関 輸入者 輸出者 輸出者 輸出者
船便・エアー便のブッキング 輸入者 輸出者/輸入者 輸出者 輸出者
使用する船便・エアー便の決定権限 輸入者 輸入者 輸出者 輸出者
使用する船便・エアー便の費用負担 輸入者 輸入者 輸出者 輸出者
輸入通関 輸入者 輸入者 輸入者 輸出者

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