ブリキの規格|ブリキ原板やブリキの強度、比重、板厚、すずメッキ量、表面処理

2014年3月1日更新

ブリキとは鋼板の表面にスズ(錫)をメッキしたもので、錆びに強く、水分等に対しても耐食性があり、溶接や半田にも適していることから、主に缶(溶接缶や半田缶)の材料や電気部品等として広く使われてきた素材です。

安価な鋼板は、薄く強度のあるものを作ることができますが、そのままの状態では錆、腐食に弱く、何らかの表面処理が必要となります。このため、メッキによるコーティングを行うのが主流となっており、メッキの種類によって呼び名も変わります。スズメッキのかわりに亜鉛メッキしたものや、亜鉛−アルミニウムメッキをしたもの、クロムメッキしたもの等多彩なメッキ鋼板が存在し、実用化されています。

錫(スズ)メッキを施したブリキの特徴としては、塗装のしやすさである塗装性や印刷性(ただし、薄いメッキのほうがこの性能が高い)に優れる点、独特の金属光沢をもち美観に優れる点、加工性のよさ、溶接や半田に適している点、耐食性に優れる点等が挙げられます。

一方、デメリットとしてはブリキ表面のスズメッキはやわらかい材質であるため、傷がつきやすく、また指紋や汗などでも汚れやすい表面となります。塗装性や印刷性、はんだ性能といった面については、経時劣化することがあるため、特に何の処理もしないブリキを放置しておくと、製造当初とは異なる性質となってしまいます。また、保管状況によっては降伏点や引張強度なども経時劣化することがあります。

ブリキは素の鉄板や鋼板に比べれば、耐食性には優れていますが、湿気量が高いレベルにあるような場合、錆が発生することもあります。この耐食性については、スズメッキがアルカリに弱い性質を持つ為、ブリキが強アルカリ性の溶液に触れるような場合も注意が必要です。塗装などでスズメッキ部分が直接アルカリ性物質に触れないような工夫が必要です。同じく硫黄と反応することで、ブリキ表面が黒く変色してしまうこともあるため、成分に硫黄を含む内容物とブリキが触れるようなときも留意が必要です。この場合も、スズメッキが直接触れないよう何らかのコーティングや塗装が必要になります。

耐食性を補完する目的としては塗装で対処できるレベルに限りもある為、状況によっては鋼材そのものについても検討を行っていくことになります。

ブリキの規格の特徴

JIS規格ではブリキについて、メッキ前の元となる原板であるSPBと、スズを電気メッキしたSPTE(電気メッキぶりき)、スズを溶融メッキしたSPTH(熱せきぶりき)の三種類が規定されています。SPBはティンフリースチールの素材としても使われます。規格の内容面では、板厚の範囲や、メッキ量、調質ごとの硬度、表面仕上げの内容、寸法・サイズの許容公差、質量等について記述されています。

ブリキの調質|熱処理による硬度の違い

調質(熱処理)の種類が多く規定されており、これ次第で強度も大きく変わるため、ブリキは材料記号上、2種類しかありませんが、実際には多彩なスペックのものがあります。調質は、1回冷間圧延製品と、2回冷間圧延製品とでそれぞれ6種、4種の合計10種類が規定されています。

強度はこの調質に大きく依存し、ブリキの強度に幅があるのはこの調質の違いでもあります。高いものであれば耐力、降伏点が690MPaにもなります。

ブリキにおける1回冷間圧延製品の調質
調質記号 硬度(HR30T、ロックウェルスーパーフィシャル硬さ)
T-1 49±5
T-2 53±5
T-2.5 55±5
T-3 57±5
T-4 61±5
T-5 65±5
ブリキの2回冷間圧延製品の調質
調質記号 硬度(HR30T、ロックウェルスーパーフィシャル硬さ) 耐力(圧延方向)N/mm2
DR-8 73±5 550
DR-9 76±5 620
DR-9M 77±5 660
DR-10 80±5 690

これら調質の度合いはテンパー度とも表現されますが、T-1であれば、加工性を重視したやわらかい仕様となるため、深絞り加工用や口金等に使うことができます。T-2になると、深絞り用ではありますが、強靭な性質も持ちます。T-2.5はT-2とT-3の中間に位置する調質レベルで、絞り性と強靭性のバランスをとったタイプです。T-3は一般用として、強靭性を持たせるための調質となります。T-4となると、わりと大きな強靭性を持つグレードで、缶でも缶胴や天地などにも使われます。T-5は1回冷間圧延製品としては、もっとも強靭となり、座屈抵抗が必要な際に使用が検討されます。

回冷間圧延製品は、1回冷間圧延製品よりもさらに強く、薄くできます。DR-8の調質であれば、剛性や強度が求められる丸缶の胴板として利用可能です。またDr-9は、丸缶の天地用の板などさらに強度が求められる用途に適します。DR-10はブリキとしては最も強度が出る調質となり、特殊な用途に使われます。

ブリキのメッキ厚について

他のメッキ鋼板と同様に、メッキとなるスズの厚み・付着量によって耐食性が大きく変わるため、規格でもブリキの種類ごとにメッキ量(メッキの付着量)についても定められています。メッキの量が多いものは、基本的に高いレベルでの耐食性が必要な缶詰等に用いられ、求められる耐食性のレベルが低く塗装や印刷の必要があるものについては、薄めのメッキで対応することになります。

各ブリキの種類ごとのメッキ量は、下記のブリキ個別の記号ごとに列挙しています。

ブリキの用途

用途は冒頭で述べた通り、スチール缶が求められるような内容物に対して缶の素材の使い道が多いですが、半田性や溶接性も高い為、電機部品・電気機器の部材としても使われることがあります。缶の製品としても、適用される種類は多く、食品用から工業用途まで幅広く使われます。ただし、耐食性は内容物とスズメッキとの相性にも大きく左右されます。

ブリキの表示記号

ブリキの記号表記は、種類を示す記号、メッキとなっている錫の付着量、板厚、幅、長さ、原板の種類、調質の種類、表面仕上げを指定することで、はじめて特定することができます。特に、「原板」「調質」「メッキ量」は性能に大きく影響する要素である為、用途によって使い分ける必要が出てきます。

ブリキ材料を示す記号が長くなるのは、下記のような内容を示しているためです。

なお、厚さ、幅、長さは×や−でつなぎます。

ブリキの記号
ブリキの種類 メッキ量(スズの付着量) 厚さ(板厚)単位:ミリ 幅(圧延幅)単位:ミリ 長さ(単位:ミリ) 原板の種類 調質度 表面仕上げ
SPTE 5.6/2.8D 0.23 x 832W x 760 MR T-4CA B

「JIS G 3303 ぶりき及びぶりき原板」に規定のある材料記号

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