樹脂などのフィラーの種類と特性、役割

2013年7月1日更新

プラスチックや樹脂は、中にフィラーと呼ばれるミクロサイズやナノサイズの物質を混ぜ合わせることで、強度や耐熱性、各種耐性を高めたり、新しい機能を持たせたり、コストを下げたりといったことが可能になります。フィラーは充填材とも呼ばれます。

実際、ほとんどのプラスチックと樹脂には何らかのフィラーが添加されていることが多く、同じプラスチックでもフィラーが違えば、性質も変わってきます。したがって、樹脂系の材料を検討する際には、どのようなフィラーをどう添加するのかという点が重要となります。種類としては、セラミックス系や繊維系のもの、酸化物などが多く見受けられますが、基本的にはこのフィラーの持つ性質がそのまま反映されてきます。ただし同じフィラーでも、大きさや形状、添加の仕方でも発揮される性質が異なるため、検討のためには物質の種類とあわせてこれらも調べていくことが求められます。

実用上、フィラーの存在なしではプラスチックや樹脂は工業的にも使うことが困難といえるほど重要な役割を果たしています。もちろん、用途によってはフィラーを添加しないものもありますが、日常で目にする製品の多くで使われているプラスチック・樹脂には、何らかのフィラーが入っているもののほうが多いと言えます。

フィラーを選ぶ際には、付与したい物性が混ぜたあとに発現するかどうかという点が重要ですが、いったい何を改善したいのかを明確にして優先順位をつけておく必要があります。樹脂やプラスチック、ゴムなどへ添加することになると思いますが、こうしたマトリックスとの相性も重要です。入手性、コスト、取り扱い、安全性なども加味して選んでいく必要があります。

以下に用途別にどのようなフィラーが使われているのか見ていきます。

フィラーの役割と目的

コスト低減、増量目的

プラスチックには廉価なものから高価なものまでありますが、コスト低減のためにフィラーを使うという場合、もともとの物性を損なわずに、「かさ上げ」するために使われます。要は、増量材の一種です。安価なフィラーを充填することで、高価なプラスチックの「かさ」が上がり、より多く使うことができるようになるという寸法です。

機械的性質などの物性を変えたり、機能性を付与する

プラスチック・樹脂・ゴムなどの高分子材料の機械的強度や耐熱性の向上はフィラーによっても改善可能です。また導電性を与えたり、磁性、圧電性、熱伝導性、ガスバリア性、何らかの遮蔽特性、制振性を付与したりといったことが可能となります。

加工性をよくする

成形、切断、切削、研削、研磨など材料の加工のしやすさは、工業上、コストにも直結してくる要素で、場合によっては品質の安定性にもつながります。加工性の悪い材料を改善する目的でフィラーを添加することもあります。

フィラーの用途

フィラーをプラスチックに入れることで、もともとの材料になかった機能や性質、物性を付与できることは前述しましたが、具体的にはどのような機能性が得られるのでしょうか。これは、主にフィラーの種類・大きさ・形状によって決まりますが、一種類のフィラーでも複数の性質を得られるものもあります。

フィラーの主な用途
用途・機能の例 使われるフィラーの例
増量用 炭酸カルシウム、タルク、シリカ、クレー
補強用 ウォラストナイト、チタン酸カリウム、ゾノトライト、石膏繊維、アルミボレート、MOS、アラミド繊維、各種ファイバー系、カーボンファイバー(炭素繊維)、グラスファイバー(ガラス繊維)、タルク、マイカ、ガラスフレーク、ポリオキシベンゾイルウイスカー
抗菌剤 カテキン、銀イオン担持ゼオライト、銅フタロシアニン
ガスバリア材 合成マイカ系、クレー・合成マイカのナノフィラー
軽量化、浮力材 シリカバルーン、ガラスバルーン、シラスバルーン
導電性を付与 カーボンブラック、黒鉛、炭素繊維、金属粉、金属繊維、金属箔
磁性を付与 各種磁性材料、各種フェライト系、磁性酸化鉄、サマコバ(Sm-Co)、Nd-Fe-B
熱伝導性 Al2O3(アルミナ)、AlN、BN、BeO
圧電性 チタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)
制振性 マイカ、黒鉛、チタン酸カリウム、ゾノトライト、炭素繊維、フェライト
遮音性 鉄粉、鉛粉、硫酸バリウム
摺動性 黒鉛、六方晶BN、硫化モリブデン、テフロン粉、タルク
断熱性、軽量性 ガラスバルーン、シラスバルーンなどのバルーン系
電磁波吸収 フェライト、黒鉛、木炭粉、CMC、CNT、PZT
光反射、光散乱 酸化チタン、ガラスビーズ、炭酸カルシウム、アルミ粉、マイカ
熱線輻射 酸化マグネシウム、ハイドロタルサイト、MOS、アルミナ、木炭粉末
難燃剤、難燃化 酸化アンチモン、水酸化アルミ、水酸化マグネシウム、硼酸亜鉛、赤燐、炭酸亜鉛、ハイドロタルサイト、ドーソナイト
放射線防護 鉛粉、硫酸バリウム
紫外線防護 酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄
脱湿材、脱水材 酸化カルシウム、酸化マグネシウム
脱臭、ガス吸収 ゼオライト、活性白土
アンチブロッキング(フィルムの圧着防止) シリカ、炭酸カルシウム、タルク。球状微粒子。
吸油材(印刷インク吸収、速乾性等) 毬藻状炭酸カルシウム、毬藻状ゾノトライト
吸水材 吸水用の高分子ゲル、酸化カルシウム、酸化マグネシウム

フィラーの大きさ、粒子径

フィラーは、通常100μmから10nm程度まで大きさにかなりの幅のある材料です。粒子の大きさは、性能に直接影響を及ぼすため、得たい特性に応じて使い分けていくことが必要です。一般に、粒子が小さいほど、フィラーの持っている性能の発現が高くなり、例えば機械的強度の向上などが見られますが、ハンドリングは難しくなります。

フィラーは基本的には、粒子、粉体の形状で使いますので、他の粉体と同様に、ある大きさになるとこれらは固体とも液体とも異なる挙動を見せるようになります。粉体制御、粉体加工の技術が関係してきます。

フィラーの大きさの区分
大きさの区分 サイズ(粒子の直径) 役割・機能
マクロフィラー 100μmから10μm前後 汎用フィラー。増量や加工助剤として使われる。この寸法以下で粒子間の相互作用がなくなり、表面が安定する。
ミクロフィラー 10μmから100nm前後 高機能性を付与。粉体としての制御もしやすい範囲であり、充填加工、分散などでも使いやすい。
ナノフィラー 100nmから10nm前後 比表面積が非常に大きくなるため、機能の発現が高くなる反面、分散をはじめ、扱いが難しい。

フィラーの形状

大きさと共に並んで重要な要素となるのがフィラーの形状です。ミクロンやナノ単位の大きさのものを一様に、満遍なく混ぜるのですが、例えばガスバリア性を狙った添加の場合、樹脂の内部に入れるフィラーが丸い形状よりも、板状のものが連続して並んでいるほうが、ガスが透過するのに遮蔽効果が高くなります。また、導電性などを付与する目的も、電気を通る道をつくる必要があるため、繊維状の細長いものほうが効果が高いといった具合になります。

形状はこうした機能に影響するほか、加工性、成形安定性にも影響します。一般には、加工性がよく成形安定性がよいものだと、補強効果が弱くなるという関係にあります。剛性や耐熱性、強い機械的強度などが必要な場合に添加すべきフィラーは、添加した材料の加工性を低下させてしまうことが多いと言えます。したがって、プラスチックの加工でも、フィラーの種類によっては難易度が変わってきます。

フィラー形状別の特徴

球状、真球状、無定形の粒状

フィラーは、樹脂に混ぜられるため、均等に満遍なく分散している必要がありますが、そうした意味でこの形状は有利です。また方向によらず、丸いものであれば異方性がでにくく、応力集中の偏在も起き難いと考えられます。したがって、耐衝撃性が問題となる用途で、パラメータの低下が出にくいといえます。熱膨張した際も、他の形状に比べて歪みが出にくくなります。

プラスチックを成形したあとの変形や反りなどの問題がおきにくいとされ、粒にとがった部分がないため、金型や成形機もいためにくいと言われます。

針状、繊維状

針や繊維のような形状をしたフィラーは、機械的強度などの特性向上に効果の高い形状です。プラスチックや樹脂のほか、ゴムに使われる際も、補強効果や耐熱性の向上に力を発揮します。また導電性を付与する場合は、電気の通る道を作り出すのに有効です。こうした目的ではいわゆる縦横比であるアスペクト比の大きいものの方が高い効果を発揮しますが、成形安定性や加工性を損なう危険性もあります。

繊維状のものは、特に制振効果にも優れます。

板状

機械的強度を高めたり、機械的性質の改善に有効な形状で、縦横比であるアスペクト比の大きなものほどこの効果が高くなる反面、成形安定性の確保に留意する必要があります。針状や繊維状と同様に、導電効率を高めたり、制振効果、またガスなどの遮蔽効果の向上、表面平滑性の付与、表面硬度向上などにも有効です。

フィラーの使い方

フィラーは、ポリマーであるプラスチックや樹脂に混合し、練りこまれて使われますが、これを混練といったり、コンパウンディングといったりします。

実用上は、このプラスチックや樹脂などのマトリックスへの混合前に、粒子の表面にコーティングをはじめとする処理がなされることもあります。粒子の大きさもある程度そろえる必要があり、粒の小さいものが多いことから表面積も大きく湿気を吸い込んでいることがほとんどのため、乾燥させてやる必要もあります。

この前処理で行うことは、粒子同士が分散しやすくなるよう、また凝集を防ぎ、加工性を改善、添加する材料へのぬれ性を高めるというような意味合いがあります。

これらが終わった後に、以下のような方法でフィラーを樹脂・プラスチック・ゴム等へ混ぜ込んでいきます。

ロールを使う方法

ゴムで多用される方法の一つです。二つの回転させているロールの間にゴムをシート状にして押しつぶしながら、フィラーを投入して練りこんでいく方法です。

ニーダーを使う方法

ゴムで使われるほか、樹脂でもPPやPVCでも使われるとされます。加圧ニーダーを使って、フィラーと母材となる材料を混練し、飴状に溶けたものを取り出し、これを押し出し機でペレット状態にするという方法です。この出来上がったペレットの中でフィラーと樹脂が混ざり合っているという寸法です。

押し出し機を使う方法

専用の連続混練機を使うというもので、ホッパーから樹脂材料とフィラーをまぜて投入し、機械の中で混ぜ合わされ先端から出てきた細長い飴状のものをカットしてペレット状態にするという方法です。投入口となるホッパーは、フィラー側と、樹脂側とで別々になっている場合もあります。大量生産が前提となる場合でよく使われます。

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