A5052とは|JIS規格材の特徴と物性

2024年1月4日更新

A5052とはJIS規格で規定されているアルミ合金のひとつで、マグネシウムを添加した5000系のアルミ合金の中ではちょうど中間程度の強度を示す材料です。強度のわりに疲労強度、疲れ強さが高く、成形時の加工性や溶接性にも優れることで知られる材料です。入手のしやすさや用途の広さから使われる機会は比較的多い部類の材料です。以下にその特徴を見ていきます。

A5052の特徴|耐食性に優れるアルミ合金

5000系は主成分に合金元素としてMgが添加されているAl-Mg系の合金になります。Mgは耐孔食性向上に寄与し、酸化皮膜の形成を促進させる作用があるので、耐食性にも非常に優れたアルミとなります。塩素イオンが多い環境に強いため、海水にも強いといわれる所以です。船舶用途にも好まれます。ただし、弱酸性の環境には弱いため注意を要します。またアルミ全般の共通特徴でもありますが耐熱温度は低めの材料です。

下表に、性能が良いものから順にAからDの4段階で評価したもの(切削性はAからEの5段階評価で切りくず処理や切削速度の制約条件に基づく評価)をまとめます。加熱により調質することで特性も大きく変化する項目があります(例えば強度が上がることで成形性が悪くなる等)。

A5052の特徴
調質内容 耐食性 耐応力腐食割れ性 成形性 切削性 ろう付性 ガス溶接性 アルゴン溶接性 抵抗溶接性 鍛造性
H34
H38

成形性、溶接性もよい

耐食性、成形性のほか、溶接性もよい材料です。溶接はガス、アルゴン、抵抗いずれも向いています。切削性はアルミの中では難しい部類になりますが、総じて加工や工作に向いた材料です。

入手しやすく用途は多岐にわたる

種類も豊富なことからうかがえる通り5000系のアルミ合金は、アルミの中では最もよく使われる合金とも言われています。このため、流通性が高く手に入りやすいことからアルミ合金の中ではコスト面でも使いやすい部類です。材料選択においては、性能面、物性面だけなく市場性も重要な要素となりますが、入手のしやすさとコストの手ごろ感はメリットの一つです。

工作材料のほか、自動車のホイール、船舶、車両材料、建材、飲料缶、板金など多様な用途があります。耐海水性にも優れることから船舶の内外装にも使われます。溶接性がよいことから用途は広い材料です。

低温強度に優れる

低温における静的強度や疲れ強さが特に優れている素材です。温度が低い環境ほど引張強度が上がる性質を持ちます。極低温になると低温脆性で苦しめられる他の金属とは一線を画します。ただし、反対に耐熱温度には難があり、温度が上がると引張強さが低下していきます。

非熱処理合金で加工硬化による強度アップ

非熱処理合金に分類されるため、加工硬化によって硬くなる特徴を生かして調質されます。ただし冷間加工した状態で長期間室温で放置すると経年変化(引張強度の低下、伸びのアップ、硬度の低下)を起こすことが知られています。このため、安定化熱処理をして使われることが一般的です。

成分

5000番台の番号が付いているアルミ合金は、マグネシウムを主要添加物質としたAl-Mg系の合金です。

中でも5052はMgを2.5%ほど含有する合金となります。特殊な合金元素等は含有していません。

A5052(アルミニウム)の成分
合金番号 Si Fe Cu Mn Mg Cr Zn Ga, V, Ni, B, Zr等 Ti その他 Al
個々 合計
A5052 0.25以下 0.40以下 0.10以下 0.10以下 2.2から2.8 0.15から0.35 0.10以下 - - 0.05以下 0.15以下 残部

機械的性質|耐力、引張強さ、伸び、ヤング率、硬度

A5052の引張強度、耐力、伸び率、硬度、せん断強さ、疲れ強さ、ヤング率(縦弾性係数)は下表の通りです。調質の内容により大きく変動します。

A5052の引張強度、耐力、伸び率、硬度、せん断強さ、疲れ強さ、ヤング率(縦弾性係数)
機械的性質 A5052(調質別)
O H32 H34 H36 H38
引張強さ(N/mm2 195 230 265 280 295
耐力(N/mm2 90 195 220 245 260
伸び(%)1.6mm板厚 25 12 10 8 7
伸び(%)φ12.7mm棒材 30 18 14 10 8
ブリネル硬さ(10/500) 47 60 68 73 77
せん断強さ(N/mm2 125 140 150 160 170
疲れ強さ(N/mm2
(回転曲げ、5x108回、10,000rpm)
110 120 125 135 140
ヤング率
縦弾性係数 x 1000(N/mm2
72 72 72 72 72

耐熱温度、低温特性

下表の通り、A5052は温度が上がると目に見えて引張強さ、耐力で示されている強度が低下していきます。またやわらかくなってしまうので、伸びも大きくなっていきます。ただ−196℃での使用となると、他の金属材料では低温脆性により材料がもろくなって破壊されてしまうリスクがありますが、アルミ合金にはその点の心配がありません。低温になるほど強度が上がります。

室温から100℃の間であれば強度にほぼ変化はありませんが、150℃から低下の傾向がみられ、260℃で大きく低下していることが見て取れます。このことから、常温や低温での利用が想定されます。

A5052の耐熱温度、低温特性|温度による引張強さ、耐力、伸びの変化
温度(℃) A5052(以下、調質別)
0 H32 H38
引張強さ(N/mm2 耐力(N/mm2 伸び(%) 引張強さ(N/mm2 耐力(N/mm2 伸び(%) 引張強さ(N/mm2 耐力(N/mm2 伸び(%)
-196℃ 309 113 45 387 253 28 415 309 24
-80℃ 211 91 36 281 225 21 316 274 20
-28℃ 197 91 32 267 218 18 302 260 16
24℃ 197 91 30 267 218 16 295 260 14
100℃ 197 91 37 267 218 18 288 260 17
150℃ 169 91 50 218 190 30 239 204 25
260℃ 84 56 85 84 56 75 84 56 75
370℃ 35 21 130 35 21 130 35 21 130

形状記号

JIS規格ではA5052の形状は、下表の通り棒材、鍛造、板、条、円板、形材、管、線材と8種類の規定があります。なお、記号の末尾にSがついているものは「特殊級」を意味しています。これは管、棒、線、形材、導体等につく場合があり、普通級に比べて寸法許容差に違いがあります。

A5052の形状記号の一覧
形状記号 意味 英語
A5052BD 引抜棒 Bar(Drawn)
A5052BE 押出棒 Bar(Extruded)
A5052FH 自由鍛造品 Forging(Hand)
A5052P 板、条、円板 Plate
A5052S 形材 Shape
A5052TD 引抜管 Tube(Drawn)
A5052TE 押出菅 Tube(Extruded)
A5052W 引抜線 Wire
     

相当材

JIS規格以外でのA5052の相当品については、下表の通りになります。ISOとENは化学成分だけでなく機械的性質の規定があります。なお、ENはBS EN、DIN EN、NF ENとなります。

A5052の相当材の一覧
規格の種類 材料記号
AA 5052
ASTM 5052
EN EN AW-5052
ISO AlMg2.5

板厚

JIS規格では幅−長さは以下の4パターンが規定されています。

  • 400mm - 1200mm
  • 1000mm - 2000mm
  • 1250mm - 2500mm
  • 1525mm - 3050mm

板厚については、標準寸法として0.3mmから6.0mmが規定されています。

A5052の板厚、寸法許容差
板厚(mm)
0.3
0.4
0.5
0.6
0.7
0.8
1.0
1.2
1.5
1.6
2.0
2.5
3.0
4.0
5.0
6.0

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