薄膜の内部応力とは

2012年4月17日更新

薄膜には、物質や成膜の方法によって「圧縮」(compressive)か「引張り」(tensile)のいずれかの応力が発生します。たいていは物質によって決まっていますが、中には成膜の方法によって圧縮と引張りが入れ替わってしまう材料や、膜厚(薄膜の厚み)によっても異なる材料、大気等の環境下に曝露することで経時変化するものもあります。

薄膜の内部応力は、一般に、次の3つの要素の和で考える必要があります。

1.真応力
成膜時にその物質が持っている特性によって発生する応力。冒頭で述べた応力はこれに相当します。注意すべきは、材料の種類によって普遍的に引っ張りと圧縮の方向性が決まっているものと、そうではないものがある点です。条件によって応力の方向が変わってしまうものとしては、LaF3、Nb2O5、Ta2O5などがあります。
2.熱応力
薄膜をつける基板(基材)と、実際の薄膜との熱膨張係数の差によって発生する応力。熱膨張係数の違いが大きいほど、大きな応力となります。
3.経時変化による応力
薄膜はその表面を拡大すると、柱状構造をとっているものが大半です。すなわち、柱がびっしりと密集したような構造をしています。このそれぞれの柱と柱の間には微妙な隙間があり、ここに水分が入ることで、膜の特性が変化します。光学業界では、「光学特性がシフトする」という言い方もされますが、これは透過率の曲線がそのままスライド(シフト)してしまうことを指します。すべての薄膜はこの宿命からは逃れられないとも言われていましたが、物質や成膜の手法によっては柱状構造ではなく、アモルファス構造の膜を構成するものもあり、こちらは経時変化による影響が少ないとされます。

話を戻すと、この薄膜が水分などを吸収することで膨らみ、発生する応力がこの3番目のものになります。

内部応力とは、これら3つの合計によって決まります。

薄膜は通常1層で使われることは稀で、一般的な3層構造のARコーティングから150層を超えるような多層膜まで、複数の膜を積層することで、求める特性に近づけることが出来ます。

蒸着やスパッタでは薄膜は一層では数十から数百nm程度のものですが、密着力を上回る応力差がかかることで剥離の可能性が出てきます。元来、薄い膜でもあり、特に大きな内部応力を持つ材料は設計時に考慮する必要があることはもちろん、薄膜と基板がもつ「熱膨張係数」も非常に大きく影響するため、留意しておく必要があります。

このため、多層膜を構成するそれぞれの薄膜、また薄膜と基板との応力差をなくすため、「引っ張り」と「圧縮」はそれぞれ打ち消しあうのが理想です。つまり、引張り応力を持つ薄膜と圧縮応力を持つ薄膜を交互に積層させる、あるいは基板とは逆の応力を持つ材料で薄膜を設計する、などの発想です。現実には、完全に打ち消し合わせることは困難なため、剥離などの問題が発生しづらい現実的な差に留めておくことが多いようです。

実務的には熱応力のほうが深刻な影響を及ぼすため、上記で言えば、真応力、熱応力が特に気をつけておくべき応力といえます。膜の種類や使われる環境によっては、水分の吸着の問題もあるので、個々に検討していくことが求められます。

薄膜の特性【参考】

主として光学膜や機能膜として用いられる薄膜の代表的な特性、物性について紹介します。

酸化物の薄膜

フッ化物の薄膜

窒化膜

炭化膜

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