蒸着を行う意味はどこに

2012年4月7日更新

蒸着とは材料を気化させて物体の表面に薄い膜を製造する技術の一つですが、こうした薄膜を付与することでものには様々な付加価値をつけることができます。

代表的なものとしては以下のようなものがあげられます。

レンズやプリズムなどの光学部品

蒸着による薄膜をつける意味は、「光のコントロール」にあります。光を「透過」「反射」「吸収」させるためにつけます。目に見える光を可視光といいますが、この光だけをよく通るようにしたり、光の色別に分離したり、紫外線だけを取り除いたり、選択したりといったことが可能になります。また赤外線に代表される熱線の吸収や紫外線吸収などを目的にしたものもあります。これにより、プロジェクターやカメラ、めがね、望遠鏡、顕微鏡などの光学製品の多くが実用に耐えるようになったとも言えます。

あまり知られていませんが、どんなに透明に見えるレンズであっても、何の処理もされていない状態だと、目に見えるいわゆる可視光線を100通したとしても、100は透過しません。数パーセントは、表面で「反射」ならびに「散乱」し、また基材の中での「吸収」もあるため、これらから引いた値が実際に透過する「透過率」になります。透過率の高さというのは、レンズの場合はそのまま見えやすさ、になります。もともとは大戦時に、潜水艦の潜望鏡に用いられている複数の光学レンズに、こうした薄膜(反射防止膜)をつけることでより遠くまで視界を確保するために開発が進んだといわれています。複数のレンズを組み合わせた場合、一つ一つで失われる光が最終的にはかなりの値になってしまい、何らかの方法でこの光の減衰を止めない限り、遠くを見ることが出来ないという事態でした。現在では、こうした反射防止膜のほかにも、様々な種類の「膜」が設計・開発されて実用に至っています。

工具などの表面につける

激しい摩擦や損耗にさらされる工具の多くは、金属材料で作られており、その素材そのものも工具用に改良されて耐摩耗性や耐衝撃性などに優れた金属ですが、これらをさらに強化するために工具表面に薄い膜を蒸着によりつけることがあります。例えば、ダイヤモンドはその硬さで他に並ぶもののない材料ですが、これを薄膜にしたDLC(ダイヤモンドライクカーボン)と呼ばれるものを工具の作用面にコーティングして工具寿命を飛躍的に延ばすといった使い方がされています。工具はレンズや基板と違って、面ではなく、周囲をすべてコーティングする必要があるため、用いる成膜装置の機構が上記とは若干異なります。

デザインなどのために物体の表面に色をつける

ものに色をつけるには塗装工程が一般的ですが、中には蒸着でしか出せない微妙な光の反射を活用した色彩を実現するため、携帯電話などにも使われたりします。装飾膜と呼ばれ、中には装飾と光学特性を付与するものを兼ねている膜もあります。蒸着による膜は薄さがナノオーダーのものになるので、通常の塗装でいうミリ単位、あるいはミクロン単位では厚すぎるという場合でも有効です。

フィルムなどに特性をつけるために

フィルムなどにガスバリアの特性などを付与するため、蒸着によって薄膜をつけることもあります。フィルムはロールで巻かれており、使われる蒸着は光学系のものとはまた異なる機構を持っていますが、原理は同じです。大面積に短時間で成膜していく必要があるため、蒸着の速度をあらわす「蒸着レート」はかなり早く設定されています。こうした用途としては、SiO(一酸化ケイ素)がよく知られています。

特殊な機能をつけるために

タッチパネルに代表されるような、画面に指で触れると操作が可能となる類の製品は、その表面に多くの場合、薄膜が使われてます。抵抗膜圧式のものであれば、透明でかつ電気を通すという稀有な特性をもつITO(酸化インジウムスズ)と呼ばれる材料は、この用途で広く使われています。

薄膜の特性【参考】

主として光学膜や機能膜として用いられる薄膜の代表的な特性、物性について紹介します。

酸化物の薄膜

フッ化物の薄膜

窒化膜

炭化膜

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