銅の錆の種類と成分|銅に出る錆の色と化学式は

2017年12月18日更新

銅の錆にもいくつか種類があることが知られ、その成分と化学式にも複数の種類があります。

銅の錆は、鉄の錆とは異なり、ステンレスほどではないにしても、ある程度まで保護皮膜の役割を果たします。つまり、銅の表面についた錆がそれ以上銅の本体を腐食させないよう作用します。腐食は完全には止められないものの、進行をかなり低いレベルまで抑えることができます。元来、銅自体が腐食に強く、耐食性に優れた材料と言われる所以です。

銅の錆の色としては、はじめは酸化銅(Cu2O)が生成され、これは赤褐色に見えることが多いです。錆がおきる環境のpHが高かったり、酸化性の強い状況の場合、黒色に見える酸化第二銅が生成されることがあります。

銅の錆と言うのは、一層目にこうして酸化銅が生成された後、銅錆の代名詞ともいえる緑青(ろくしょう)が生成され(環境によっては紫色をしたアズライトとなることもあります)これらが層に分かれて存在している状態になっています。こうした緑青や酸化銅はいずれも銅の本体の保護皮膜としても機能します。

実用上、構造材料や部品、機械などの部品には銅単体である「純銅」の形ではあまり使われず、強度アップや耐食性アップ、加工性などを向上させた銅合金の形で使われるため、銅の錆というのも、実際にはほとんどがこの銅合金の表面に出てきた錆ということになります。以下、特に断りがない場合、銅といった場合、銅合金も示すものとします。ちなみに、銅合金の種類には、黄銅、青銅、白銅、洋白、高銅合金(ベリリウム銅など)をはじめ、多彩なものがあります。

主な銅合金と主要成分
銅合金 主な成分
黄銅(真鍮) 銅、亜鉛
青銅 銅、錫(すず)
白銅 銅、ニッケル
洋白(洋銀) 銅、ニッケル、亜鉛
高銅合金 ベリリウム銅:Cu-Be-Co(コバルト)系、チタン銅:Cu-Ti系、
コルソン合金:Cu-Ni-Si、クロム銅:銅、クロム

銅の錆が発生するメカニズム

水気や水分のある場所では、まず銅は水分内の溶存酸素によって酸化第一銅が表面に生成されます。これが赤褐色の銅錆です。次に、酸化第一銅が、酸素や亜硫酸ガス、水とさらに反応することで塩基性硫酸銅(緑青)ができます。亜硫酸ガスがない場合、二酸化炭素や遊離炭酸と反応して、同じく緑青に分類される塩基性炭酸銅が作られます。ほかにも、海水や潮風などの近辺では塩基塩化銅が生成されることがわかっています。

こうしてみるとわかるとおり、同じ緑青であっても、成分は微妙に異なります。

  • 酸化第一銅⇒緑青(塩基性硫酸銅、塩基性炭酸銅、塩基性塩化銅、塩基性硝酸銅、塩基性酢酸銅)
  • 酸化第一銅⇒酸化第二銅⇒緑青(塩基性硫酸銅、塩基性炭酸銅、塩基性塩化銅、塩基性硝酸銅、塩基性酢酸銅)
  • 酸化第一銅⇒硫化第一銅
  • 酸化第一銅⇒塩化第二銅

銅は鉄鋼系素材に比べて価格が高いことや強度面から使われる量は鉄ほどないものの、熱交換器の伝熱管、フレアナット、バルブ弁や一部の給水・給管としても使われていますので、その錆発生のメカニズムについても多くのケーススタディが存在します。

先にも述べたとおり、銅の表面には酸化銅が作られ、その上に緑青が作られて、これらはいずれも銅を守る作用をすると記載しました。ではどういう場合に問題となるような腐食が発生するかと言えば、保護皮膜として作用するこれらの錆が溶かされてしまう場合に、問題が発生します。また、美観上の問題から、緑青を除去する必要があるケースでは、銅本体が破壊されるというようなことにはなりませんが、やはり除去の方法が検討されることになります。

結論としては、銅の錆自体は、銅本体によい影響のみを与えるものの、銅が腐食するケースである孔食、時季割れ、脱亜鉛腐食、エロージョン・コロージョンといった腐食が発生すると、銅自体がクラックしたり、孔が開いたりといった破壊現象につながる、ということになります。

緑青の種類

緑青のなかでよく見られるのが難溶性のブロカンタイトですが、これが酸性雨などの影響を受けるとアントレライトに変化すると、見た目が同じ緑青であっても保護皮膜としての機能を十分に果たせず、膜が溶けてしまいます。

マラカイトは、孔雀石とも呼ばれますが、炭酸塩濃度の高い地下水、硬度の高い水に触れる場所で発生する緑青です。二酸化硫黄などの硫酸イオンを含まない水中や大気中ではこちらが発生します。最近では二酸化硫黄や亜硫酸ガスはどこでも存在するため、このマラカイトの緑青が見られるのでは、遺跡から発掘された銅鏡や青銅器などが中心となります。

マラカイトよりもさらに炭酸塩濃度が濃い場所では、アズライトが生成されます。

塩基性硝酸銅も、SO2による大気汚染の少ない箇所に限定されて発生する緑青です。

海洋環境などの海塩粒子の存在するところでは、アタカマイトが緑青の一部に発生することがあります。

なお、緑青は生成に時間がかかるため、人工緑青が作られることもありますが、こちらは塩基性硫酸銅より色が濃くて鮮やかとされる塩基性炭酸銅が使われます。

銅の錆の種類と色|銅錆の成分と化学式についてのまとめ

銅の錆の種類を一覧にまとめると下表のようになります。実際にはこれらが複合的に発生しているケースも多く見られるため、単一の成分ということは稀です。なお、緑青はさまざまな塩基性塩の総称であり、その成分・組成・化学式も表にある通り微妙に異なり、環境によっては色も異なります。

また銅合金の形で使われることが多い以上、銅以外の合金元素が錆びている場合もあるため、その場合は、複数の金属での腐食が複合的に起きている、ということになります。特に、よく使われる銅合金である黄銅は、亜鉛と銅の合金ですが、亜鉛側が腐食していく脱亜鉛腐食によって、合金自体がスカスカのスポンジ状になってしまい、水漏れや破壊を引き起こすことがあります。

銅の錆の成分と化学式
銅錆の成分名 別称 化学式 錆名(通称)
酸化第一銅 キュプライト(赤銅鉱)、酸化銅(I)、亜酸化銅 Cu2O 赤褐色、赤色 赤錆、茶錆
酸化第二銅 テノライト(黒銅鉱)、酸化銅(II) CuO 黒色 黒錆
硫化第一銅 カルコサイト(輝銅鉱)、硫化銅(I) Cu2S 灰色、鉄色 -
塩化第二銅 塩化銅(II) CuCl2 黄色、黄褐色、緑色 -
塩基性硫酸銅 ブロカンタイト(ブロシャン銅鉱) CuSO4・3Cu(OH)2 緑青色 緑青
塩基性硫酸銅 アントレライト CuSO4・2Cu(OH)2 緑青色 緑青
塩基性炭酸銅 マラカイト(孔雀石) CuSO3・Cu(OH)2 緑青色 緑青
塩基性炭酸銅 アズライト(藍銅鉱) 2CuSO3・Cu(OH)2 緑青色、紫色 緑青
塩基性塩化銅 アタカマイト(アタカマ石) CuCl2・3Cu(OH)2 緑青色 緑青
塩基性硝酸銅 - Cu(NO3)2・3Cu(OH)2 緑青色 緑青
塩基性酢酸銅 ヴェルディグリス Cu(CH3COO)2・Cu(OH)2 緑青色 緑青

銅の錆には毒があるか|緑青は猛毒なのか

緑青は無毒、無害

銅の錆の一種である緑青(ろくしょう)には毒性はありません。古い辞書などで有毒であるというようなことが書かれていることもありますが、現在はこれが誤りであることは検証されています。

古い大仏などの銅には、銅合金の成分に鋳造温度を下げたり、硬度をあげるため、「砒素」や「鉛」が添加されている場合があり(おおよそ3%とも言われます)、この砒素や鉛が溶け出しているものを摂取すれば、毒となるため、誤認されていた可能性があります。現在では、食器などに使われる銅の不純物成分については、10ppm以下になっているため、鉛が溶け出して害悪となると言うようなことは考えにくいです。

また、これには緑青の鮮やかで見た目の禍々しさが、毒との風説を手助けしたのかもしれません。ただどんなものにも限度があり、銅に限った話ではありませんが、金属を体内に必要以上に摂取すると健康に害悪を及ぼします。もっとも、サプリメントに銅が含まれているとおり、銅は人にとって必須の微量元素でもあるため、まったく摂らないというのもよくありません。

青水は銅の腐食が原因か

日本では水道管に銅管を使うことは少ないですが、給水や給湯の配管に銅管を使っている場合で、洗面器や風呂にためた水が青く見える「青水」の現象が稀に観察されることがあります。これは溶け出した銅イオンが青く見える現象で、水が青くなるほどに銅イオンが含まれるケースと言うのは、約20mg/L以上とされます。銅イオンが溶け出す、というのは銅の腐食の一種です。

日本の水質基準は水に含まれていてよい銅の量は1.0mg/L以下となっているため、水質基準の20倍以上の銅が含まれていると青く見える可能性があるということになります。ただし、中性の水道水の場合、約5mg/L以上の銅で青水が観察されます。水の見え方は光の加減でも変わるため、判別が難しいですが、pHの低い水や遊離炭酸が多く含まれる水質の場合、銅の表面に安定した酸化膜が生成されにくいため、銅イオンが水中に溶出してしまうことがあります。こうしたケースではpHをあげるか、遊離炭酸を除去してやる必要があります。

銅の錆の進行速度

淡水のなかに銅をつけていた場合、pHの影響を大きく受ける素材であるものの、銅の腐食の進行は鉄の10分の1から5分の1とされ、0.005mm〜0.01mm/yとなります。pHが低くないと言う条件つきですが、水道水に対しても全面腐食は1年間に0.005mm程度しか進行しないということになります。

ただし、これが海水になると腐食の進行が早まり、流れがない静止海水でも0.3mm/y、流れがある海水であれば、5mm/yに達するとされます。

銅の錆落としに酢が効くのはなぜか

銅の錆である酸化銅(赤褐色や黒色)や緑青は、酸に溶けます。このため、お酢やレモン汁などを染み込ませた布等で擦ると、銅の錆が溶けてきれいに落ちます。

ただし、先にも述べてきたとおり、銅の錆は基本、保護皮膜として銅本体を守るため、見た目の問題はありますが、除去せずとも銅の材料自体には悪影響はありません。

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