タイ自動車産業ならびに日系ベアリングメーカーの概要

2010年6月1日更新

日系メーカーによる自動車産業の一大拠点

タイはASEAN域内で自動車・部品メーカーの誘致に最も成功した国といわれているが、そのほとんどが日系という特徴的な地域となっている。こうした背景には、タイ政府の自動車産業の拡大を動力源とした高度経済成長のシナリオであるデトロイト計画があり、工場の増設や新設には政府による外資優遇策による後押しがあったとされる。

タイに進出している日系メーカーの1割が自動車関連メーカーであり、その数は凡そ300社前後といわれている。ベアリングをはじめ、自動車部品メーカーのタイへの進出は既に一巡しており、世界でも類を見ないほど、原材料、部品、加工、設備、工具の各分野で高密度な多層集積化、サプライチェーンが進んでいるとされる。自動車の生産に必要なほぼすべての部材、原材料が現地調達可能というアジアでも特異な国とされる。タイ自動車部品工業会(日系以外の外資や現地系も含む)の加入企業だけでも528社あり、うち16社がベアリングの製造販売に直接・間接的に関わる業種。

タイでは97年の通貨危機を契機に、多くの現地企業が外資の出資比率制限を撤廃して以来、日本側が出資比率を上げて経営主導権をとり、品質向上や現地の技術力向上に寄与したとされる。また中国に匹敵する「ものづくり」慣れした国であり、インドをはじめ東南アジア諸国からは製造に関しては一歩先んじているとも言われる。

前述の通り日系メーカーの進出そのものは一巡しているが、投資額ベースで見るとここ数年、日本からは2000百万ドル前後の安定した高い水準で投資がなされている。メーカーによってはASEAN諸国間のFTAを活用して周辺国への供給基地としてタイを捉えており、ここ数年はこうした状況が継続すると見る向きが強い。また株式市場でも、資金の流入先が東南アジアに向きつつあり、2010年の世界の主要株価指数の上昇率をみると、世界一位がインドネシア(ジャカルタ総合指数)の46.1%、二位がタイ(SET指数)の40.6%となっている。米国のダウ平均11.0%、日本の日経平均▲3.0%(下落)に比べ、高い上昇率を維持している。

ただ近年、バーツ高と他のASEAN諸国に比べて労働コストが割高になるという問題が顕在化している。生産性向上、コスト削減による収益体質の確立が急務となっているが、技術的には周辺国はまだ追いつけていない。タイをライバル視するインドネシアでは二輪車と小型MPV(Multi purpose vehicle)、フィリピンではAUV(Asian Utility Vehicle)、マレーシアでは乗用車の生産規模拡大をそれぞれ目指しているが、域内でここまで産業集積化が進んでいる国はないのが実情である。

タイの自動車産業:世界最大のピックアップトラック生産拠点

タイの自動車市場の特徴としては、生産量ベースで見ると日系自動車メーカー9社で、市場の約95%を占めるという寡占状態になっている。販売ベースでは他国の自動車メーカーも統計に名が出てくるが、本格的な生産拠点を持つのは日系メーカーが中心であり、こうしたメーカーに呼応して部品や関連産業の企業が日本から進出してきているというのが実情である。販売ベースではインドのタタやマレーシアのプロトンが一定のポジションを維持しており、近年は現代自動車や起亜自動車といった韓国勢も勢力を拡大している。また、車種別では世界最大規模の小型ピックアップトラック量産拠点として知られてきた。

タイで完成車の組立てをする日系メーカーは、トヨタ、日産、ホンダ、三菱、マツダ、いすゞ、日野、日産ディーゼル、三菱ふそう・トラックバスの9社。生産台数ベース(2009年1〜10月)では、乗用車はトヨタ18万台、ホンダ16万台、GMタイランド2万台、日産1.8万台となっており、商用車ではトヨタ39万台、三菱16万台、いすゞ15万台、マツダ12万台、GMタイランド7.8万台、日産5.5万台と続く。

自動車の生産量そのものは、米国発の金融危機の影響を受けたものの、世界でも最も早い段階で立ち直った地域と言われ、タイの自動車生産量は2010年度で過去最高を大幅に更新する165万台となっている。2016年には250万台に達するとの推計も出ている。こうした背景には、新興国向けの戦略車種だけでなく、日系メーカーの中でも日産マーチのように、量産車をタイで生産し国内へ逆輸入するという動きが加速しつつあることも関連している。徹底した現地調達が可能(9割を超すメーカーも珍しくない)、熟練者の現地雇用、為替差損の低減、豪州・ASEANのFTAを活用した関税コストの低減、タイ政府による優遇税制(タイ政府の認定するエコカー生産企業は8年間法人税を免除、生産設備・部材の関税免除、物品税優遇:消費者が購入の際に25%かかる税を17%にする等)をはじめ、自動車メーカーの当該地域での活動を加速させる要因は多い。三菱自動車も2012年からタイで製造した量産車の逆輸入を行う。

消費面でのタイを見ると、全自動車の7割が商用車で、乗用車では小型セダン中心でMT比率が高い。国際的な視野で俯瞰すると、中品質部品の生産開発に強いエリアとされる。タイの自動車産業を牽引し、今もそのベースにあるピックアップトラックだが、タイ政府は次の自動車産業の核としては「エコカー」を前面に出しており、日系メーカーもこの動きに対応している。日本で言うエコカーとは定義が異なり、排気量1300cc以下、ガソリン1リットルあたり20km以上走行可能な車種を指す。また電気自動車については三菱自動車と共同研究を行うことで合意している。

タイ国のベアリング輸出入概況

タイから輸出されるベアリングは、ここ数年は220百万ドル〜311百万ドルで推移している(198〜279億円)。60%がボールベアリングであり、最大の輸出相手国はシンガポール(23%)、続いて中国(13%)、日本(11%)、インドネシア(7%)、香港等となっている。シンガポールが消費地というよりは、ここを経由して各国へ輸出されていると推測される。

一方、タイが輸入するベアリングは、418百万ドル〜541百万ドル(369億円〜486億円)で推移。半製品も含むが、輸入量のほうが多い。輸入の最大の相手国は、日本(49%)、続いて中国(12%)、米国(6%)、マレーシア(5%)、ドイツ、シンガポール等となっている。輸出入ともに2009年度は落ち込んだが、2010年度には回復している。

タイに生産拠点を持つ主要ベアリングメーカー

NTN MANUFACTURING THAILAND

NTNのタイの量産拠点で、同社が100%出資する。従業員数は1535名で、日系ベアリングメーカーではミネベアに続いて多い(但し盤谷日本人商工会議所によると同社に派遣されている日本人は15名である)。資本金6億Bで、主要納入先は現地に展開するトヨタ(ヤリス、IMV)、三菱(トライトン:ピックアップ)、マツダ(ピックアップトラック用)、いすゞ(D-MAX:ピックアップ)、タイGM(オプトラ)、日産、ホンダ、PERODUA(マレーシア、小型車myvi向けとして等速ジョイント)、PROTON(マレーシア、Savvy向けとしてアクスルベアリング)、デンソーインドネシア(ニードルベアリング)など。等速ジョイント、オートテンショナー、ベアリングを納入。

【参考】IMVとは

トヨタ・モーター・タイランド(TMT)では2009年度43.5万台の車を生産。各工場の生産能力は次の通り。サムロン工場ではハイラックスを年間23万台生産可能、ゲートウェイ工場ではカムリ、プリウス、ヴィオス、カローラ等を年間20万台、バンポー工場ではハイラックス、フォーチュナーを年間12万台をそれぞれ生産する能力がある。IMV(Innovative International Multi-purpose Vehicle)とはトヨタ自動車の世界戦略車プロジェクト。主に新興国をターゲットにしたもの。アジア・中近東等の新興国を中心に需要が拡大していることに対応。特にタイとアルゼンチンでのIMV生産能力のさらなる増強を発表している。タイのバンポー工場では年間12万を、2011年1月より14万台、2011年8月より22万台まで引き上げる計画。

NSK BEARINGS MANUFACTURING

日本精工のタイ量産拠点。従業員数は534名。資本金5億B、年産1800万個(本社工場1000万個、第2工場800万個。この第2工場は1トンピックアップトラック用)の規模を持つ。日本精工が74.9%出資し、25.1%をタイ大手コングロマリット傘下のサイアムモーターが出資している。

主要納入先はトヨタ、いすゞなど現地日系自動車メーカー中心。設立の経緯が、タイをアジアや太平洋諸国への生産・輸出拠点とするとの戦略に基づくため、これらの供給基地としても機能。現在、生産ラインは30ライン保有するとされる。また自動車部品としてだけでなく、家電産業、機械産業のニーズの掘り起こしも視野に入れており、現在のHEV(ハイブリッド)、EV(電気自動車)の登場に伴う自動車向けベアリング需要の減少をかなり早い段階から予測していた模様。年産100億円強の生産規模を目指す。第3世代ホイールハブベアリングユニットの生産開始を予定。日本精工では以前から脱自動車の方向性も模索している。

NACHI TECHNOLOGY THAILAND

不二越のタイ生産拠点。71名前後。年間1800万個(二輪車用1480万個、エアコン60万個、トランスミッション及びホイール260万個)のベアリングの生産能力があるとされる。100%不二越による出資。主として二輪車向けのベアリングの生産が中心とされる。

JTEKT(THAILAND)(元KOYO MANUFACTURING THAILAND)

ジェイテクトのタイ拠点の一つ。2007年に改組(設立)されており、詳しい情報がまだ出ていないが、2007年以前のKOYO時代は従業員規模300〜466名。ニードルローラーベアリング、テーパーローラーベアリング、テンショナー、ハブユニット、ユニバーサルジョイントの生産拠点。アジア地域でのトヨタ増産の動きに呼応して設立。主な納入先は、トヨタ、三菱、いすゞ、ジェイテクト(日本。逆輸入)。売上規模は非公開だが、2004年の段階で1700百万バーツとのデータが残っている。数年前には100名規模の増員も報じられていた。

NMB-MINEBEA THAI LIMITED

製品の99%を海外で生産するミネベアだが、ここタイの拠点は同社の世界最大の生産基地。資本金153億B、従業員28000名超、投資規模も他社を大きく突き放し、このエリアでの先駆者の一社。3年で484億円を投資。熟練労働者の高い定着率や、政府との太いパイプを持つことでも知られる。大規模な反政府デモが発生した2010年春にも、夜間外出禁止令が出されたにもかかわらず、ミネベアの従業員は通勤用バスに通行許可が与えられ、工場が停止しなかった。最近ではカンボジアにモーターの量産工場を立ち上げ、同国で最初の精密分野の拠点を作っており、将来的にはここでのベアリングの生産も視野に入れている。

NRB BEARINGS(THAILAND)LTD

インドでニードルベアリングシェア70%を持つとされる大手メーカー。インド本体は1964年にフランスの大手ニードルベアリングメーカーであるNADELLA社と合弁で設立されたもの。2007年からタイにも製造拠点を作り、生産を行っている。従業員数は20名程度と発表されている。

PEER BEARING THAILAND

米国に本社を持つベアリングメーカー。SKFの傘下。タイ工場は2007年に設立。

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